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5話-2(嘘じゃないですもの)

レンはベッドの上で胡坐と腕を組んでリンのベッドに戻ってくるのを待っていたが暫くしてもリンは戻ってくる様子がなかった


「おかしいな…トイレじゃないのか?」

「…あいつの事だからもしかして迷子か?いや・・・こんな小さな教会でそんなことないだろう・・・・あははは」

「……」

「………」

(なんだか…ありえそうだから探しに行ってみるか)


レンは痛みが引いたばかりの足でリンを探す為に部屋から出て行った

暫く歩くと廊下の奥の扉から灯りが漏れているのを見つけそのドアをそっと覗き込んだ


「げっ…ここ講堂か?どうも嫌な空気を感じるはずだ」


そこはレンがもっとも苦手とする教会の聖なる場所、講堂だった。

しかしその講堂の中央の長椅子に誰か人影がいる事に気づく。

「誰だ?教会の力でうまく目が見えない…」

レンは目をゴシゴシと擦りもう一度長椅子の人物をみた…するとそこには先ほどから探していたリンがいるではないか

「あの馬鹿…こんなところにいたのか?どうりで気配と匂いが分からないはずだ…」


(って…隣にいるのはあの医者か?まぁいいか、人間の臭いがしない変な奴だが足も良くなったし丁度いいから礼でも言っておくか)


「おーい、リンとそこの…」

頭をかきながらヤレヤレと面倒そうな顔をしながら戸を開けレンは声をかけた…が、次の瞬間リンの口から思わぬ言葉が飛び出したのをレンは聞き逃さなかった


「私、エンペラードラゴンの角を持っています」


「リンさん?」


トホシロは意外な言葉に驚いた顔をしていた…がここにもう一人?一匹?驚いている者がいた

「なっ…なにぃ?」

(何の話しているんだ?エンペラードラゴン?俺が何だって?)


リンの声はレンのところまでハッキリとは聞き取れなかったがエンペラードラゴンという言葉だけはわかった

「リ…」

リンを呼ぼうとしたがそれをさえぎる様に笑い声が講堂内に響き渡る


「あはははははははははは」


声の主はトホシロだ、リンはもちろんその笑い声にはレンも何が起きたのか分からずただ呆然とした

「ト、トホシロさん?」

「ははは…嫌、ゴメン…君があまりにも真剣な顔をして叫ぶから」

「…気持ちはありがたいけど…神角を持っているなんて嘘はいけないよ?」

「私…嘘なんて‥事実を…」


「リン!!」


レンの声が講堂内に大きく木霊する


「レンさん?」

リンが後ろを振り返ると扉の向こうにレンが二人を…いや、リンを呼びながらも目線はトホシロを睨んでいるのがわかる

「ちょっとこっちにコイッ!!」


「…ほらレン君が呼んでいるよ?」

「でも‥あの‥」

「いいから、ほら僕を睨んでいる…それに僕ももう寝ないと朝は薬草を積みに行きたいからね?」


「すみません…」


「オヤスミ、リンさん」

リンはレンの方へトコトコ歩みよるとレンは講堂に繋がる扉を閉めた、その時もう一度トホシロの顔を睨んで…


「…ありがとうリンさん」

「だけど…僕はまだ噛み殺されたくないからね?」

クスっと笑いトホシロは長椅子に横たわる、上を見上げると蝋燭の灯りのせいか何故か女神像の顔が悲しそうに見えた

「貴女に会えるまでは…元に戻すまでは僕は死ねませんから…」


ドンッ!!

