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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この世界は一体何と闘っているんだ?

この世界は一体何と闘っているんだ?~これは、戦争だ~

作者: 大介丸

 

 恐怖で貌を蒼くさせながら、彼はコンビニから急いで離れようとした。

 四十メートル向こうから、大勢の迷彩服を着込んだ通行人がやってくるのが視界に入った。

 人数は五十人は超えるかもしれない。

 老若男女の全てが迷彩服を着込みヘルメットを被り、手には銃器を持っているのが見えた。

 そしてその全員が、鍛え上げられた様な身体をしている。

 小学生低学年と思われる子供までもが、大人にまぎれて銃器を構えている。

 その集団はそれぞれが手に持っている銃器の安全装置を外し、凄まじい表情を浮かべながらも、一つの軍隊を彷彿とさせる様な統制の取れた動きで、「鬼獣」に向けて引き鉄を絞る。

 雷鳴の様な銃撃、霧の如く立ち込める硝煙、金属音を響かせて路面に落ちる空薬莢―――

 奇声を上げながら突撃する「鬼獣」の群れは、頭や胸を撃ち抜かれ、緑色の液体を撒き散らし、路面を転げていく。

 路面には「鬼獣」の屍が累々と築き上げられていくが、恐るべき正確な銃撃にもめげず「鬼獣」の群れは、続々とやってくる。

 迷彩服を着込み銃器を持った通行人の姿や戦闘用装甲車も続々と現れて、怒声や罵声を上げながら戦闘に加わっていく。



「日本にようこそっ!!、これがおもてなしだぜ!!」

 何処かの原住民の如く、フェイスペインティングを施した通行人が自動小銃の引き金を絞りながら吼える様に叫ぶ。

「これだから、「鬼獣」警報は当てにならねぇっ!!」

 停車した戦闘用装甲車から飛び出した、頭部の左右を丸刈りしたモヒカン刈りをした通行人が自動拳銃の安全装置を外し、照準を急接近してきた「鬼獣」に向けて引き鉄を絞りながら罵る様に告げる。

