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last Eden  作者: 久遠夏目
2008年
23/73

クウソウラプソディー

 クウソウって素敵だと思わない? と彼女は言った。


「ねえ、ぼくが死んだら、君はぼくの骨を拾ってくれる?」


 突然こんなことを尋ねたからといって、ぼくには死にたいという願望があるわけではない。ただ、ふと思いついたので聞いてみただけであって、特に深い意味もなかった。しかし、


「どうかしら。もしかしたら、わたしのほうが先に死んでしまうかもしれないもの」


 あっさりとその話に乗って、あまつさえ縁起でもないことをさらりと言ってのける彼女は、いっそ清々しい。その潔さに好感を覚えた。


「そのとき、あなたはわたしの骨を拾ってくれるのかしら?」

「もちろん」

「ふふ、嬉しいわ」

「それから、遺灰を空にまいてあげるよ」

「え?」

「だって君、言ってただろう?」


 驚いたようなカオをこちらに向けた彼女に対して、ぼくはふ、と笑みをこぼし、いつか交わした会話を思い浮かべていた。


(クウソウって素敵だと思わない?)

(空想? 君に妄想癖があったなんて知らなかったよ)

(違うわよ。空に葬ると書いて『空葬』。風を感じて空と一緒に生きる。素敵でしょう?)

(その時点で生きてはいないけどね。しかも、空に葬る前に灰にしなきゃいけないから、火葬もしなきゃいけないしね)

(まったく、夢を壊すようなこと言わないでほしいわ)


 そう、彼女は言っていた。「クウソウ」とは「空葬」と書くらしく、「風葬」とは言わないあたりが彼女らしいと思ったものだ。まあそんな考えは、結局「空想」に変わりはない気もするのだけれど。


「まさか覚えていてくれるなんて、少し意外だわ」

「失礼だな。でも、とても興味深い話だったからね」


 ふぅん、とつぶやいた彼女の声色には、じゃあ、ほかのことには興味がないのね、とでも言いたそうなトーンが含まれていて。少し細められた彼女の目を見て、ぼくは小さく肩をすくめた。


「だから、もし君のほうが先に死んだら、ぼくは君の骨を拾って、遺灰を空にまいてあげるよ。君が空と一緒に生きられるように、ぼくが風と一緒に君を感じられるように」


 でも、本音を言うならば、ぼくは彼女が大すきだから、彼女が先に死ぬなんて考えられないけれど。


「それは素敵ね。もしあなたが先に死んだらわたしもそうするわ。でも、わたしはあなたのことが大すきだから、そんなこと考えられないけどね」


 へえ、以心伝心とはこのことか。まったく、彼女もぼくと同じことを考えていたなんて、


「光栄だね」


 ぼくがそう言うと、彼女はやさしく微笑んだ。




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