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last Eden  作者: 久遠夏目
2008年
3/73

世界の存在理由はここにある

「ねえ、君は世界の存在理由って何だと思う?」


 ああ、またこの男は――そう思ってため息をつく。まったく、いきなり何を言い出すのだろうか。こんなことは今に始まったことではないけれど、彼の思考は理解不能だ。


「君はどう思うの?」


 ぼくが逆に聞き返すと、彼はにっと不敵な笑みを浮かべた。


「ぼくは世界に存在理由なんてないと思うよ」

「へえ、どうして?」

「わからない」

「は?」


 不覚にも間抜けな声を出してしまったが、人に質問しておいて自分の答えは用意しておらず、さらには根拠となる理由もわからないなんて、無責任ではないだろうか。

 まあ、答えがわからないから他人に聞いたのかもしれないけれど、少しは考えていてほしい。笑顔で即答だなんて、まったく、やっぱり彼は理解不能、いや、予測不可能だ。

 そんなことを考えていると、彼はもう一度こう尋ねてきた。


「ねえ、君は世界の存在理由って何だと思う?」

「さあ?」

「ほら、わからないだろう?」


 勝ち誇ったような口調にむっとして眉をひそめたが、それを見た彼はにやりとさらに意地悪く口角を上げて先を続けた。


「わからないってことは、ないってことなんだよ。世界に存在理由がないってことは、ぼくらが存在する意味もないってことだろう?」


 ああ、そういうことか。彼はこの世界が嫌いだ。もっとも、一番嫌いなのは彼自身、つまり自分なのだけれど。だから、彼は何かにつけて、世界の存在もろとも自分の存在を否定しようとするのだ。

 だけど、


「そうだね、それも一理あるかな」

「それ、も?」


 ぼくの発言に、怪訝そうに眉根をよせる彼。それに対して、今度はぼくが勝ち誇ったように笑ってみせた。


「確かに世界の存在理由なんてないかもしれない。でも、」


 君が世界を否定するのなら、ぼくはその考えごと否定してあげよう。


「『ぼくがここにいる』。世界の存在理由なんて、それで十分だろう?」


 そう、主導権はぼくが握っている。世界があってぼくが存在するのではなく、ぼくがいて世界が存在するのだ。


「ははっ、君だけだよ、そんなこと言うの」

「そう?」


 そうだよ、と彼はつぶやいた。その表情は、さっきより少しだけ穏やかに微笑んでいるように見えた。




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