 彼には、まったく理解できない修羅場な光景が広がっていた。

「鬼獣」と表されている化け物集団相手に、この世界の住民は一歩も引かずに闘っている。

 なによりもっと理解できないのは戦闘に参加している通行人達が、良く訓練された様な射撃を行っている事だ。

 まったく無暗出鱈目に射撃しているのではなく、標的の鬼獣に向けて射撃を行っている。

 ――――射撃ばかりでもなくその動き方もだ。

 テレビニュースや映画でよく見る軍隊や特殊部隊を彷彿させる。



 彼は一刻も早くこの場から立ち去りたいため、その辺りの事は後で考えるとし、その場から続々とやってくる迷彩服を着込み手には銃器を持っている通行人達に向かって走る。

 ――――その先には、この街の駅前広場があるからだ。

 彼とすれ違った通行人の何人かは、幾分怪訝な表情を浮かべたがそれも一瞬だけで、戦闘に参加していく。




 その場所から離れに連れて銃声の音は小さくなっていくが、その代りに迷彩服を着込んだ通行人の姿が多くなっていく。

 男性、女性、子供、年寄・・・・全員が迷彩服に銃器で武装という異様な格好であり、身体も鍛え上げられたアスリートを彷彿とさせる体格だ。

「準ちゃん、ちょっと手榴弾貸してよ」

 中学生らしき男子学生が、短機関銃に弾倉を手慣れた感じに装填しながら告げる。

「別に良いけど、後で返せよ、今月の大規模交戦でマジで手榴弾無いんだから」

 手に軍用狙撃銃を持った、優と言われた男子学生がガムを噛みながら応える。

 片耳にはイヤホンを差し込んでいるが、何を訊いているのかはわからない。

「(何がどうなっているのか、わからん)」

 彼は、いったいどんな世界に転生(?)したのか理解出来ず、半端自棄になりつつあった。

 コンビニ前の道路に沿ってしばらく走ると、この街の駅前広場に辿り着いた。

 バスターミナル、タクシーのりば、駐輪場などがある風景は変わらないが、駅の改札口や停車したバスから降り立つ人々は、やはり全員が迷彩服を纏い、銃器を手にしている。

 特に駅の改札口は、朝の通勤ラッシュの如く混雑しており、全ての人々がコンビニの方向へと疾走していく。

 その疾走速度も半端ないほど速い。

 コンビニの方向からは、断続的に銃声が響いてきている。

 広場の方に視線を向ければ、何やら人だかりが出来つつあった。

 その原因は、一つの露天商の様だった。




「(露店なんて、出ていたっけ?)」

 彼の記憶では、広場に露店なんて出ていなかった記憶しかない。

 あったとしても、縁日や祭りぐらいなものだ。

 彼は、恐る恐る露店に近づいていく。

「尚史のおっちゃん!、ワルサ―は無いの!?」

 大学生らしき男性が切羽詰まった表情を浮かべながら尋ねていた。

 尚文と言われた露店の店主は、頸を横に振っている。

 肉体労働者然とした体躯の露店の店主は、頭に麦わら帽子、派手なアロハシャツ、短ズボンに下駄という格好で、黒いサングラスをかけて口髭を生やしていた。

「その商品は入荷待ち、代わりにM240機関銃や、イングラムM10なら予備弾倉もおまけで安くしておく」

 掠れた声で応える。

「うーん・・・、値段は?」

 大学生らしき男性がため息交じりに尋ねる。

「今なら、170円」

 露店の店主が短く応える。




「適正価格を要求する!、コンビニやデパートなら髙くても40円だぞっ、尚史のおっちゃん」

 大学生らしき男性が大声で抗議をする。

「俺のは仕入れ先が特別ルートだ。170円で販売するのがギリギリだ」

 尚史と言われた露店の店主は、葉巻を取り出し口に咥えて、火をつけながら応える。

 大学生らしき男性がさらに何かを言おうとしたとき、別の通行人が口を挟んできた。

 見てみた感じは、小学生低学年の男の子だった。

 もちろん、迷彩服とヘルメットは被っている。

「尚史のおじちゃん、SAR21はありませんか?」

 その小学低学年の男の子が尋ねる。

「あるよ、160円だ」

 小学生低学年の男の子は、財布から160円を取り出して露店の店主に手渡す。

 SAR21という名の銃器を男の子に手渡したのは、狐面を被り白装束を着込んだ人物が手渡した。




「狐面のお姉ちゃんありがとー」

 小学低学年の男の子がSAR21という名の銃器を受け取りながら礼を告げると、そのまま

「鬼獣」と交戦が行われているコンビニの方角へ走っていく。

「小学生が素直に購入したが、お前さんはどうする?」

 露店の店主は、大学生らしき男性に尋ねる。

「畜生っ、買うよ、買いますよ!!、イングラムM10を購入しますよっ、尚文真一郎という偽名を使って商売しているおっちゃんには参ったよ・・」

 大学生らしき男性は、自棄じみた声で応えながら、財布を取り出す。

「素直で宜しい、それに免じて手榴弾もつけるが、偽名ではないからな――――。はいはい、次のお客は?」




 彼はその考えられない光景を観て、いろいろと絶句した。

 露店での銃器販売といい、その露店の店主らの格好といい・・・、改めてここが、彼の知っている世界とは違っている事を実感した。

 また、露天店主の後ろには大量の木箱が置かれている。

 木箱には、「AKシリーズ」、「榴弾砲」、「対戦車・対人地雷」、「C-4」などと書かれた紙が貼りつけられており、その所には10円から180円と値段が表示されている。

 もし、その商品が確かなら、凄まじい量がこの場所にあるということになる。





「(ここは・・・俺の知っている世界とは違う・・・・まったく違う・・・)」

 彼はよろめきながら、近くのベンチに腰を下ろす。

 ぼんやりと辺りを見渡すと、駅改札口から吐き出された人々が銃器を点検しながら口々に何か言い合っている。




「畜生っ、何が今日は19地区で、「鬼獣」の大規模交戦が発生する可能性があるだっ、18地区の間違いじゃないかよ」

 自動小銃に弾倉を装填した男性がぼやく様に告げる。

「これで、もし大規模攻勢まで発展したらバーゲンセールがあるからいいんじゃね?」

 軍用狙撃銃を点検しながら、隣にいた男性が応える。

 その言葉が耳に届いた、他の通行人達が銃器の点検を一瞬で止めて、その発言の主に視線を向ける。

「お・・お前は馬鹿かッ!?、そんなことを大声で言うなよっ!!」

 自動小銃に弾倉を装填した男性が、辺りに視線を向けながら告げる。

「何でだよ、大規模攻勢が発生したら全ての店で値引き半額の超特大バーゲンセールがあるじゃねぇか、お前の持っているその銃器だって、バーゲンセールになったら2円だぜ、2円」

