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last Eden  作者: 久遠夏目
2008年
21/73

廻転矛盾

 死にたいけど、死にたくない。

 死にたくないけど、生きたくない。

 生きたくないけど、逝きたくない。

 ああ、思春期って複雑だね。


「それ、もう思春期とか関係なくない?」


 どうやら彼には心の声が伝わるらしい――というのはウソで、ぼくの心の声は本当の声として実際に口に出ていたらしい。


「じゃあ、青年期?」

「そういう問題じゃないよね」

「あはは、そうだね」


 思春期とか青年期とかそんなものに関係なく、人はいつだって、唐突に、そして色んな理由で死にたくなるものだ。もちろん、明確な理由がない場合もあるだろう。


「死はいつか誰にだって平等に訪れるのに、君はどうしてそんなに死に急ぐんだい?」

「うーん、別に死にたいわけじゃないよ」

「じゃあ、」

「でも、生きたくもない」


 ぼくの矛盾した答えに、彼は思いっきり眉間にシワを寄せたかと思うと、呆れたようにため息をついた。


「よくわからないな。結局君はどうしたいの?」

「さあ? それ、ぼくが一番よくわからないんだ」


 死にたいけど、死にたくない。

 死にたくないけど、生きたくない。

 生きたくないけど、逝きたくない。

 ああ、こんなの矛盾している。結局ぼくはどうしたいんだろう。


「――確かに、世界は矛盾だらけだね」


 もう一度持論をくり返したぼくに対して、ぽつり、と彼がつぶやく。その口からこぼれた言葉は、初めてぼくの意見に賛同するものだった。


「やっとわかってくれた?」

「ああ、ぼくも同じだよ。人間なんて嫌いだから、誰よりも孤独を望んでいるはずなのに、やっぱり独りは嫌だって、誰よりもぬくもりを求めているんだ」

「やっぱり思春期って複雑だね」

「だから――」


 そう言いかけて、彼は言葉を止めた。きっと「それは思春期とは関係ない」とでも続けるつもりだったのだろう。やがて、彼はとてもおかしそうに、ふ、と笑みをこぼした。


「ああ、君の言うとおりかもね」

「何が?」

「世界は矛盾で成り立っている、ってこと」

「でしょ? でもさ、それすらもが」


 ――矛盾。




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