世界の存在理由はここにある
「ねえ、君は世界の存在理由って何だと思う?」
ああ、またこの男は――そう思ってため息をつく。まったく、いきなり何を言い出すのだろうか。こんなことは今に始まったことではないけれど、彼の思考は理解不能だ。
「君はどう思うの?」
ぼくが逆に聞き返すと、彼はにっと不敵な笑みを浮かべた。
「ぼくは世界に存在理由なんてないと思うよ」
「へえ、どうして?」
「わからない」
「は?」
不覚にも間抜けな声を出してしまったが、人に質問しておいて自分の答えは用意しておらず、さらには根拠となる理由もわからないなんて、無責任ではないだろうか。
まあ、答えがわからないから他人に聞いたのかもしれないけれど、少しは考えていてほしい。笑顔で即答だなんて、まったく、やっぱり彼は理解不能、いや、予測不可能だ。
そんなことを考えていると、彼はもう一度こう尋ねてきた。
「ねえ、君は世界の存在理由って何だと思う?」
「さあ?」
「ほら、わからないだろう?」
勝ち誇ったような口調にむっとして眉をひそめたが、それを見た彼はにやりとさらに意地悪く口角を上げて先を続けた。
「わからないってことは、ないってことなんだよ。世界に存在理由がないってことは、ぼくらが存在する意味もないってことだろう?」
ああ、そういうことか。彼はこの世界が嫌いだ。もっとも、一番嫌いなのは彼自身、つまり自分なのだけれど。だから、彼は何かにつけて、世界の存在もろとも自分の存在を否定しようとするのだ。
だけど、
「そうだね、それも一理あるかな」
「それ、も?」
ぼくの発言に、怪訝そうに眉根をよせる彼。それに対して、今度はぼくが勝ち誇ったように笑ってみせた。
「確かに世界の存在理由なんてないかもしれない。でも、」
君が世界を否定するのなら、ぼくはその考えごと否定してあげよう。
「『ぼくがここにいる』。世界の存在理由なんて、それで十分だろう?」
そう、主導権はぼくが握っている。世界があってぼくが存在するのではなく、ぼくがいて世界が存在するのだ。
「ははっ、君だけだよ、そんなこと言うの」
「そう?」
そうだよ、と彼はつぶやいた。その表情は、さっきより少しだけ穏やかに微笑んでいるように見えた。