 軍用狙撃銃を点検しながら、隣にいた男性が応える。

「だから縁起でもないことを大声で言うなって言ってるのがわかないのか、お前はっ!!」

 自動小銃に弾倉を装填した男性は、呆れた表情で告げる。

「何処か縁起でもないんだ?、無茶苦茶嬉しい事だろ?」

 軍用狙撃銃を点検していた男性は、不機嫌そうに応える。




「あのな・・・、お前は新聞とか読んでないのかよ、もしもだ、「鬼獣」との大規模攻勢が発生したら、日本全国都道府県に配備されている戦術核が使われるだろうがっ!!」

 自動小銃に弾倉を装填した男性が、何かとんでもない事を告げた。

「だからなんだよ、ファーストコンタクト以降は、日本国内でも三回も戦術核を使ってるじゃん・・・あ、ファーストコンタクト前の広島と長崎を入れたら通算で五回も核の洗礼受けてるな」

 軍用狙撃銃を点検していた男性が応える。




「回数の問題じゃないっ!!あとできっちりと説明してやるが、バーゲンセール=戦術核ファイヤーだということ理解しとけよ、この馬鹿がっ」

 自動小銃に弾倉を装填した男性が、大きな溜息と共に告げる。

「馬鹿馬鹿言うな、俺はこれでも海兵隊訓練成績だと学年でトップ取ったことあるんだぞっ!」

 自動小銃に弾倉を装填した男性の言葉に、いささかカチンと来たのか、そう応える。

「言っておくけど、それはファーストコンタクト以降は、海兵隊訓練とか、シールズ訓練とか・・・あー、もう、全ての特殊部隊訓練のメニューを受ける事は、日本国民の義務になっているかな」

 自動小銃に弾倉を装填した男性は、若干呆れた表情を浮かべながら告げる。

「でも、俺はトップを取った」

 軍用狙撃銃を点検していた男性は、自慢でもしたいのかもう一度同じような事を言って応える。




「知ってるか、今年からはその訓練を十歳児まで引き下げられるんだぞ。

 中学生から大学生までみっちりと特殊部隊訓練を受け、その後は国民決死隊法に沿って世界各国地域の「鬼獣」との最大激戦地に送られるんだ・・・・、それについてはお前はーーー」

