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4話(家族みたいに)

ビッシュについた時はもうとっぷりと日が沈んでいた。

仕方ないので宿を探し(自分は野宿でもかまわないのだが、リンはそう言う訳にはいかないらしい)一晩泊まる事にした。


「はい、二階に上がって右の奥の部屋だよ」

チャラ…宿の女将が部屋の鍵をレンに渡す。

「あのぉ‥私の部屋はどちらですか?」

リンはおずおずと声をかける


「なに言っているんだい?あんたら恋人なんだろ?だったら部屋は一緒さ」

「…はい?」

そう答えたのはリンじゃなくレンだった。リンは女将が言った言葉にきょとんとしていた。

「おい、おばさん・・・俺達どう見たらそう見えるんだよ?」

「じゃあ、姉弟かい?」

「ちゃうわ!?」

レンはカウンターをバンバンと叩く…どうやらレンの方が弟扱いなのが気に入らないらしい

「どっちにしても今時分に来たんだ、そんなに部屋が空いてる訳なかろう?さぁ、行った行った!」

どうやら女将はレンがカウンターを叩いたのが気に入らなかったらしい、そのまま奥の部屋に行ってしまった。



「コラァババァ!!逃げるなっっ!」

カウンターに乗り出そうとするレン

「レ、レンさん;;」

リンはレンを必死に押さえ、他の泊まっている客に迷惑だからと引っ張って部屋へと連れて行った。


ドサッ!!

勢いよくベッドにダイビングしたのはレンだ。

「う〜…ババア…朝になったら覚えていろよ?」

ブツブツ言うレンを後ろにリンは羽織っていたケープをハンガーにかける

「ごめんなさい・・・なんだか私のせいでレンさんに迷惑をかけて…;;」

「はっ?なんでお前が謝るんだ?」

「えっと…私と一緒にいたから…そのぉ恋人とか師弟に間違われて;;」

「別にお前のせいじゃないだろ?」

むっくりとベッドから起き上がりレンは座りなおした。

「でも、それじゃあ…なんで怒っているのですか?」

「…なんでだ?」

はたと気づき、なんで怒っているのかレンは首をかしげ考える・・・しかし自分でもさっぱり分からなかった。


「あの‥レンさん」

「なんだ?」

「その…」

「ん?」


「すみません…着替えますので…部屋の外に出てもらってもいいですか?」

リンはベッドの上に置いてあったパジャマを持ち恥ずかしそうにニッコリ微笑んだ。


コッチコッチコッチ

宿は静まり返り、部屋の中は壁に掛けてある時計の音だけが聞こえていた


(…眠れねえ;;)

あれから2時間くらいたっただろうか?レンはベッドから起き上がり頭をかきながら窓の外を見ていた。

月明かりが隣のベッドで眠っているリンを優しく照らしている。


「なんか…人間の匂いが染み付いたベッドって寝心地悪いんだよな…しかもこう…匂いが充満していて感覚鈍るし」

ふと見るとリンのベッドの横にあるサイドテーブルの上に水が入ったポットとカップが置かれている事が月明りで確認できた。


「水でも飲むか…」

ベッドから立ち上がった時、廊下の奥から何か音が聞こえた。

「?」

「なんだ?」

ズル‥ズル…ズルズル


気のせいかその音はレン達の部屋へ近づいてくるみたいだ

「…一応確認しておくか」

ガチャ

ドアを開けレンは廊下を覗いてみたが真っ暗な闇が奥に続いているだけで何も見えない

「気のせいかな?…まぁ…いいか」

そう思いドアを閉める…

(この時ドアの間にいるモノに気づく事もなく)

そしてリンのベッドの横に行き手をポットにかけようとした



キィィ…ドアが薄く開き何かがジッと部屋の中を覗き込む


「!?」

(やっぱり何かいる!?)

ダダダッ・・・


ポットにかけようとした手を構えレンはクルッと向きを変えドアに向かって走り出した。


「誰だ!?」

バンッ!

