世界で一番残酷な、
神様はこの世で一番残酷なのだと、誰かが言っていた。
「ねえ、君はこの世で一番残酷なものって何だと思う?」
彼の質問はいつも唐突だが、それが彼のやり方であり、何度注意しても直らないということをぼくは知っていた。ので、驚くからやめてよ、などと文句一つ言わずに、さっさとその質問の答えに思考を傾ける。
「世界で一番残酷なもの、ねえ」
「そう。それは物質的な『物』でもあるし、人間という意味で『者』でもある」
うん、それは一理ある。彼の補足にうなずきながら、ぼくは答えを探し続けた。そして、
「そうだな、『物』なら武器かな。あんなに大量に人を殺す残酷な『物』はほかにないからね」
「ならば、それを発明して、使った人間が一番残酷だということにはならないだろうか」
「ああ、そうだね。人間ほど愚かで滑稽で、そして残酷な『者』はいないね」
ぼくが彼に同意してそう応えると、彼はにこりと笑った。
「ああ、いや、君がこの世で一番残酷かもね」
「心外だな。どうしてそうなるんだい?」
「でも、この世で一番残酷なのは、神様かな」
苦笑するぼくの質問には答えずに、違う話をし始める彼。それもいつものことだった。
「神様は『モノ』って言えるの?」
「さあ、どうだろうね? でも、神様が人間やほかの生き物を創り出さなかったら――ううん、この世界さえも創らなかったら、人間も、武器も、残酷な『モノ』なんて何も生まれなかったのにね」
にこり、と笑った彼は、すごいことを普通に言った気がする。彼は、神様を信じているのだろうか。――ああ、信じているからそんなことが言えるのか。
「ねえ、神様がこの世で一番残酷なら、あの世へ逝ったらどうなるのかな? もっと残酷なのか、それとも、この残酷さから逃げられるのか。まあ、死んでみなきゃわからないだろうけれど」
今度は子供のようにイタズラっぽく笑う彼。こういうときの彼は、とても生き生きして楽しそうだった。
「あの世なんてあるのかな?」
「おや、君は信じていないのかい?」
「うーん、神様自体あんまり信じてないからなあ」
「神様はいるよ。だってこの世で一番残酷だから、ね」
それは「神様がいる」という直接的な根拠にならないのではないだろうか。それに、神様がこの世で一番残酷だからいる、というのは、この世で起こるすべての残酷なことを神様のせいにしているみたいで嫌だ。
まあ、神様がこの世界や人間を創らなかったらそんなことは起こらないわけで、やっぱりこの世で一番残酷なのは神様なのかもしれない。
だけど、
「あの世がどうかは知らないけど、きっとこの世で一番残酷なのは、君だろうね」
「酷いなあ。まったく、」
やっぱり、一番残酷なのは君だよ、と彼は笑った。




