世界の終焉でワルツを
彼女――ぼくの友人の恋人であり、ぼく自身とも友人であった彼女が、死んだ。不慮の事故、だった。
大切な友人との突然な別れはあまりにも理不尽だと思っていたけれど、時間の経過とともにその哀しみは薄れていった。ぼくが薄情なのか、それとも、人間はそういうふうにできているのか。
どちらにせよ、ぼくは早くも彼女が死ぬまでと何一つ変わらない日常を送ろうとしていたのだった。
* * *
ある日の夕方、リビングに置きっぱなしにしていた携帯電話が振動していることに気付く。ウィンドウに表示されていた友人の名前を見て、ぼくは急いで通話ボタンを押した。
「もしもし? 君、大丈夫なの?」
開口一番でこんなことを聞いたのには、もちろんわけがある。彼は、彼女が亡くなってからずっとふさぎこんでおり、ぼくが部屋に行っても会ってくれなかったので、今どのような状態なのか、まったく把握することができずにいたのだ。
それなのに、突然向こうから電話をかけてくるなんて。少し安心もしたけれど、同時に嫌な予感が頭をよぎった。しかし、
『ああ、元気だよ。君に、お願いがあって電話をしたんだ』
「お願い?」
ぼくの予想に反して、思ったよりも元気そうな声で言葉を紡ぐ彼。そしてそのお願いとは、自分の部屋に来てほしいという、何とも単純なことだった。ただし、その理由は教えてもらえなかったけれど。
それでも、彼から招いてくれたのだ。それなら、まずは彼と会うことが最優先だろう。理由はそちらに着いてから教えてもらえばいい。そう結論を出し、ぼくは急いで彼のマンションへと向かった。
* * *
「やあ、久しぶりだね」
ぼくを部屋に迎え入れ、その言葉通り久しぶりに顔を合わせた彼は、以前と変わらぬ穏やかな笑み浮かべていた。電話で聞いた声と同様に、思ったよりも元気そうだ。
リビングに案内され、向かい合うようにしてソファーに腰を下ろすと、ぼくが何かを言うよりも先に、彼が口を開いた。
「彼女を殺したのは、ぼくだよ」
「、え?」
ぼくは一瞬、言われたことを理解できなかった。だって、彼女は事故で死んだはずで――いや、正確にはそう聞いていただけ、だった。あのとき、ぼくはどうしても外せない用事があり、病院には行けなかったので、彼女の死体と初めて対面したのは通夜だったのだ。
「大丈夫?」
呆然とするぼくを心配する声が聞こえ、はっと我に返る。ダメだ、ここは冷静にならなくては。もし、彼の言ったことが本当だとするならば、ぼくが今、口にするべきことは一つだけだ。
「どうして、殺したの?」
頑張ったつもりだが少し震えてしまった声で、基本的かつ一番重要な疑問をぶつける。自覚はないけれど、もしかしたらにらみつけるような目をしていたかもしれないぼくを見て、彼はにこり、と笑った。それはもう、とてもキレイに。
「ぼくは、彼女を愛しすぎてしまったんだ」
「答えになってないよ」
「いや、これが答えさ。ぼくは彼女がすきだった。だから、彼女を自分だけのものにしたかった。ぼくは、彼女との『永遠』がほしかったんだ」
「それで、殺したの……?」
「そうだよ」
悪びれる様子もなく、彼は話を続ける。
「だって、あの世のほうが『永遠』に近いと思わないかい?」
そう語る彼のカオはどこまでも穏やかで。まるで常識を諭すような口調に、ぼくのほうが間違っているのかと思ってしまうくらいだ。
しかし、刹那、彼はどこから取り出したのか、手に持っていた銃を自分のこめかみに当て、ぼくが止める間もなくその引き金を引いた。ドサリ、と身体が倒れる音と同時に、飛び散る緋色の鮮血がぼくのほおをかする。
――ねえ、あの世のほうが「永遠」に近いだなんて、誰が言ったの? たとえそうだとしても、あの世でまた逢えるとは限らないだろう?
そう頭では思っていても、目の前に横たわる彼の亡骸と、部屋に飾ってあった彼女の写真を見て、二人があの世でまた逢えることを願わずにはいられなかった。
ぼくのほおを一筋、紅い涙が流れ落ちた。