部屋の戸を思いきり拳でレンは叩いた


「どういうつもりだ?」

「レンさん…もう夜も晩いんですよ?」

「あのな…今あいつと何の話をしていたんだ?」

「なんの話って…」


リンは俯いてレンの目を真っ直ぐ見ることができなかった…エンペラードラゴンの事で本人(レン)がいない時に思わず口走ってしまいそうになったからだ


「すみません…でも聞いてください…」

「私だって悪い事と分かっています…レンさんがいない時に…重要な事を話してしまいそうになった事は謝ります…でも…」

「なんだよ…」

ふとレンがリンの足元をみるとポツポツと薄くシミが出来ていく、よく見るとシミの原因となる水らしいものが俯いたリンの顔から落ちてきていた

(ギョッ!!もしかして泣いているのか?)

「あの…レンさん…聞いてください」

涙を浮かべながらリンは先ほどトホシロから聞いた事をレンに全部話した


「…で」

「はい…」

「お前あいつの話どこまで信じているんだ?」

「どこまでって…」

トホシロとの会話の内容をリンは話し終え涙も止まり目が少し赤くなっていた、しかしレンはリンに対して呆れ顔だ

「お前さ、まさかそんな話信じているのか?」

「はい、だってトホシロさんのあの顔…嘘をついているように思えませんでした」


「俺は角が薬になるなんて聞いたこともないぞ?」

「でも…」

「それに俺の角…神角お前にちょん切られているから今はないし?まぁ、万が一ついていたとしてお前にお願いされてもアイツみたいなどこの馬の骨とも分からない奴にやる気はないし」

「レンさん!!」

「いいか?朝一番で出発だ…もちろんアイツが起きて来ないうちにな?」

「…もうアイツのとこ行くんじゃないぞ?約束だ」

「……はい」

「じゃあ寝ろ」

そう言うとレンはリンに背中を向けベッドに潜り眠りについた


「……」

リンはベッドの上で膝を抱えて考え込んでいたが暫くすると自分のカバンの中をゴソゴソ探し始めた

そしてハンカチに包まれた何かを取り出し確認するとその包みを抱いて眠りにつくのだった。


約束したとおりレンとリンは早朝出発することにした

まだ日が昇りきっていないせいか外は薄暗く霧も漂っている


泊めて頂いたお礼にと戸口にリンは教会とトホシロに手紙を置いていこうとした…昨晩大事そうに抱えて眠ったものを紙に包んで一緒にして

「じゃあ、いくぞ?リン」

「はい」

(どうかトホシロさんがこれに気が付いてくれますように…)



「あれ?早いんだね、もう出発かい?」


数メートル歩いた時、霧の向こうから声がした…誰かが近づいて来るのが影でわかった

「トホシロさん?」

「げっ…何でいるんだよ?」

「やだな?そんな露骨に嫌がらなくても…」

「俺が聞きたいのはどうしてこんな朝早く起きているのかって聞いているんだよ?まさか…お前待ち伏せか?」

「何って…ほら、薬草を積みに行っていたんだ?」

そう言うとトホシロは手に持っている葉をレンに見せた、それは昨日レンの筋肉痛を和らげた葉だ

「まだ旅を続けるんだろう?また同じ事にならない様に君に渡しておこうと思って摘んで来たんだけど…この葉は朝早く摘まないと枯れてしまうから」

「くっ」

「ありがとうございます、トホシロさん」

「ははは…でもレン君には迷惑だったみたいだね?」

「そんな事ないです!!ね?レンさん」

「……」

「はい、これ…使い方はわかるよね?」

「あっ、あぁ…」

トホシロは摘んできた数枚の葉をレンに渡した

「二人とも先を急ぐだろうから、引き止めるのはこれくらいにしておかないとね?」

「それじゃあ、またいつか会える事を祈っているよ」

そう言い手を振るトホシロ

「レンさん、ちょっと待っていてください」

「えっ?おい、リン」

リンは教会にかけて行き先ほど置いた包みを手にとりまた二人の元に戻ってきた

「トホシロさんこれ…本当は黙って置いていこうかと思ったのですが…」

「?なんだい」

トホシロはリンから包みを受け取り、そして手の平の上でそっとその包みを開けてみた。


「これは?」

その中にはオレンジ色に光る牙?骨?何かの欠片が包まれていた

なんだろうかとレンもその包みを覗き込む

(あーーーっ!!オレの角?!)