ドアを開け扉の向こうにいるだろう者に向かってレンの手刀が振り落とされようとしていた・・・


うぎゃあぁぁぁ……


叫びは一斉に宿に響き渡った

ポツポツと所々で宿の灯りがつき始める

宿泊している客が今の悲鳴で起き始めたのだ。


その悲鳴を上げたのは事もあろうかレンであった。しかもレンはビックリして腰を床に落としていた。


「ん…どうしました?レンさん」

リンは目をこすりながら起き上がった。レンの悲鳴に起きたのではなく宿の騒がしさにどうやら起こされたらしい


ドスドスドス

「ちょっとお客さん、こんな時間に何騒いで…って;;あ、あら?お母さん」

宿の女将が慌てて2階へとやってきたのだが、レン達の部屋の前にいる物を見て“お母さん”と呼んだ。

よく見るとその物体は白い花のレースをあしらったネグリジェを着た背の低い老婆だった。その老婆が廊下に這い蹲っていたのだ。


「な…なんだ‥コレ?!これって人間か?」

レンは目の前にあるシワだらけの老婆に向かって指を指した。

ふよふよとリンはレンの側まで近づき覗き込む

確かにレンの前には見た目は軟体動物?よくてカメ?の様にベッタリと廊下に這い蹲っているシワだらけのお婆さんがいた。

いかにエンペラードラゴンとてこの不気味な物体…いや老婆には驚いた様だ。


「おだまり!!レディに向かってこれとはなんだい?」

老婆はレンの指をはらうとその場にちょこんと座り込んだ。


「まぁまぁ、お母さんったらこんな時間に何をしているんですか?」

宿の女将は老婆の側にパタパタと歩いてきた。

「何を?って、あんたがここの部屋の客はぜぇーったい駆落ちだぁなんて言うから確かめに来たんだよ?」

老婆は女将の方をちらっと見るとニパッと笑う

「おっお母さん;;」


「ちょーっとまてよ?こらぁ…誰と誰が駆落ちなんだよ?」

目の前にいる老婆と女将にレンは怒鳴る

「違うのかい?」

シワだらけの顔がレンの顔を覗き込む

「当たり前だ!!」

レンの顔が少し赤くなる

老婆はちらっとリンの方も見る…するとリンも顔を赤くして首を縦に振る


「ほう…違うのかい?」

老婆は、“なんだつまらない”みたいな顔をしてため息を少しつく

「わかったか?」


「・・・しかしあんた今そのお嬢さんに・・・手出そうとしていたじゃないか?」

「はぁ!?」

「えっ?」

老婆はビシッと指でレンを指す

驚くようにリンはレンの方を見る、そして思わすレンから一歩下がった。

「違う・・ちっがーう!!オレは水を飲もうとしてだな!?ポットがリンのベッドの横に置いてあったからぁ」

あたふたとレンはリンと周りに説明し始めた。

「おやおや?その割には顔が赤いねえ」

老婆は両手を後ろで組んで真っ赤になったレンの顔を覗き込んだ

「ぜぇーったいに違う!!違うぞ?リン、信じてくれ」

リンに同意を求めるレン

「えっ?でも…」

リンはレンの目を合わせようとしない…自分でもどちらを信じていいのかわからない



「なんでもあの子の事襲おうとしたらしいぜ?」

「違うわよ?根性がなくてできなかったんだとさ」

「え?邪魔が入って出来なかったんじゃないの?」

他の客達の勝手な想像にレンは言葉が出ずワナワナと体を震え上がらしていた。


「やれやれ、邪魔して悪かったねぇ?あたしゃ消えるから仲良くおやり?」

ヤバイ…と思い一言そう言うと老婆は立ち上がりレン達の前からそぉーっと去ろうとした


「ちゃう!こらよく聞けっ!!」



「オレはベルが好きなんだー!!」


その声はその夜、宿全体‥いやご近所にまで響き渡った


ピーチチチ…ピピピ…

空気がひんやりと気持ちがいい

小鳥達が楽しそうに歌い始める朝だ


宿にある食堂

テーブルの上には半熟の目玉焼きとパン、スープ、コーヒーが並べられてある。

美味しそうな朝食…なのに二人は難しい顔をして食べていた。



「なんでも他に好きな女がいるらしいぞ?」

「かわいそうにあの子遊ばれたのね…」


夜が明けても尚も続く泊まり客の噂話…この様子だと尾びれ背びれががついているだろう…しかし当の本人(レン)はもう怒って怒鳴る気にもなれない


「ったく…これだから人間は」

「レンさん…」

テーブルに膝をつきレンは溜息をふうっとつく


「おやおや、若いもんが朝から溜息かい?」

横目で見るとこの騒動の元になった宿屋の老婆が昨晩のパジャマといい、今朝はヒラヒラのレースをあしらったエプロンドレスを着てポットを片手に立っていた。


「お嬢さんコーヒーのおかわりはどうだい?」

ニッコリと老婆は微笑む、顔がクシャッとなりどこに目があるかわからないくらいだ。


「あ、いただきます。ありがとうございます、おばあちゃん」

「おばあちゃんなんて呼ばないでくれ?これでもエリザベッタと言う名前があるんだから」

「あっはい、エリザベッタさん」


コポコポと温かいコーヒーがカップに注がれる

「すまないねえ、そっちのボウズはともかく…お嬢さんに迷惑をかけて」

「いえ、私は大丈夫です」

あははとリンは複雑な心境で微笑む


「妖怪の名前はエリザベッタか…似合わねえ‥」


ゴン!!

