廻転矛盾
死にたいけど、死にたくない。
死にたくないけど、生きたくない。
生きたくないけど、逝きたくない。
ああ、思春期って複雑だね。
「それ、もう思春期とか関係なくない?」
どうやら彼には心の声が伝わるらしい――というのはウソで、ぼくの心の声は本当の声として実際に口に出ていたらしい。
「じゃあ、青年期?」
「そういう問題じゃないよね」
「あはは、そうだね」
思春期とか青年期とかそんなものに関係なく、人はいつだって、唐突に、そして色んな理由で死にたくなるものだ。もちろん、明確な理由がない場合もあるだろう。
「死はいつか誰にだって平等に訪れるのに、君はどうしてそんなに死に急ぐんだい?」
「うーん、別に死にたいわけじゃないよ」
「じゃあ、」
「でも、生きたくもない」
ぼくの矛盾した答えに、彼は思いっきり眉間にシワを寄せたかと思うと、呆れたようにため息をついた。
「よくわからないな。結局君はどうしたいの?」
「さあ? それ、ぼくが一番よくわからないんだ」
死にたいけど、死にたくない。
死にたくないけど、生きたくない。
生きたくないけど、逝きたくない。
ああ、こんなの矛盾している。結局ぼくはどうしたいんだろう。
「――確かに、世界は矛盾だらけだね」
もう一度持論をくり返したぼくに対して、ぽつり、と彼がつぶやく。その口からこぼれた言葉は、初めてぼくの意見に賛同するものだった。
「やっとわかってくれた?」
「ああ、ぼくも同じだよ。人間なんて嫌いだから、誰よりも孤独を望んでいるはずなのに、やっぱり独りは嫌だって、誰よりもぬくもりを求めているんだ」
「やっぱり思春期って複雑だね」
「だから――」
そう言いかけて、彼は言葉を止めた。きっと「それは思春期とは関係ない」とでも続けるつもりだったのだろう。やがて、彼はとてもおかしそうに、ふ、と笑みをこぼした。
「ああ、君の言うとおりかもね」
「何が?」
「世界は矛盾で成り立っている、ってこと」
「でしょ? でもさ、それすらもが」
――矛盾。




