愛を叫べ!
「せーんーぱいっ」
わたしは、今日も戦っている。
「すきですっ。付き合ってくださ」
「ダーメ」
この、愛しいいとしい人と。
「何でですか! ていうかまだ最後まで言ってな」
「毎日毎日同じこと言われてもねえ。芸がないよ」
「芸!? わたしはそんなものを求められていたんですか? ていうか、早くも今日二回目?」
わたしは、一つ年上のこの先輩に一目ぼれをした。以来、毎日のようにアタックし続けているのだが、一向に脈ナシ。
でも、わたしは諦めなかった。
「毎回毎回言うようだけど、俺、彼女いるからね」
「ウソです」
「即答!?」
「毎回毎回言うようですが、一日中先輩を見ていても、女の影はどこにもありません!」
「ストーカーだよね、それ」
「何をおっしゃいますか。これは愛ですよ!」
エッヘン、と胸を張ると、先輩はげっそりしたカオで「あっそう」と吐き出した。
* * *
「せーんぱいっ」
そして、わたしは今日も戦う。
「すきですっ。付き合ってくだ」
「ヤダ」
「ヒドイっ! 昨日より一文字減りました!」
「よく覚えてるなあ」
素直に感心したように言って、くすくすと笑う先輩。わたしはこの笑顔がすきでたまらないのだ。
「先輩の彼女はどんな人なんですか?」
「君よりイイ女だよ」
「……そうですか」
何となくわかってはいたけれど、直接言われると結構ヘコむ。それを見た先輩は、わたしの頭にぽんっと手を置いた。
「でも、君もあと数年したらイイ女になるんじゃない?」
「ホントですか!? じゃあそしたらわたしと」
「それはない」
極上の笑顔で即答され、嬉しいやら哀しいやら、何とも複雑な気持ちだった。
* * *
「せんぱーいっ」
やはり、わたしは今日も変わらず戦う。
「すきですっ。付き合」
「君も懲りないねえ」
「日に日に文字数が減ってます……」
「もう、いい加減終わりにしようか」
「え」
顔を上げると、先輩は一つため息をついた。それを見て、得体の知れない不安が一気に押し寄せてくる。
「俺の彼女はね、二年前に死んだんだ」
頭を殴られたような衝撃とは、こういうことを言うのだろうか。何とも言えない感情が胸いっぱいに広がって、わたしは無意識のうちに制服のリボンをぎゅ、と握りしめていた。
「でも、俺は今でも彼女を愛してる。彼女を忘れるなんてムリだし、彼女以外の人なんて考えられないんだ」
昨日と同様にぽん、と頭の上に手を置かれたけれど、見上げればそこにあったのは、昨日とはまったく違う、先輩の哀しそうな笑顔。
「だから、もうあきらめて?」
そうして先輩は去っていった。
その場に残されたわたしは力なくつぶやく。
「……死んだ人には、勝てないよ……」
こぼれ落ちそうになった涙をぐっとこらえる。死んでもなお、先輩の心を縛る人はどれだけイイ女だったのだろう。彼女が死んだ人だなんて勝てるわけがない。
――でも、それでもわたしは。
* * *
「せーんぱいっ」
それでも、わたしは戦い続ける。
「すきですっ。付き合ってくださいっ」
「……ダメ」
「ええー? ヒドイです! ってアレ?」
「何?」
「今日は最後まで聞いてくれましたね!」
たったそれだけのことが嬉しくて破顔すると、先輩ははっとしたように目を大きく見開いた。
「……君があまりにもしつこいからね」
「ヒドイです!!」
わたしは、今日も戦う。
「せんぱいっ」
「……なーに?」
わたしのために。
そして、
「大すきですっ!」
この、愛しいいとしい人のために。
「生きてる人間には敵わないなあ……」
先輩がそうつぶやいていたのを、わたしは知らない。




