3話(うそはダメです)
「なぁ、おい」
「はい?レンさん」
「ビッシュに向かう道はこっちでいいんだよな?」
「えっ?あの‥えっと…ここ道の上を歩いているように見えないのですが?」
二人は町を出た後、港町イーヴルに向かう事にした。
そこまで行くにはビッシュ、アムデコ(村)、ナワイ(町)、ケートキ(村)、ロムロ(村)、ガント(村)を経由して行く事になるのだが、途中すれ違った旅の商人がビッシュに向かうには街道の途中に細い分かれ道があるからそこを行った方が近道だと聞き、言われたとおり歩いていたはずなのだが、二人が進むに連れて段々と周りはうっそうとした雑草と木が生い茂った獣道に変わっていた。
ガサガサ・・・・青々と茂った自分たちの背ほどある草むらを手で掻き分けながら二人は歩く
「確かビッシュまで近道で歩いて5〜6時間で着くはずと仰っていたのですが…」
「あぁ、あのおっさんそんな事言っていたな?」
「しかし、誰かさんが角をちょん切ってくれたせいで方向音痴になるわ…元の姿になって飛ぶことも出来ないわぁ」
「元の姿に戻れないのですか?」
リンは申し訳なさそうにレンの顔を見る
「ん?あぁなれない事は無いが…」
「?」
「力のコントロールが出来ない。俺が元の姿に戻ったりしたら一瞬にしてここら辺り…イヤこの大陸が炎に包まれ灰になるだろうな」
「一瞬ですか?」
「あぁ、あんたなんかあっという間に灰になってしまうぞ?」
「そっ、それじゃあ私の住んでいた町の人達も?」
「そうだな…あの村の連中も燃えちゃうだろうな」
見る見る不安な顔になっていくリン
「神父様も?」
「神父様も!」
「…」
「だっ、ダメです!!お願いします元の姿に戻らないで下さい!!」
リンは今にも泣きそうな顔をしてレンの腕に必死にしがみ付く
「いや、だからならないって」
レンはポリポリと顔を指でかきながら頬が赤くなる、どうやらしがみ付いた腕にリンの柔らかい胸が当たっているらしい。
(…結構胸あるんだな///)
「おいおい、よくこんなところでいちゃついていられるな」
茂みの中から声がした、すると三人の男が二人の前に姿を現した。
皮の胸当てをつけ、手には棍棒を持ちどこからどう見てもガラが悪そうで人相もいいとは言えないヒゲ面の大男達だ
「ヒヒヒ…女がいるぞ?!女が」
一人の男が口に指を咥えながらリンの方を見る
「レンさんこの人達どなたでしょう?」
リンはレンに問いかける
「なんだ?お前ら」
レンは怪訝そうに男達を睨む
「女はいいが男の方はどうする?」
「まだガキみたいだな?子供だから筋は少ないんじゃないか?ヒヒヒ…」
三人の男はレン達の前に立ちふさがった。
「…お前達バジリスクか?」
レンはリンを庇う様に前に出て男達を睨み付けた。
「ハッ、ハハよく分かったなぁ小僧」
「そうさぁ俺達はバジリスク様だ!」
「分かるも何もお前らからするいや〜な臭い、そしてその三本の指どう見ても分かるだろ?普通」
「悪いけど俺達先を急ぐから退いてくれない?お前らの相手をしていられないんだよ?」
「さぁ、行くぞ」
と言うとリンの腕を掴み男達の横を行こうとする
「ふざけるな!小僧!?」
「お前達は俺様達の食事なんだぞ?逃がす訳ないだろうが?」
男達の一人がレンの襟元を掴もうとした
ガッシュ!!
するとレンはリンの腕を掴んでいる方とは逆の手で男を殴り倒した。
ドサッ!
男が大きく宙に円を描いて地面に落ちる
「お前ら誰に対してそんな口利いているんだ?」
俯きながらレンは低い声で言う
「なっ!このガキ!?」
「かまわねぇ!!このガキから殺して食うぞ!?」
一人の男が大きく口を開けた…するとみるみる首の辺りまで口が裂けて行く
(正体現したか…)
グルルルル…
目の前にいた男達は二足立ちの全身鱗のような硬い皮膚に覆われた2メートル半はあるだろうか巨大なトカゲに姿を変えていた。
「きゃっ!!レンさんこの人達!?」
目の前にいた男達が不気味なオオトカゲに変貌するのを初めて見た為かリンは顔が青くなりガタガタと振るえだした。
「おいおい、その不気味な姿をこの女の子が怖がっているぞ?」
馬鹿にしたようにレンは鼻でフッと笑った。
(レンさん怖くないのでしょうか…)
リンはレンの背中に隠れながらソロッとバジリスク達を見る。
(やっぱり‥怖いです…)
「ガハハ、どうせすぐ俺達の腹の中に入るんだから少しぐらい我慢しろ」
一匹のバジリスクがそう言うと口からレン達に向けて何かを吐いた。
紫色の霧だ
(しまった!!毒!?)