そう、その包みにはあろう事か初めてリンにあった時に切られたレンの後ろ髪?いや、今は形を変え角の欠片となり紙に包まれていたのだ

「おっ、おっ、お前それ!?オレの…」

レンはとっさにトホシロの手からその包みを取り戻そうと手を伸ばしたが間にリンが入って邪魔をされた


「それ…信じてもらえないかもしれませんがエンペラードラゴンの角…神角です」

「これが?」

「はい…どうかそれを使ってその…トホシロさんの大切な人を治して上げてください」

「でも、これがもし本物なら君にとっても大切なものなのでは?」

「いいんです、誰かの役に立てるならきっとこの角の持ち主だったドラゴンさんだって喜んでくれると思います。」

「そうですよね?レンさん」


(おいおい;;オレの意思は無視かよ)


リンは目を潤ませながら両手を顔の前で組んでレンに対しお願いのポーズを作る

「…仕方ないな…どうせあったところで、もうくっ付かないし;;」

ボソッとレンは小さくつぶやいた


「大丈夫だ、そいつは本物だ。オレが保障する」

「レンさん」

「保障って…レン君が?」

「あぁ、こいつの父親が傭兵で…昔オレ一緒に旅をしている時にそのエンペラードラゴンにバッタリ出くわして戦って勝ち取ったシロモノなんだよ」

レンの口は歪んでいた…とっさの嘘を思いつきでしゃべってはみたものの、まるで自分達がアスベルより弱い?みたいな気にさせられる


「あぁ、ちなみに戦って勝ったのはオレだけどな」

(これでよし!!)

