If tomorrow were the last day, what would you do?
「もし明日世界が終わるとしたら、あなたはどうする?」
「有り得ない」
声のするほうを見ずに、尋ねられた質問をばっさりと斬ってやると、声の主――彼女は「だから『もし』の話よ」と、不満そうに口を尖らせた。
それを聞いて、ぼくは読んでいた本を閉じ、ゆっくりと彼女のほうに顔を向ける。
「そうだな、君に殺されたい」
「あら、わたし、最後の日に人殺しになるの?」
「最後の日だからこそ、そういうことをしてみるんじゃないか。その日で世界が終わってしまうのなら、殺人犯になったって誰も咎めないし、咎める意味もないだろう?」
「ああ、確かにそうね。そういうのもアリかもしれないわ」
くすり、と愉快そうにささやいて、彼女は共犯者めいた笑みを浮かべた。
「じゃあ、君はどうするの?」
「そうね、あなたと一緒に眠りたい」
「それは嫌だな」
「どうして?」
「だって、世界と一緒に死ぬなんて、世界に主導権を握られているみたいじゃないか」
「あら、世界と一緒に死ねるなんて、素敵じゃない」
そうしてこぼれた彼女の笑みはとても生き生きとしていたが、まず明日世界が終わるとしたら、なんて有り得ないことを質問するのが間違っているし、それ以上に世界と一緒に死ぬのが素敵だ、なんてとてもおかしなことに思える。
それなのに、そんなことをさらりと言ってのける彼女はまったく面白い。そう思って、くすりとぼくにも笑みがこぼれた。
「そうだな、気が向いたら一緒に眠ってあげるよ」
「あら、どういう風の吹き回しかしら」
「ただし、一分前になったら殺してくれるかい?」
「ふぅん、そういうこと?」
「一分前なら誰も気付かないさ。気付いたとしても、もう遅い。そもそも君、どういうシチュエーションでぼくを殺すつもりなんだい?」
彼女が皮肉っぽい視線をよこしたので、ぼくは嫌味っぽく返してやった。
すると、すぐにまた愉快そうな笑みを浮かべた彼女が口を開く。
「いいわ、わたしがあなたを殺してあげる」
「へえ、君こそどういう風の吹き回しかな」
「だって、一分前までは一緒に眠っていてくれるんでしょう?」
こちらを見て、にこり、とキレイな笑みを咲かせる彼女。
「一分前にあなたを殺して、わたしは世界の終焉を見届けてからもう一度眠るわ」
そのときは、ずっと手をつないでいてあげる、と言って、彼女はまた微笑んだ。ぼくも負けじと笑みを浮かべ、
「ああ、それは素敵だね」
と答えると、二人きりの部屋にその乾いた声がむなしく響いた。
そして、今日も世界は廻っている。
(もし明日が最後の日ならば、あなたは何をしますか?)