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last Eden  作者: 久遠夏目
2009年
28/73

不機嫌な彼女の嫌いな人

「子供が、キライ?」

「は? 何だ、急に」


 ぼくの突然の質問に、こちらを振り向いた彼女のキレイな顔が歪む。もったいないな、と思う反面、しかめっ面でもキレイだと思えるからすごいな、とも思った。

 そんなことを考えながら、ぼくは彼女の質問に答える。


「だって、すごいカオであの子供のこと見てたから」

「どんなカオ?」

「こんなカオ」

「……そんなに酷かったか?」


 少し離れたところにいた子供(おそらく三、四才くらいだろうか)をちら、と一瞥してから、先ほどの彼女のカオを実演してみせると、それ見た彼女のキレイな顔がますます歪んだ。うーん、やっぱりもったいない。


「なーんてね。ここまで酷くはなかったよ」

「オイ」


 低くツッコミを入れた今のほうがもっと酷いカオをしていたので、ぼくは我慢できずに吹き出してしまった。


「あはは、ごめんごめん。でも、子供はキライでしょう?」

「……すきではない」

「どうして?」


 ぼくが彼女の顔をのぞきこむと、彼女はふい、と目をそらしてしまった。しかし、それは答えたくないという拒絶ではなかったらしく、


「うるさいから。人の迷惑も考えずに泣き叫んで、人の迷惑も考えずに騒ぐ」


 と、すぐに答えてくれた。その声からは、確かにイラついた感情がうかがえる。

 でも、


「あのくらいの子供は人の迷惑なんて考えられないと思うけどなあ。それに、君にもそんな時期があったわけだし」

「当たり前だ。でも、今、ここにいるわたしは泣き叫んでもいないし、騒いでもいない」

「うーん、一見正論のようだけど、それってつまりはヘリクツだよね?」

「わたしは事実を述べたまでだ」

「ふぅん?」

「確かにわたしは子供が嫌いだ。だけど、」


 彼女は一度そこで言葉を切ってから、ぐるり、と顔をこちらに向けた。真っ直ぐな瞳がぼくを捉えた次の瞬間、その口から放たれたのは、


「お前のほうが、もっと嫌いだ」


 あまりにストレートな言葉に、ぼくは思わず目をぱちくりと瞬かせてしまった。


「うわあ、直球ぅ」

「うるさい」


 ぶっきらぼうに吐き捨てて、またふいっとそっぽを向いてしまった彼女。うーん、そんなに嫌われてたなんて、心外だなあ。というか、すごく哀しい。

 だから、普通ならここで落ちこむはずなのだが(いや、今でも一応落ちこんではいるのだけれど)、ぼくの中には少し違う感情が生まれていた。


「ねえ」

「今度は何――」


 声をかけられた彼女がこちらを向くと同時に、すっと自分の顔を彼女の顔に近づける。目の前には、彼女のキレイな顔。刹那、その目が大きく見開かれた。それもそのはず、ぼくと彼女の距離は、ほぼゼロなのだから。つまり、ぼくは今、彼女にキスをしているのだ。

 瞬間的な、軽く触れるようなキスだったけれど、その感触は確かにあった。それを彼女もしっかりと感じていたらしく、ぼくが離れてからも固まっていた彼女に向かって、ぼくはにっと笑って見せた。


「ごちそーさま」

「……な、に、をやっているんだ、お前は!」

「だってさ、ぼくはこんなに君のことがすきなのに、君がぼくのことを嫌いなんて言うから哀しくなっちゃって」

「哀しくなったらキスしていいのか?」

「ヘリクツかな?」


 そう聞くと、今日一番の歪んだカオが返ってきた。まあ、たまにはそんなカオも良いと思うんだけど。


「知るか」


 彼女がそう吐き捨てたと同時にちょうど駅に着いたらしく、彼女はさっさと電車を降りていってしまった。もちろん、ぼくはそれについていく。

 そのとき、彼女の耳が赤く染まっていたのを、ぼくは見逃さなかった。




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