レンはとっさにリンを押倒しその上に覆いかぶさった。
「ほえっ!?レンさん?」
いきなりのレンの行動にリンはびっくりした。
レンの体重がリンの背中に重くのしかかる。
レンにとってバシリスクの毒はなんでもないが人間のリンには猛毒なのだ。
『今から30秒程息を止めていろ!!』
レンはリンの耳元で囁く
それに答えるとリンはコクンと頷き息を止めた。
それを確かめるとレンは霧の中を立ち上がり、ハァーっと息を吐き出し今度は大きく息を吸って毒の霧を吸い込み始めたのだ。
見る見る霧はレンの口の中に入って消えていった。
「なっ、何?馬鹿な!!」
その行動に驚いたのはバジリスク達だ。
「こいつ俺の毒の霧を吸い込みやがった?」
レンは吸い込んだ口を腕で擦りながらニヤっと笑った。
「貴様、人間じゃないな?!」
一匹のバジリスクが三本の真ん中の指でレンを指す。
「ばーか、今頃気がついたのかよ?大体人間がお前らを見て怖がらないはずないだろ?まぁ例外はいるかもしれないが…」
ふとある人物を思い出し、何故か自分がゾッと身震いをした。
「と、とにかく俺はお前らの天敵‥ドラゴンだ!!」
「ドラゴンだと?貴様みたいなガキがか?」
「大体ドラゴンがこんな所にいるはずなかろうが?しかも貴様指が5本あるじゃないか?」
レンは両手を腰に当て偉そうに踏ん反り返った
「フッ…あのなぁ、ドラゴンはドラゴンでも5本指のドラゴンといやぁ…解らないか?その爬虫類の頭じゃ」
「まさか!!エンペラードラゴン?」
「大当たりw」
レンはニカッと笑い両腕を胸の前で組んでふんぞり返る。
その言葉でバジリスク達の顔が青く変わる、いやもともと青白いのだが‥
「お前らなんて俺が元の姿に戻ればあっという間に丸呑みだぜ?」
ニィィッとレンはバジリスク達を見ながら舌で口元を舐める
「ヒッ」
「やばいぞ!逃げよう」
「人間の女を置いてか?」
「バカ!!女を食ったとしても俺達がこいつに喰われたらしょうがないだろ!!」
アタフタとバジリスク達がうろたえ始めた。
「でっ、どうするんだよ?なんならさぁ、味みてあげようか?」
「ヒィィィィ 逃げるぞ!!」
三匹は慌てながら草むらの中へと消えていった。
「やれやれ、お前らなんか誰が喰うかよ?オレは舌が肥えているんだ」
そう言うとレンは中指を立ててバジリスク達が去っていった方へ向けた。
ポカーンと口を開けてリンが座り込んだままレンを見上げている
ンンッ?とレンはその視線に気づきリンに手を差し出す。
「大丈夫か?」
差し出された手にリンは我に返る
「あっはい、レンさんってすごいのですね?」
リンはレンの手をとって立ち上がる。
「ハハ…それ程でもないけどな?」
レンは照れながら頬を赤らめる。
「ありがとうございます」
ペコリとリンは頭を下げた。
「でも…嘘はいけませんよ?」
「はい?」
頭を下げた後リンはレンの顔に自分の顔を近づける
「さっき…元の姿に戻ってと言ったじゃないですか?」
「いや、あれはしょうがないだろ?あの場合は…そうしないとお前…」
「うそはダメです!!いいですね?」
リンはレンの手をギュッと握り締めた
「はっはい;;」
その後レンとリンは予定よりも一時間程遅れてビッシュに着いた。
どうやら道は間違ってはいなかったらしいバジリスク達が去った後よく探すと横に細いながらも道がある事に気がついた。
どうやらバジリスク達が人間を迷わせる様に術が施してあったのだ。