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last Eden  作者: 久遠夏目
2008年
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胡蝶の夢

「ねえ、『世界』って何だと思う?」


 静かな部屋の中で、彼は突然そう言った。

 世界、ねえ。


「さあ? この世に絶対的な定義なんて、存在しないんじゃないかな」


 ましてや「世界」なんてものは。

 そう答えると、彼は少し考えてからまた口を開いた。


「じゃあ、『世界』って本当にあるのかな?」


 彼の話はいつも突拍子がなくて困る。まったく、一度彼の頭の中を見てみたいものだ。そう思って、ぼくはため息をついた。


「君の言う『世界』って何? 君はどこまで『世界』を否定するの?」

「じゃあ、君の考える『世界』って何? 君は本当に『世界』があると思うの?」


 ぼくの口調をそっくりに真似て、質問を返してくる彼。ああ言えばこう言うなんて、ヘリクツだ。

 うんざりしかけたぼくをよそに、さらに彼はこう続けた。


「『世界』ほど不安定で曖昧なものはないよ。自分の世界? この地球? それとも宇宙全体? まず範囲がわからない。それ以前に、ぼくは自分の目に映るものさえ信じていない。――いや、信じられないんだ」


 だって、ぼくは自分の存在さえ疑っているからね。

 にこり、とキレイな笑みが浮かんだ彼の顔を黙って見つめたぼくは、返事の代わりに大きなため息をこぼすことしかできなかった。

 自分の存在すらも疑っているなんて、ぼくには理解できない。自分が本当は存在していないのだとしたら、今、ここにいる自分は誰だっていうんだ。ああ、きっと彼の頭の中をのぞいてみても、理解できないことだらけで立ちつくすだけだろう。


「『世界』も『ぼく』という人間も、本当は存在しない。ただ、そんな夢を見ているだけなのかもしれない」

「ああ、そうかもしれないね。でも、」


 ため息まじりに言って言葉を区切り、彼の目を真っ直ぐに見据える。ぼくにとっては、この目に映るものが現実で、そして真実だ。


「どんなに君が世界や自分自身の存在を信じられなくても、今、ここに君は存在している。それが、君の世界だろう?」


 どれが現実で、どれが夢かなんてわからない。もしかしたら、彼の言うようにすべてが夢なのかもしれない。

 だけど、今、ここに君とぼくがいるということは、紛れもない真実だから。

 それは、とても儚い胡蝶の夢。




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