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last Eden  作者: 久遠夏目
2008年
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月下氷人

 彼女は月を見て笑い、静かにこう言った。


「あなたは月に似ているのね」


 どういうこと、と尋ねると、だって月は裏側が見えないじゃない、と言われた。彼女曰く、月はきれいだけど、地球からはいつも同じ面しか見えないから、人間にたとえると本心がわからない、ということらしい。

 確かにぼくは誰にも心を見せない。本心なんて言ってやらない。だって、ぼくの心は偽りでできているのだから。

 ――でも、ぼくは月みたいにきれいではない。

 ぼくが何を考えているのかを察したのか、彼女はこちらを見て困ったような笑みを浮かべた。しかし、彼女はその表情とは裏腹に、もう一度こう言った。


「やっぱり、あなたは月に似ているわ」


 ぼくは月みたいにきれいじゃない、とさっき心の中で思っていたことを、今度は口に出してみる。


「そうね」

「じゃあどうして、」

「だって、月は近くで見るとクレーターだらけで、傷がたくさんあるでしょう? それに、月は太陽がいないと自分では輝けないわ。だから、あなた自身はきれいじゃなくてもいいのよ。太陽がいて、初めて月は輝けるんだから」


 穏やかに言葉を紡ぎ、やわらかな笑みを浮かべる彼女。ぼくには、その笑顔がまぶしくて仕方なかった。

 そして、ぼくは気付いてしまった。ぼくが月ならば、ぼくを輝かせる太陽は、きっと彼女だということを。

 それは少し寒い秋の、月がきれいな夜のことだった。




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