どうか、終焉に淡い夢を
「君は、何か一つのためにすべてを捨てられる?」
「もちろん」
ヒマつぶしに冗談半分で目の前にいる彼に聞いてみると、以外にも即答だった。あまりにも自信たっぷりと言い放つ彼に興味を持ち、ぼくはさらに突っこんだ質問をしてみる。
「たとえば?」
「たとえば? そうだね――」
彼はあごに指をかけてうーん、と考えるポーズをとるかと思いきや、すぐにこちらを向いてにこり、と笑った。
「愛、とかね」
その答えに、ぼくは盛大なため息をこぼし、肩をすくめて首を横に振った。何だ、そんなことか。面白くないな。
「恋愛感情なんて幻想じゃないか。そんなもののためにすべてを捨てるなんて、ぼくには考えられないね」
「君から聞いてきたくせに、失礼だな。じゃあ、君は何のためならすべてを捨てられるっていうのさ?」
不満そうなカオをして、同じ質問をぼくに投げかけてくる彼。ぼくが何のためにすべてを捨てられるか? ああ、そんなの愚問だよ。
「――自分の死、さ。自分がこの世からキレイになくなるのなら、ぼくはすべてを捨てられる。喜んで命だって投げ出そう」
「それ、ホントに『捨て身』だね」
「あんまり面白くないね」
ぼくがそう評価すると、君が言ったんじゃないか、と彼は少し怒ったようだったが、すぐに表情を変えて次の質問をしてきた。
「それにしても君、死にたかったの?」
「まあね」
「でも、死んでどうするの?」
まったく、彼の質問は愚問ばかりだ。死んでどうするか、なんて決まっているじゃないか。
「どうもしないよ。ただ、キレイに消えてなくなるだけ」
「ふぅん。でも、それも幻想かもしれないよ。もしかしたら天国も地獄もないかもしれない」
「それが仮定なら、逆に天国も地獄もあるかもしれないじゃないか」
「へえ、君、そんなもの信じてたんだ」
意外だね。そう言って、くすくすと笑う彼。ちょっと心外だな。
もしかして、さっきの彼はこんな気持ちだったのだろうか。それならば、少し悪いことをしたかもしれない。
「仮定の話だよ。それくらい死に夢を持ったっていいだろう?」
「死に夢を持つ人なんて、君くらいしかいないよ」
「どうして? 死は誰にでも等しく訪れるのに」
これは避けられない事実であり、永遠不変の真実だ。
「人間の行き着く先は、死だ。それなら、その最後を楽しむことだって有りだろう?」
ぼくがそう言うと、彼は眉間にしわを寄せて、そのあと、困ったようなカオで笑った。
「よく、わからないな」
「だろうね。残念だけど、君の言うとおりだったみたいだ」
「え?」
「死に夢を持つ人間なんて、」
ぼくくらいしかいないよ。そう言って、ぼくは微笑んだ。
死に先に何が待っているのかは、誰にもわからない。だけど、だからこそ、そこに何を思い描くかは個人の自由だろう。だから、ぼくは死に夢を持つ。それが、確かめようのない儚いものだったとしても。
さあ、どうか終焉に淡い夢を。