「〜ってぇ;;」

エリザベッタは思いっきりレンの頭を拳で叩いた。

「なにをする、このババア!」

チラッとエリザベッタはレンを見てフンッと鼻息をつく


「あの、エリザベッタさん」

何か話題を変えようとリンはエリザベッタに話しかける。

「その服とても素敵ですね?可愛らしいです」

「おぉ!!そうかい?似合っているかい?」

「えっ?」

可愛いとは言ったが似合っているとは口に出していない・・・・

「この服はねぇ、さる有名デザイナーが作った服なんだよ?」

ウキウキとエリザベッタは頬を赤らめエプロンドレスの裾を持ち上げひらひらさせた。

「デザイナーさんですか?」

「そう、インヂェンさんと言って今イーヴルで人気でね?ワザワザ行って作ってもらったのさ」


「ゼンゼン似合わねぇ…」

ドカッ!!

二度目は空になったティーポットで頭を叩かれた


「そのインヂェンさんね?とてもシャイでなぁ、そうそう年齢はあんたより少し年上っぽい感じだの」

「そうなんですか?私と余り年がかわらないのにデザイナーさんなんてすごいですね?」

「そーじゃろ、そーじゃろ?」

私達もイーヴル行きますから、ぜひ会ってみたいですわ」

「ホホホ、お嬢さんも行って作ってもらうといいよ?お嬢さんならまだ製作対象年齢だろうし、まぁ値は少々いくがのう」


「??対象年齢?」

「そうじゃよ?インヂェンさんは子供服専門のデザイナーだからのぉ」

「は…はぁ?」



(…って;;てめぇが着ているのは子供服なんか?!)

と思わずつっこみたかったがレンはあえてやめた

リンも自分はそんなに子供っぽく見えるのかと思い少し悲しかった。


朝食をすませ二人は次の村アムデコを通り過ぎナワイへ向かう。

前回の経験を踏まえ時間はかかるが街道を行くことにした。


「そう言えば…レンさん」

「んー?」

「私のお母さんが好きなのですか?」



ブーッ!!

それはアムデコを通り過ぎナワイへ向かう途中、道の横にあった木の下にて昨晩は迷惑をかけたと朝エリザベッタがお昼に食べなさいと貰ったサンドイッチを食べている時だった。

「なっ、何をイキナリ言うんだ///」

レンは耳まで真っ赤になっており、服には食べはじめたばかりで噴出したサンドイッチがベッタリとついていた。


「ごっ‥ごめんなさい!!聞いたらいけませんでしたか?」

「はぁ?!」

「だって…レンさん昨晩…ベルが好きなんだって…そう叫んでましたから…」

リンは服をハンカチで拭いてあげながら下から覗く感じでチラッとレンを見る。


「ベルって…私のお母さん事ですよね?」


そう言われて昨晩の事をレンは思い出す、誰にも言った事もない言葉…本人(ベル)にさえ伝えたことがない言葉を昨晩は気が動転して大声で叫んでしまったのだ。


「いやぁ…えーっと;;」

空を見上げた後ポリポリと顔をかきリンの方をチラッと見る。

服の汚れを拭き終わったリンは下を向いて足元に咲いている小さな花をジッと見ていた。

なんとも言えない沈黙が二人の間に続く

すると2羽の小鳥が飛んで来て下に落ちたサンドイッチの欠片を食べ始めた。

1羽は体がもう1羽よりも小さく、大きい方は小さい鳥が食べているのを優しく見守っている、どうやら親子のようだ。

その様子を見ていた後レンは遠い記憶を思い出す様に目を閉じてもたれている木を見上げた。


「ベルは、強くて…綺麗で…そして聡明で……」


「えっ?」

リンが振り向くとそこにはさっきまで照れ笑いしていた人物とは思えない別の顔、真剣な顔をしたレンがそこにいた。





オカアサンハ…ドコ?


