表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
last Eden  作者: 久遠夏目
2009年
31/73

愛を叫べ!

「せーんーぱいっ」


 わたしは、今日も戦っている。


「すきですっ。付き合ってくださ」

「ダーメ」


 この、愛しいいとしい人と。


「何でですか! ていうかまだ最後まで言ってな」

「毎日毎日同じこと言われてもねえ。芸がないよ」

「芸!? わたしはそんなものを求められていたんですか? ていうか、早くも今日二回目?」


 わたしは、一つ年上のこの先輩に一目ぼれをした。以来、毎日のようにアタックし続けているのだが、一向に脈ナシ。

 でも、わたしは諦めなかった。


「毎回毎回言うようだけど、俺、彼女いるからね」

「ウソです」

「即答!?」

「毎回毎回言うようですが、一日中先輩を見ていても、女の影はどこにもありません!」

「ストーカーだよね、それ」

「何をおっしゃいますか。これは愛ですよ!」


 エッヘン、と胸を張ると、先輩はげっそりしたカオで「あっそう」と吐き出した。


       * * *


「せーんぱいっ」


 そして、わたしは今日も戦う。


「すきですっ。付き合ってくだ」

「ヤダ」

「ヒドイっ! 昨日より一文字減りました!」

「よく覚えてるなあ」


 素直に感心したように言って、くすくすと笑う先輩。わたしはこの笑顔がすきでたまらないのだ。


「先輩の彼女はどんな人なんですか?」

「君よりイイ女だよ」

「……そうですか」


 何となくわかってはいたけれど、直接言われると結構ヘコむ。それを見た先輩は、わたしの頭にぽんっと手を置いた。


「でも、君もあと数年したらイイ女になるんじゃない?」

「ホントですか!? じゃあそしたらわたしと」

「それはない」


 極上の笑顔で即答され、嬉しいやら哀しいやら、何とも複雑な気持ちだった。


       * * *


「せんぱーいっ」


 やはり、わたしは今日も変わらず戦う。


「すきですっ。付き合」

「君も懲りないねえ」

「日に日に文字数が減ってます……」

「もう、いい加減終わりにしようか」

「え」


 顔を上げると、先輩は一つため息をついた。それを見て、得体の知れない不安が一気に押し寄せてくる。


「俺の彼女はね、二年前に死んだんだ」


 頭を殴られたような衝撃とは、こういうことを言うのだろうか。何とも言えない感情が胸いっぱいに広がって、わたしは無意識のうちに制服のリボンをぎゅ、と握りしめていた。


「でも、俺は今でも彼女を愛してる。彼女を忘れるなんてムリだし、彼女以外の人なんて考えられないんだ」


 昨日と同様にぽん、と頭の上に手を置かれたけれど、見上げればそこにあったのは、昨日とはまったく違う、先輩の哀しそうな笑顔。


「だから、もうあきらめて?」


 そうして先輩は去っていった。

 その場に残されたわたしは力なくつぶやく。


「……死んだ人には、勝てないよ……」


 こぼれ落ちそうになった涙をぐっとこらえる。死んでもなお、先輩の心を縛る人はどれだけイイ女だったのだろう。彼女が死んだ人だなんて勝てるわけがない。

 ――でも、それでもわたしは。


       * * *


「せーんぱいっ」


 それでも、わたしは戦い続ける。


「すきですっ。付き合ってくださいっ」

「……ダメ」

「ええー? ヒドイです! ってアレ?」

「何?」

「今日は最後まで聞いてくれましたね!」


 たったそれだけのことが嬉しくて破顔すると、先輩ははっとしたように目を大きく見開いた。


「……君があまりにもしつこいからね」

「ヒドイです!!」


 わたしは、今日も戦う。


「せんぱいっ」

「……なーに?」


 わたしのために。

 そして、


「大すきですっ!」


 この、愛しいいとしい人のために。


「生きてる人間には敵わないなあ……」


 先輩がそうつぶやいていたのを、わたしは知らない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