 自動小銃に弾倉を装填した男性がさらに何かを言おうとしたが・・・・

「なあ、この戦闘終わったら、飯食いに行かね?」

 軍用狙撃銃を点検していた男性がそう応えたため、自動小銃に弾倉を装填した男性は絶句した。

「お前は俺が、今、ちょっと説明した話を聞いていなかったのか?」

 そう尋ねた。

「腹減ったし、銃の手入れしなきゃならんし、今日発売の特典付きのエロゲーを買いに行かなきゃならないことを思いだしたから、途中から聞いてないぞ」

 軍用狙撃銃を点検していた男性がしれっと応えた。

 その会話を盗み聞きしていた何人かの通行人は、「マジか・・・こいつは」という表情を浮かべていた。




 彼はその2人組の会話を聞いて、何がとんでもない事が混じっている事に気付いた。

 それを考えようとしたとき、上空から爆音が聞こえてきた。

 彼は、意識を一旦上空に向けて、視線を向けると大型ヘリ二十機が見事な編隊を組んで飛翔していたのが見えた。




 そのヘリの編隊を茫然と観ているのは、彼を含めれば数えるほどだけで、後は銃器の点検などで気にした様子はほとんどない。

 彼の近くにいた三人組の通行人同士の会話が聞こえてきた。

 その三人組は、その見上げている数少ない側だ。

「あれ、自衛隊のCH-47だろ?、後退してるのか?」

 その見上げている数少ない三人組の通行人の1人が怪訝な声で呟く。

「自衛隊って・・・お前それは古いぞ、警察予備隊って言えよ、警察予備隊って。それよりなんか、一機に鬼獣へばり付いてないか?」

 殿を務めている一機の大型ヘリの様子がおかしいためか、自動拳銃に弾倉を装填していた

 男性が何処か心配した声で応える。

「二人とも呼称がファーストコンタクト前だ。特に警察予備隊っていつの時代だよ、今は、日本国防軍だろうが」

 缶コーヒーを飲んでいた三人目の男性が若干呆れた声で告げる。




「しかたがないだろ、俺達はファーストコンタクト前生まれなんだから。まぁ、警察予備隊と呼称したこいつは、見かけは若いがかなり年をくっているみたいだけどな」

 怪訝な声で呟いた男性が、警察予備隊という呼称した男性を指をさしながら応える。

「指をさすな、へし折るぞ。警察予備隊を警察予備隊と呼んで何が悪い?」

 憮然とした声で言いながら、自動拳銃をホルスターに仕舞い込みながら告げる。

「だからその呼称が古いんだって・・・、何回も言うけどファーストコンタクト前より古いからな」

 缶コーヒーを飲みほした男性が呆れた表情を浮かべながら応える。




「そんなに古くはないだろ?、ファーストコンタクト―――えーと・・・いつだっけ?」

 警察予備隊という呼称した男性が尋ねながら、空を飛翔しているヘリ編隊を見る。

「1999年七月だよ、学校の授業で習ったり、ネット情報でググッたりしてないのかよ

 ある預言者の予言が的中したとかどうたらこうたら習わなかったのか、お前は」

 自衛隊と呼称した男性が律儀に応えながらも、その表情は少し呆れている。

「それは地球規模の大侵攻だろ?、俺が習ったのは1947年7月8日の合衆国ニューメキシコ州ロズウェルが、鬼獣とのファーストコンタクトだとか習ったけどな」

 缶コーヒーを飲みほした男性が何かを思いだす様な表情を浮かべながら告げる。




「その辺りは未だに議論されているじゃないか。

 実際に1947年7月8日以降から1999年7月までの鬼獣による地球規模大侵略があるまで、世界各国は鬼獣との小規模交戦を未確認飛行物体や未確認動物――――、えーと、UFO事件やUMA、として情報操作した―――と、俺の時はそう教わったぞ」

 自衛隊と呼称した男性が、遠ざかっていくヘリの編隊を見ながら応える。




「あー、思いだした、あれだろ、ファーストコンタクト前の米ソとの冷戦や宇宙開発競争も、真実はこの「鬼獣」に対する有効的な戦略を発見するために行なわれたやら、ロズウェルの翌年の1948年頃より1950年代前半にかけて行われたアメリカの赤狩り、七十年代に世界で吹き荒れたテロ、日本国内での安保闘争や学生運動やらは、複数の“正しい”情報を密かに流した結果だったとかどうたらこうたら・・・」

 警察予備隊という呼称した男性が告げる。

「お前は、授業の時寝ていたタイプだな。ちょっとは勉強をやり直す事を進めるぞ。

 正しい”情報”を密かに流した結果がそれだったのは合っているが、1948年頃より1950年代前半にかけて行われたアメリカの赤狩りは、当時具体的な対策も

 ない状況で、鬼獣の情報を流そうとした一部のお偉い方を阻止するために起こした事だからな。

 とりあえず、お前は射撃とか格闘が強いだけじゃ生き残れないということがわからないのか」

 自衛隊と呼称した男性が、何とも言えない表情を浮かべながら応える。




「まったくだな、そんな事を言ったら、安保闘争や学生運動やらで苦い経験をして、血反吐吐く様に用意周到の計画を立案し、その計画に乗っ取って日本国憲法や法律の改正を行ない、日本国内での銃火器類の販売、特殊部隊訓練の義務教育化、自衛隊の国防軍化などを、ファーストコンタクト直後から推し進めた政治家達は凹んで立ち直れないな、少なくとも俺は同情する」