薄暗い洞窟、天上のあちこちの穴から僅かな光が漏れる。

洞窟の割には気温が高い・・・たまに奥の方から熱風が吹いてくる。

そんな場所に藁が敷き詰められておりその上で一匹のドラゴンが卵から孵った。

小さなドラゴンの子供はまだ見えにくい目を凝らし、匂いをかぎ、気配を探りながら自分を産んだ母親を一生懸命探す。


ドコ?ドコニイルノ?


まだうまく歩けない…前足と後足を動かし這いながら熱風が吹いてくる方へと進む。

やがて奥に進むにつれて強烈な熱気とボコボコと音が聞こえてくる


ソコニイルノ?


待ち望んでいた母親に会えると思い子竜のスピードが早くなる

どんどん目的に近づくにつれて洞窟内が明るくなっていく


イマソコニイクヨ…オカアサン



イマイクカラ…




ギュットダキシメテ…


自分を産んでくれた母親が奥にいると思い必死になって這って来た・・・抱きしめてもらう為に

しかし生まれて間もない小さなドラゴンの目が見た光景・・・そこには


ボコボコと音を立て湧き出しているマグマ溜まり、その中央にある島の上にある爛れた物体…殆どの肉が腐って崩れかけてはいるが骨の形、そして匂いで子竜にはそれが何かがわかった。



お母さん?



子竜は母親だったらしいその物体の前で過ごした。

お腹が空いたので自分を包んでいた殻を食べた…生まれた後は自分の匂いを消す為と栄養があるから食べろと本能が教えてくれたからだ。

しかし、その殻も食べ尽きてしまい子竜もどうしたらいいか分からず丸くなってジッとしていた。

それから3〜4日たっただろう…動く力さえ残っておらずもう自ら死を選ぼうと子竜は思った。

目を閉じて舌をかみ息絶えようとした時だ…何かがフワっと子竜の体を包み込んだ。



「やっとみつけた・・お前は私が望んで生まれて来たのだから死なせるわけにはいかない」


「そう言ってその人物は俺を優しく抱きかかえ・・・あの洞窟から自分の住む場所に連れて帰り育ててくれた」


「それじゃぁ…その人物は」


「そう…それが…その人物がお前の母親のベルだ」

レンはリンの方を向きニカッと笑う

「だから俺にとって、ベルは母であり、姉であり、尊敬する人物であり・・・・何より」


「一番大切な人なんだ…」

その言葉を言った時のレンの顔が少年っぽい笑顔から少し大人びた顔をした事をリンは見逃さなかった


「??どうした?」

「えっ?」

「なんかお前少し顔が赤いぞ?」

レンにそう言われてリンはパッと両手を頬にあてる


「なんでもないです!」

(どっどうしてでしょう?…今何だかチクッとしました;;)


幼い時、母親は大切な仕事があるからと父親から聞き殆ど会った事がなかった・・・しかも5歳くらいまでの記憶しかない。

それなのに…レンは母・ベルとは一緒に暮らしていたのだと初めてリンは知ったのだ。


(きっと…私の知らないお母さんの事をレンさんが知っているので嫉妬したのですわ・・・きっとそうです・・・;;)

なんて心が狭い人間なんだろうとリンは自分を恥じた


「あ…」

リンは何かを思いついたのか軽くポンと手を叩く

「?なんだ?」

「そうですわ?私はお母様の娘ですもの!!」

「??」

スクッとリンは立ち上がり両手を胸の前に掲げ目をキラキラさせた。


「レンさん!!」

「なっ、なんだよ?」

いきなりのリンの行動にレンはビクッとした

(また変な事思いついたんじゃあ・・)


「私とレンさんは、家族なんですわ!!」


「はぁ、はい??」

レンはリンの言葉に目が点になる

「だって私はお母様の娘、レンさんはお母様に育てられたのですもの!!血は繋がらなくても家族になれるはずですわ?」


「ちょっとまて!!」

(血はともかく・・・種族も違う〜)

思わずレンは一人勝手に暴走するリンに手をかざしストップさせようとした。


「私達仲良くしましょうね?本当の家族みたいに♪」

止めようとした手はリンの両手に包まれる

無邪気に微笑むリンに思わず吊られてレンは


「うん」

ペコリと頭を下に振る

オレって…本当に最強のドラゴンか?と後から自分に突っ込んだことは言うまでもない


(そうだ…今度レンさんに弟か兄のどちらがいいか聞かないと)

新しい家族が出来たと喜ぶウキウキなリンがそこにいた。



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