自己中心的世界の廻し方
「君は、世界を支配しているものって何だと思う?」
「人間、かな」
ぼくの唐突な質問に、読書をしながらさらりと答える彼。自分から質問しておいてなんだが、それって結構すごいことだよなあと感心してしまった。
「さすがだね。半分アタリ」
「半分?」
ぼくがそう答えると、それは予想していなかったのか、彼は読んでいた本から視線を離し、怪訝そうなカオをこちらに向けた。その表情に満足しながら、ぼくは先を続ける。
「そう。確かに世界を支配しているのは人間だよ。でも、もっと正確に言うのなら、人間の『欲望』だと思わない?」
ああ、そういうこと、と言いながら彼は再び視線を本に戻し、ぺらり、とページをめくった。どうやらこれに関しては想定の範囲内というか、彼にとっても納得できる答えだったようだ。
「人間の欲望ってオソロシイよね。この世界でさえ支配してしまうんだから」
そう、この世界は人間の欲望で廻っている。生きることに必死で、ささやかな幸せを願っていただけなはずなのに、豊かになったこの世界は汚い欲望を生んでしまった。
「そして、その汚い欲望を持った人間が世界を支配しているんだろう?」
ぱたん、という音に視線を向ければ、彼が本を閉じてゆっくりとこちらを振り返るところだった。
「そうだね。でも、ぼくはそれが悪いことだとは思わないんだ」
「どうして?」
「ただ生きたいという願いはそれを叶え、そこからできた余裕は豊かさを生んだ。そして、それが今のぼくたちの生活につながっている。人間の欲望は、人間の願いだからね」
時に欲望は人間を成長させる。欲望というから悪く聞こえるのだが、欲望はつまり、「願い」なのだ。
「でも、その代償に大きな犠牲を払っている」
この生活にたどり着くまでに、いや、今もたくさんの犠牲を払っている。それは哀しいことだけど、失敗なしに成功が有り得ないように、犠牲なしに今の生活は有り得ないだろう。
すると、何がおかしかったのか、彼はふ、と薄い笑みを浮かべた。
「人間は愚かだね」
「どうして?」
「この世界を支配しているのが人間とはいえ、すべてを支配している気になっているんだから」
「君がこの世を支配しているのは人間だって言ったんじゃなかったっけ?」
「ああ、言ったよ。でも、本当に世界を支配しているのは神様さ」
神様。唐突な単語にぼくが口を尖らせる一方で、不敵に口角を上げる彼。まったく、何がそんなに面白いというのだろう。
「神様ねえ。それも、人間の欲望が創ったものだとしても?」
「ああ、もちろん。それでも、この世を支配しているのは、神様なんだよ。人間の欲望から生まれたものだとしても、その人間すらも創ったものとして崇められているんだから」
世界を支配しているのは人間で、人間の欲望で、その欲望から生まれた神様だなんて、何て、滑稽な物語。