 やれやれとした表情を浮かべながら、缶コーヒーを飲みほした男性が告げる。

「あの地獄の特殊部隊訓練を受けながら、糞まじめに授業なんて受けられるわきゃないだろ!・・・、それでも寝ていたのは数えるぐらいだ」

 警察予備隊という呼称した男性が反論するように応える。




「では、日本国内での最初の大規模攻勢があった場所は何処だ?」

 自衛隊と呼称した男性が問題を出した。

「ちなみに、あれだぞ今時の幼稚園児でも知っているからな」

 缶コーヒーを飲みほした男性が続けて告げる。

「そんなの簡単じゃないか、G上陸地点だろ?」

 警察予備隊という呼称した男性が、口元に笑みを浮かべながら応える。

 自衛隊と呼称した男性と缶コーヒーを飲みほした男性は、その答えを聞いて一瞬だけ固まった。

「・・・おい、ファーストコンタクト前の非核三原則から、ファーストコンタクト後に核三原則に変わった原則はなんだ?」

 気を取り直して、もう一つ質問を出したのは缶コーヒーを飲みほした男性だ。

「飲ます、奪う、脅す?、あ、違ったか、殴る、蹴る、絞めるだっけ?、それとも、踊る、歌う、叫ぶだっけ?」

 警察予備隊という呼称した男性が、少し考えながら応える。




「――――そろそろ行くぞっ!」

 缶コーヒーを飲みほした男性が、何処か可哀そうな表情を浮かべながら、缶コーヒーを近くのゴミ箱に捨てながら、銃声の音が激しくなってきているコンビニの方向へと走っていく。

「所で、あのヘリは後退したと思うか、それだとマジでヤバいんじゃないのか?、

 バーゲンセールにならなきゃいいけどな」

 自衛隊と呼称した男性も、同じ表情を浮かべながらコンビニの方向へと走りながら告げる。

「おい、答えは合ってるんだろっ!?、なんだよその表情はっ、ちょっと待てよっ!!」

 警察予備隊と呼称してた男性も2人の後を追っていく。




 ベンチに腰を下ろしながら、その三人の会話と先ほどの二人組の会話について、彼は考えた。

「(――――とりあえず整理しよう・・・じゃないととても無理だ・・・)」

 まず、1、この世界は自分自身が知っている世界ではない。

 2、この世界は、「鬼獣」と呼称される化け物と闘っている。

 3、その「鬼獣」は、1947年7月8日の合衆国ニューメキシコ州ロズウェルで、初めて人類が遭遇した。

 4、この世界では、未確認飛行物体や未確認動物――――UFO事件やUMAは、「鬼獣」との小規模交戦を隠蔽するため情報操作されて呼称された。

 5、米ソの冷戦や宇宙開発競争は、この世界では「鬼獣」との有効的な戦略を発見するために行われていた。

 6、七十年代に世界で吹き荒れたテロ、日本国内での安保闘争や学生運動やらは、複数の“正しい”情報を密かに流した結果

 7、1948年頃より1950年代前半にかけて行われたアメリカの赤狩りは、当時具体的な対策もない状況で、鬼獣の情報を流そうとした一部のお偉い方を阻止するために起こした。

