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last Eden  作者: 久遠夏目
2008年
4/73

If tomorrow were the last day, what would you do?

「もし明日世界が終わるとしたら、あなたはどうする?」

「有り得ない」


 声のするほうを見ずに、尋ねられた質問をばっさりと斬ってやると、声の主――彼女は「だから『もし』の話よ」と、不満そうに口を尖らせた。

 それを聞いて、ぼくは読んでいた本を閉じ、ゆっくりと彼女のほうに顔を向ける。


「そうだな、君に殺されたい」

「あら、わたし、最後の日に人殺しになるの?」

「最後の日だからこそ、そういうことをしてみるんじゃないか。その日で世界が終わってしまうのなら、殺人犯になったって誰も咎めないし、咎める意味もないだろう?」

「ああ、確かにそうね。そういうのもアリかもしれないわ」


 くすり、と愉快そうにささやいて、彼女は共犯者めいた笑みを浮かべた。


「じゃあ、君はどうするの?」

「そうね、あなたと一緒に眠りたい」

「それは嫌だな」

「どうして?」

「だって、世界と一緒に死ぬなんて、世界に主導権を握られているみたいじゃないか」

「あら、世界と一緒に死ねるなんて、素敵じゃない」


 そうしてこぼれた彼女の笑みはとても生き生きとしていたが、まず明日世界が終わるとしたら、なんて有り得ないことを質問するのが間違っているし、それ以上に世界と一緒に死ぬのが素敵だ、なんてとてもおかしなことに思える。

 それなのに、そんなことをさらりと言ってのける彼女はまったく面白い。そう思って、くすりとぼくにも笑みがこぼれた。


「そうだな、気が向いたら一緒に眠ってあげるよ」

「あら、どういう風の吹き回しかしら」

「ただし、一分前になったら殺してくれるかい?」

「ふぅん、そういうこと?」

「一分前なら誰も気付かないさ。気付いたとしても、もう遅い。そもそも君、どういうシチュエーションでぼくを殺すつもりなんだい?」


 彼女が皮肉っぽい視線をよこしたので、ぼくは嫌味っぽく返してやった。

 すると、すぐにまた愉快そうな笑みを浮かべた彼女が口を開く。


「いいわ、わたしがあなたを殺してあげる」

「へえ、君こそどういう風の吹き回しかな」

「だって、一分前までは一緒に眠っていてくれるんでしょう?」


 こちらを見て、にこり、とキレイな笑みを咲かせる彼女。


「一分前にあなたを殺して、わたしは世界の終焉を見届けてからもう一度眠るわ」


 そのときは、ずっと手をつないでいてあげる、と言って、彼女はまた微笑んだ。ぼくも負けじと笑みを浮かべ、


「ああ、それは素敵だね」


 と答えると、二人きりの部屋にその乾いた声がむなしく響いた。

 そして、今日も世界は廻っている。


(もし明日が最後の日ならば、あなたは何をしますか?)




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