自慢げに話し終わりレンは二人の方をチラッと見てみると、トホシロはポカーンと口を開いてレンを見ていたが、どうしたものかトホシロはお腹を押さえて後ろを向き笑い出した

「ク…クククッ」


「なっ、何がおかしいんだよ?」


「いや、ゴメン…ありがとう信じるよ、レン君強そうだものね?」

笑いをこらえながらトホシロはレンの方を見直す

「おう、オレは強いぞ?」

両腕を腰において胸をはるレン

「フフ…」

「リンさん」

クスクスとリンも二人の会話につられて笑っていたが声をかけられトホシロの顔を見る

「あっ、はいっ!!」

「ありがとう…これであの人のもとへと帰れる…あの人を助けてあげられる」

「二人とも本当にありがとう…いつかこのご恩は返すから…」

「そんな…恩なんていいです、ねぇ?レンさん」


「ん?あぁ」

流石にお礼を言われて嬉しいのかレンは顔が赤くなっていたので恥ずかしい為プイッと顔を横に向いた


「それじゃあ、用も済んだしサッサと行くぞ?」

そう言うとレンはリンをおいて歩き出した


「もうっレンさんったら;;」

「フフ…恥ずかしがりやなんだね?」

「すみません、では行きますね」

「うん」

「それじゃあ…さようなら」

「さようなら」

リンは頭を下げレンのもとへと駆けていく

その様子をトホシロは二人が見えなくなるまでジッと見守っていた


「本当にありがとう…感謝しますよ」



ザザザ・・・

二人が見えなくなって数分後、強い風が周りの草と木を揺らしトホシロのマントもなびかせ目の前を被う…風がとまった時、トホシロの目の前には一人の人物が立っていた。


その人物は長い黒髪を風に靡かせトホシロの元へと歩み寄る。

25〜28歳くらいだろうか?切れ長の冷たい目をした美しい青年だ

「…手に入ったようだな」

「ええ」

「フッ、皇帝竜と言え所詮は子供だな」

「…」

「では、例の物をこちらに頂こうか?」

黒い髪の青年はトホシロの前に立ち手を出す

「…約束は守ってもらえるのだろうな?」

出された手を避ける様にトホシロは先ほどリンから受け取った包みをギュッと握り締め


「ここまで来て心配するのか?誰が今まで何の為にあの者の時を止めてあげていたと思う?」

「その事に関して感謝はしているさ…」

「ならばそれをこちらに…約束は守るお前の取り分は渡すから安心しろ」

「あぁ…」

その言葉を信じトホシロは受け取った包みを青年へと渡した

「これであの皇帝竜を…フフフ…」

青年は冷たい笑みを浮かべながらレンの角の欠片を握り締めた、その様子をトホシロは冷ややかな目で睨み付ける


「…フフ、その様な顔をするな?お前の取り分はある…手を出せ?」


そう言うと青年は欠片を見えない力で割り半分をトホシロへ渡した。

自分の元に戻ってきた欠片を手にしたトホシロはギュッと握り締め角の感覚を確かめる、するとトホシロの手から体中に何か暖かい感覚と安心感が広がる…先程まで紙に包まれていたので分からなかったが手の平で生に触れてそれが最強と言われるドラゴンの角だと言う事が痛いほど分かった。


(これで…これであの人が救えるのか…)


「どうした?お前も触れてわかっただろう?これこそが我らには決して赦されない感覚、存在、そして力だ!! フッ‥ハハハハハハハハハ…」

青年は髪を振り乱しながら狂った様に笑う、そしてその様子を冷ややかな視線でトホシロは見つめていた


「アハハッ…クッ…ククク………」

顔に当てた指の間から目を覗かせトホシロを凝視する

「…………………………トホシロお前も約束を忘れるな?クククッ‥」


「あぁ、この欠片が本当に効いたら…僕は貴方の命令に‥下僕にでも何でもなってやるよ?」


「フフ…その言葉確かに聞いたぞ?宮廷お抱えの医師…トホシロ殿?」

ザザァ…

一瞬強い風が吹いた時、青年とトホシロはまるで陽炎が消えるかのようにその場から姿を消した。


その頃、レンとリンの二人はイーヴルへの道を歩いていた。

レンはスタスタと一歩前を歩いていた俯きながらもたまにチラッとリンはレンを見る…声をかけようとするが勇気がでない

トホシロと分かれた後、なぜか二人とも黙っていた…互いに言葉をかける事ができないで気まずい雰囲気が続く


「あのさ…リン?」

「?」

沈黙を破ったのはレンだった、その声にリンは俯いていた顔を上げる

「その…すまん…」

「え?」

いきなりレンが謝ってきたのでリンは少し驚いた

「あのさ、またオレ…嘘言ってしまったから…」


「嘘ですか?」


「あぁ…ほらオレがさ…あの角を戦って勝ち取ったシロモノだなんて嘘ついたからな」

本当はどうでもいい事なのだが、何か話題を作らなければとレンも必死である

そしてチラッとレンは横目で後ろを見る…とそこには今まで見た事もない笑顔で微笑むリンが立ち止まっていた

「レンさんは嘘なんかついてないですよ?」


(うっ…)


その笑顔を見たとたにレンは顔が真っ赤になり心臓が大きな音を鳴らす

(や、やば…なんでオレこんなドキドキしているんだ?)


「うふ」

「なっ、なんだよ?」

「だって…」

「?」

トトトッと歩いてリンはレンの腕をギュッと掴んだ後クルッと前に出てレンの顔を覗き込んでニコッともう一度微笑む

「だってレンさんが強いのは嘘じゃないですもの?ねっ?」

(うっ…)

「…ほっ、誉めたってぇ何にも出ないからなぁ」

体中が真っ赤になりレンは声も裏返っていた、動悸も早まる…それを悟られないようにレンは腕を振り払いスタスタと早歩きで歩きだした

「はい♪」

そんなレンを知ってか知らずかリンは嬉しそうな顔をして歩く


幸せそうな二人を追いかけるように青い一匹の蝶が空高く飛んでいる事を知らずに…


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