 8、1999年七月に「鬼獣」による地球規模の大侵略が始まった。

 9、自衛隊は、国防軍になっている

 10、特殊部隊訓練が義務化されている。どうりで身体が屈強なはずだ

 11、どうやら日本も核兵器を持っているらしく、すでに国内で3回も使用した。




「(――――整理してもわからないことばかりだ・・・。ニューメキシコ州ロズウェルや1999年7月などは、テレビの何かで聞いたことがあるような)」

 彼が何か思いだそうとしたとき、別の2人組の通行人同士の会話が聞こえてきた。

 1人は、重そうな重機関銃を担ぎ、もう一人は回転拳銃を持っている。

 その2人も、ヘルメットと迷彩服という格好だ。




「――――なぁ、さっきの会話聞いたか?」

 重そうな重機関銃を担いだ男性が、ガムを噛みながら尋ねる。

「何の?」

 回転拳銃に弾丸を込めている男性が応える。

「いや、日本国内での最初の大規模交戦がどうたらこうたら」

 重そうな重機関銃を担いだ男性が告げる。

「ああ、あれか。まさか、お前もG上陸地点だと思っているのか?」

 回転拳銃に弾丸を込めていた男性が応える。

「んなわきゃないだろ、戦友、最初に日本国内の大規模攻勢があったのは・・・

 えーと、2000年の3月、北海道、四国、九州、沖縄の3か所、ファーストコンタクト後の核三原則は、持つ、造る、持ち込ませるだろ」

 重そうな重機関銃を担いだ男性が、馬鹿にするなよてきな表情を浮かべながら告げる。

「だったら、日本決死隊法と言っているけど本当の呼称と、俺達が今闘っている鬼獣の目的は?」

 回転拳銃に弾丸を込めていた男性が尋ねる。

「日本国民義勇兵法と、鬼獣の目的は――――って、それはまだ解明されてないじゃないかっ、

 確か地球の水がどうたらこうたらとは聞いた様な聞いてない様な」

 重そうな重機関銃を担いだ男性が、ガムを噛みながら応える。

「・・・まぁ大方合ってるが、別に正解だからといって鬼獣が居なくなるわけじゃない―――

 何か、聞こえないか?」




 ベンチに座っていた彼の耳にも、空気を引き裂く様な音が聴こえてきた。

「(今度は何だ!?)」

 彼は、付近を見渡しながらゆっくりと立ち上がる。

「おい、これはまずいぞっ!!」

 右耳にピアスを付けた通行人が狼狽えた声で叫ぶ様に告げる。

 その通行人は、細長い筒状の様な物――――、彼からすれば映画やゲームなどでしか見た事のない携帯対戦車擲弾発射器を右肩から担いでいる。

「(いったい何が――――)」

 彼が疑問に思おうとした時、轟音が響いた。

 その強烈な轟音に驚いて、思わず彼は地面に伏せた。

 その付近にいる通行人も、地面に伏せながら手に持っている銃器を轟音が響いてきた方角に照準を向けている。




 轟音が響いてきたのは、広場の中央からだった。

 三つの煙が立ち込めているのが、ゆっくりと視線を地面からその方向に向けた彼にも見えた。

 地面に金属製の棒状の物が三つ突き刺さっていた。

 三つの突き刺さった金属製の棒状の物から、ちりちりと焦げるような電流が空間一帯に広がると空間が陽炎のように揺れて弾けた。

 ぶれるような残像が、人が出入り出来そうな穴を結像させた。

 その穴を結像させるまで一瞬の時間もかかっていない。

 その穴から、蒼く照り返す鋼鉄のような皮膚に身体中覆われ、背中に翼を生やした得体の知れないものが現れた。

 三メートルを超える巨体が、天を突き破らんとばかりにそびえる。

 頭部より、奇怪に捻れた巨大な二本の角が生え、その角から凄絶なる暴力の気を発している。

 禍々しい翼が、よりその巨体をさらに大きく見せて、得体の知れない重圧がこの場所に圧し掛かる。




 存在から放たれる気配は悪意そのもの、暴力と恐怖しか持ち合わせのないただの殺戮のための姿がそこにあった。

 彼はその姿を見て、未知の恐怖に足がすくんだ。

 ―――その時、未知の巨体に向けて黒い塊がシュルシュルと不気味な音をたてながら加速していった。

 黒い塊が未知の巨体の身体に食い込み、爆発音を轟かせる。

「ひゃっはーっ!!、ざまぁみろっ!!」

 右耳にピアスを付け携帯対戦車擲弾発射器を担いだ通行人が、拳を大きく上げて雄叫びを上げる。

 その通行人が、未知の巨体に撃ち込んだ様だった。

 同じように、携帯対戦車擲弾発射器を担いだ6人の通行人が引き鉄を絞った。

 6本の筒が連続して火を噴いた。

 6つの砲弾が、苦痛に苛まれるように奇声を発している未知の巨体の身体に食い込んだ。

 凄まじい轟音が耳孔を揺るがせ、爆風が起こる。




 その光景を見た他の通行人の何人かは雄叫びを上げ、携帯対戦車擲弾発射器を発射した6人の

 通行人は、ハイタッチをする。

 ――――――しかし、その喜びも束の間、空間の穴から同じような未知の巨体が、一匹、二匹と、次々と姿を現し始め、地獄の底から聴こえてくるような断末魔を

 上げながらのたうち廻っている未知の巨体を踏み潰す。

 また、その巨体に混じって、先ほどコンビニで見た鬼獣と呼称される生物も姿も混じっていた。

 頭部は前後に細長い形状、上部は半透明のフードで覆われ、顔にはそれと判るような形状の鼻や耳、目などは存在してなく、真正面から向き合うと口だけが笑っているようにも見えた。

