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淡い春の記憶
「きれいだね」
「ええ、そうね」
ふわり、彼女は微笑む。ぼくらは今、桜並木と呼ぶのにふさわしい道を歩いていた。きれいだね、と言ったのはもちろん桜のこと。
でも、そうね、と言った彼女も桜に負けず劣らずきれいだった。横顔を盗み見て、そんな感想を心に浮かべる。
「君は、桜がすき?」
「そうね、きれいなものはすきよ」
「桜は、きれい?」
「ええ、とても。あなたも、そう思うでしょう?」
ふわり、彼女はまた微笑んだ。彼女はきれいだ。外見もそうだけど、きっと内面も――そう、彼女はきっと心がきれいなんだ。
当たり前のようなことに今さら気付き、ぼくにも自然と笑みがこぼれる。
「どうしたの?」
「ううん、きれいだな、と思って」
「桜が?」
「うん。桜も、君も――」
ふわり、桜の花びらが舞う。あまりの桜吹雪に閉じていた目を開けると、そこに彼女はいなかった。
あれはユウレイか、はたまた桜の精霊か。どちらにせよ、それはもう二度と戻ることのない、淡い春の記憶。




