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last Eden  作者: 久遠夏目
2009年
35/73

ぼくの幸福はぼくの中

「ねえ君、滑稽だとは思わないかい?」

「何が?」


 相手からの突然の問いかけに、ぼくはそう答えた。それが唯一の正しい答えであるはずはずなのに、


「この前告白されたんだ」

「ぼくの質問は無視ですか」

「そしたらこれがまったく可笑しな話でね」

「いやいや、君の話も十分おかしいよ。今までの会話が噛み合ってないってこと、わかってる?」

「十分噛み合ってるじゃないか。ぼくは関係のある話しかしないよ」


 ぼくの質問に対して、ようやく正しい答えが返ってきた。ぼくとしてはいまいち納得できていないのだけれど、彼は自信に満ちた笑みを浮かべ、先を続けた。


「ぼくが告白を断ったら、その女、なんて言ったと思う?」

「さあ? 何て言ったの?」

「『あなたを幸せにできるのは、わたししかいない』だってさ。自意識過剰もそこまでいくと尊敬するね。思わず笑ってしまったよ」


 くくっ、とのどを鳴らして愉快そうに笑う彼。確かにすごいセリフだとは思うけれど、相手の女ノコからしたら真剣な告白だっただろうに、目の前で笑うなんて鬼畜だなあ。


「それで? 君は何て答えたの?」

「『くだらない話はそれだけかい? サヨウナラ』」


 ――絶句。しかし、鬼畜に鬼畜を重ねたようなことをさらりと言ってのけた彼は、そのセリフによく似合う、とても冷酷な笑みを浮かべていた。

 この学校では、彼に告白した女ノコはこっぴどくフラれる、というのが定説化しているはずなのに、彼からよく話を聞く(というか聞かされる)せいか、告白の回数が減っているとは到底思えない。

 彼はこんなに人でなしなのに、どうしてそんなにモテるんだろう。やっぱり顔がいいからか? 人間顔か? 顔なのか?


「――ね? 滑稽だろう?」


 悶々と考えていたぼくは、その声ではっと我に返った。


「うん、よくわからないけど、とりあえず君が酷い人間だってことはよおっくわかったよ」

「酷いなあ、君は」

「いや、酷いのは君のほうだよね」

「それはさておき、滑稽だとは思わないかい?」

「何が? 君に告白してきた女ノコが?」

「ああ、正確には彼女の言ったことが、かな」


 やれやれ、と首を振る彼の言葉を思い返す。彼女の言ったこと、それはつまり――


「『あなたを幸せにできるのは、わたししかいない』?」

「ああ、そうさ」

「どこが? いいじゃないか。何かこう、引っぱってくれる感じ?」


 自分でも適当な、ふわっとした意見だなとは思ったけれど、幸せにしてくれると言っているなら、その言葉に甘えておけばいいのではないだろうか。

 ていうか、告白されている時点で幸せだと思うんですけど。まあこれは、モテない男のひがみだけど。


「ふぅん。本当にそう思う?」

「え?」

「もし君が誰かにそんな告白をされたら、本当に君はそれに同意するのかい?」


 こちらをのぞきこむ彼の目が真剣なものに変わる。その奥に何か冷たさのようなを感じ、ぼくは少し戸惑ってしまった。

 すると、彼はふい、と視線をそらし、くるり、とこちらに背を向けた。


「他人から与えられた幸せなんて、ニセモノだ。結局それはその人のエゴ、自己満足でしかない」

「そう、なのかなあ」

「自分の幸せくらい自分で見つけるさ。ぼくは自分の力で幸せになる。だって、幸福はぼくの中にあるものなんだからね」


 そう言って振り返った彼の笑みは、あふれんばかりの自信に満ちていた。

 自分の幸せは、自分の中にある――確かにぼくたちは、自分の力でにせよ他人からの力でにせよ、外から与えられたもので幸せになるだろう。でも、何かを「幸せだ」と感じるのは、「ぼくの心」なんだ。


「だから、彼女の言ったことが滑稽なの?」

「そうさ。ぼくに告白してそんなことを言っているヒマがあるのなら、自分の幸せをさがすほうがずっと有意義だと思うね」


 彼は呆れたように不平をこぼしたが、彼と付き合うことこそが「彼女の幸せ」だったのではないだろうか。そうとは思ったけれど、口には出さないでおいた。

 ぼくの幸せはぼくの中にある。ぼくも彼に「滑稽だ」と言われないように、有意義な時間を過ごすとしよう。




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