 歯は人間の物に酷似していたが、人間に比べて犬歯がく、歯を剥き出しており、身の丈以上に長い尾の先端は、槍の穂先のように鋭利な形状をしていている。

 ―――――彼が初めてコンビニで見たその鬼獣の群れも、甲高い奇声を発しって、穴から這い出でくるように出現してくる。




 銃器で武装している通行人達は、その生物の群れに臆する事もなく銃の引き鉄を絞り、銃弾を浴びせる。

 コンビニで経験した様な雷鳴の様な銃撃が響き、硝煙が霧の如く辺りに立ち込める。

 駅改札口から次々と吐き出された人々は、一方はコンビニ方向へ、一方は彼のいる広場へと駆けつける。

「鬼獣との戦闘は最高だぜ、馬鹿野郎っ!!」

 頭を剃り上げた通行人が、鬼の様な形相で短機関銃の引き金を絞りながら吼える様に叫ぶ。

 巨体と鬼獣の群れに無数の銃弾が浴びせられ、雷鳴の様な銃撃が響き硝煙が霧の如く辺りに立ち込め、無数の空薬莢が路面で踊る。




 彼はベンチの後ろに隠れながら、ヘビに睨まれたカエルのように動けないでいた。

「(――――これでは、戦争じゃないか・・・)」

 テレビニュースや映画などでしか見た事のない状況が付近で行われていた。

 その時、右肩をポンポンと叩かれたので、彼はゆっくりと振り返った。

 そこには、派手なアロハシャツを着込んだ露店の店主がいた。

「どうした、にいちゃん、見た所銃不携帯っぽいな」

 その露店の店主は口元に笑みを浮かべながら尋ねてくる。

 蒼白になりながら、彼は露店の店主を見る。

「今なら格安で売るが、どうだ?、そうだなぁ・・・、25円でどうだ?、イイのが揃ってるが」

 先ほど販売していた値段よりも、格段に安い値段を言ってくる露店の店主、この修羅場な状況でも異常なほど落ち着いている。




 彼は、恐怖に青ざめ手を震えさせながら財布を取り出しす。

「こ・・これで買います・・・」

 5000円札を財布から取り出しながら、震える声で応える。

「にいちゃん、俺の店はしがない露天商だぜ?、F-4 ファントム II、F-14 トムキャット、AV-8B ハリアー、 F-22 ラプターとかは取り合ってないぞ。

 それを購入したいなら、ホームセンターかデパートに行かないとな」

 尚文真一郎という名の露店主は、何処か困った笑みを浮かべながら告げる。

 彼は露店主の言った名は、車の名前か何かだと思った。

「それとも、5000円分の銃と弾薬?、にいちゃんは鬼獣と戦争する前に国とでも戦争を始めるのか、それだと店はしばらく休業だな」

 露店主は、笑い声を上げながらそう告げてくる。

 5000円で国と戦争が出来る銃と弾薬の量は、いったいどんだけなのだろうかと彼は思いながら、露店に積まれている木箱を思い出し戦慄した。

 彼が何かを言おうとしたとき――――。

「ここにいたかっ、尚文のオヤジさんっ」

 薄汚れた迷彩服を着込み、茶髪の男性が露店主に話しかけてきた。

 その眼は血走っている。

「おう、いらっしゃい」

 露店主が応える。




「尚文のオヤジさんっ、アンタたしかここの戦区長だったよなっ!!、オヤジさんの権限で、

 今すぐに18地区防衛方面隊本部に対して、地対地ミサイルでもなんでもいいから支援要請を出してくれっ!」

 何処か切羽詰まった声で告げてくる。

「ふむ――――断る」

 露店主が即答で応える。

「オヤジさんっ、冗談を言っているんじゃないんだっ、こののままだと鬼獣に蹂躙されちまうぞっ!?」

 茶髪の男性が苛ついた声で告げる。

「俺も冗談で言っているんじゃない。もう一度言うが、断る」

 露店主が同じように落ち着いた声で応える。

「オヤジさん・・・コンビニより向こう側の河川敷防衛隊は潰滅したぞ、それでも要請はしないのかよ!」

 茶髪の男性が、露店主の襟首を掴みながら告げる。




「要請はしない。考えても見ろ、若いの、要請を出したら最後、核まで飛ばしてくるぞ」

 露店主は襟首を掴まれながらも、静かに応える。

「だったら、オヤジさんはあれかっ、このまま支援もなしに死に物狂いで闘えと!?、

 河川敷がどんだけ地獄だったのかをオヤジさんが目の当たりにしてないから、そんなことほざけるんだよっ」

 吼える様に告げる。

「ファーストコンタクト前に傭兵として、世界各国の紛争地域を渡り歩いた俺が断言してやろう。この程度で地獄だと言うのは笑われるぞ」

 露店主の襟首を掴まれながら、静かに応える。

 茶髪の男性がホルスターから自動拳銃を取り出し、露店主の頭に付きつける。

「オヤジさん、こっちは戦友達を助けたいために、火を呑み込む勢いなんだ」

 茶髪の男性が静かに怒気を含めた声で告げる。

「何を言われても、答は変わらない。六回目の戦術核を使わせた男と言われたくはない」

 露店主が短く応えた。

 茶髪の男性が何か言おうとしたが、言えなかった。

 その原因は、一体何時の間に忍び寄っていたのか、狐面を被り白装束を着込んだ人物が、首筋に小太刀の刃をピタリと押し当てていたからだ。

 その体格からして、先ほどの小学生低学年の男の子が言ってた通り女性の様だ。




「・・・・」

 茶髪の男性は返答をしないが、怯えている様には見えない。

「俺を撃ちたかったら、撃つがいいさ。だが、すぐに新しい戦区長が選ばれてくるだけだぞ」

 露店主が短く告げる。

「オヤジさん、今ならここで弾をぶち込む事も出来る」

 凄まじい笑みを浮かべながら、茶髪の男性は応える。

「銃は、人には向けずに鬼獣に向けなさいとは、習わなかったのか?」

 こめかみから脂汗を滲ませている茶髪の男性に告げる。

「ヨクイ、もうここは構わないから店に戻れ」

 露店主は、狐面を被り白装束を着込んだ人物に短く告げる。

 その人物はゆっくりと小太刀の刃を離すと、ゆっくりと店に戻っていく。

 露店主は、小さく溜息を吐くと茶髪の男性の鳩尾に右拳を叩き込んだ。

 茶髪の男性は眼を剥いて息を詰めた。

「尚・・・・史の・・・おやじ・・・・」

 茶髪の男性は両膝が崩れ落ちるが、幸いにも銃の暴発はしなかったようだ。

 銃の安全装置が元々からかけてあるのを確認すると、露店主はぐったりと気を失った茶髪の男性を背中に背負う。




「すまんな、幾ら脅されても要請は出せない。鬼獣どもに好き勝手されるのは癪に障るが、戦術核も含めた支援なぞごめんだ――――ところで、にいちゃん、どんな銃器にする?、五千円分の弾薬も銃器も、この騒ぎだ。その分を取りそろえるのは難しいが・・・」

 露店主と茶髪の男性の、映画などで見かけるようなやり取りを茫然と見ていたが、露店主の言葉に我に返る。

「こ・・これでお願いします・・・」

 震える手で、財布から五十円玉を取り出しながら応える。

「それならバレットM82A1が在庫があるが、それでどうだ?――――、しかしにいちゃんは変わった服装してるなぁ。まるでファーストコンタクト前の様な恰好じゃないか」

 露店主が珍しそうに彼のを服装を見てくる。

「(そっちも、かなり変わった服装の気が・・・)」

 彼は、そう思ったが口には出さなかった。




 ――――この日発生した鬼獣との交戦は、ファーストコンタクト以降日本国内で発生した7つの大規模交戦を遥かに超える戦闘が発生し、この近隣の住民が予想すらしなかった五日間の大規模市街戦が展開する事になる。

 この熾烈な五日間の攻防は、後々まで「鬼獣の饗宴」と呼称されることになり、

 最終的には日本国防軍並び、中東、欧州、アラスカ、南米、米国西海岸の

海外鬼獣激戦区に派遣され、ようやく日本国内に帰還を果たしていた日本決死隊を緊急投入して終結する。

 また彼本人に取っては不幸だったかもしれない。

 五日間の「鬼獣の饗宴」の中で、もっとも激烈だった「河川敷攻防戦」並び、

 巨大鬼獣により、撃墜された4機のMH-60 ブラックホーク救出地点の最大激戦地「4丁目の闘い」に、精鋭の集まりの日本国防軍と命知らずの日本決死隊と共に

否応なしに関わる事になる。




「鬼獣の饗宴」終結以降、まもなくしてファーストコンタクト前の服装をした者がとある露店で忙しそうに手伝いをしている姿を目撃される事になる。

 射撃の下手さと戦闘技術の低さで、色々な意味で知られる事になるのだが、この時点では、彼はそのような事になろうとは思ってもいない―――――。










とりあえず、短編の続編です。

作品内で出てくる、ヨクイ、尚文真一郎のお名前は、小説家になろうで交流させて

頂いている作者様の名前を使わせて頂きました。


ご許可を頂いたヨクイ先生、尚文産商堂先生、ありがとうございました。




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