2話(行ってきます)
「どうぞお入りください」
教会の裏にレンガでできた住居があり、リンは木のテーブルと椅子のある部屋へとレンを案内した。
「どうぞお掛け下さい」
「あ?ああ」
レンは木の椅子に座ってキョロキョロ見渡す
「今お茶を用意しますね」
パタパタとリンは奥にあるドアを開けレンのいる部屋を出て行った。
(なんだか話がまるで違うぞ?まさか教会にいるなんて聞いてないし、それに俺達ドラゴンが教会苦手だってベル知っているだろ?)
(まぁ、俺みたいにエンペラードラゴンで力が強いと教会なんて屁でもないけどね♪)
(しかし…あのリンと、他の人間?色々な人間の匂いはするが…あいつらの匂いしないな?)
コンコン
「お待たせしました。」
先程出て行ったドアからリンがトレーの上にティーポットとカップを持って入ってきた。
「どうぞ」
レンの前に入りたての紅茶が置かれる
「どうも…」
レンはカップを手に持つと匂いをクンクンと鼻で嗅いだ。
ベルや仲間に話には聞いていたが、今まで生きて来てお茶を出された事、ましてや飲んだ事すらなかったのだ。
「ところで…えっと、レンタイトさん?」
リンはレンの向かえの椅子に座り手を膝の上に置いて話しかけた。
「レンでいい、それでなんだ?」
コクン、紅茶を一口レンは入れた
(へえ、結構いけるな…人間の飲み物も悪くない)
「今日はどの様なご用件でこちらに?もしかして旅の途中で?あ…でも、私の両親を知っているみたいですが?もしかして何か悪い事され、父に退治されて観念し正しき神の道へ向かう為に懺悔しに来られたとか?」
リンは目を輝かせる、それを見てレンは目が点になった。
「はぁ?なんで俺があのオヤジに退治されるの?それにアイツの方が悪徳そのものでは?じゃなくて、そんな事より俺はベルの子供…つまりあんたとあんたの兄ライオットに会いに来たよ、特にライオットに」
( あの俺様ヤローに…成長して少しは性格変わっていてくれよ?)
「まぁ、兄様もご存知なのですね」
リンは嬉しそうにニコニコ微笑んだ。
「あ‥あぁ…」
(昔はよくイジメラレテ…)
レンの頭の中に苦い思い出がよぎる
「残念ですわ、兄は8年程前から不在なのです」
「ふ・・不在?・・・って8年?!」
「えぇ、私が幼い時に父の知り合いの家に…ついでに言いますと、お父様も5年前に出かけたきりまだ帰ってきていませんの」
「連絡は?」
「ないですわ?でも出かける時はすぐ戻ってくるっておっしゃってまし、連絡はできないけど心配はしなくて大丈夫だって…それに神様がきっとお父様を見守ってくれています、私お父様が無事で居ますようにと毎日教会でお祈りもしていますから」
(オッ、オイオイオイ;;)
「それってさ、行方不明って言わないか?」
「はぁ、でも行き先はウェンゼルナ国と言っていましたから、行き先はわかっていますし」
(な・・・ウェンゼルナ国行って帰ってこないって・・そりゃやばいんじゃぁ・・・)
「あのさ、あんた自分の周りで変な事とかなかったか?」
「え?変な事ですか?」
リンは暫く考え込んで何か思い出したのか手をたたいた。
−ポンッ−
「そう言えば、二件先のユウさんの所のお爺さんが入れ歯盗まれたとか言っていました」
「そうじゃねぇ…えっと、あんた身の危険を感じるような事はなかったか?と聞いているのだけど?」
リンはレンが言っている意味がわからないのかキョトンとした顔をした。
「だから命が危なかった事なかったか?っと」
「命ですか?あ…一度自分の不注意で川でおぼれ掛けた事はありますわ?7歳くらいの時なのですがお気に入りのハンカチが流れて行ってしまって拾おうとして…」
「あっ!!でも黒くて長い髪の男の方に助けて頂いて」
「あーっもういい…」
レンは自分の手をリンの口の前に当てた
(…まだ大丈夫そうだな)
−ガタン−
レンは椅子から立ち上がった
「よし!!決めた」
「はい?」
リンの手を掴むとレンは外に連れ出そうとする。
「ど、どこに行くのですか?!」
「決まっているだろ?この町を出るんだよ?そしてウェンゼルナ国に向かう!!」
「はっはい?」
突然のレンの行動にリンは呆然と引き摺られていたが、ハッと我に返り足に力を込めてレンの行動を止めた。
「ちょっ!!放してください!?」
レンの手を振り払う
「ダメです!!お父様がいい子で待ってなさいって言われましたわ」
掴まれ少し赤くなった腕をさすりながらリンはレンの方を見た。
「いや、あのさお前の親父ウェンゼルナ国行って行方不明になっているんだぜ?心配じゃないわけ?アニキの方もだけどさ」
「し、心配ですけど…でも」
「お父様は強いから必ず帰って来ますもの…」
そう言うとリンは今にも泣きそうな顔になり俯いた。
「だけどさぁ、5年だぜ?それに刺客がもう町に来ていてお前の様子を伺っているかもしれないし」
「刺客ってなんですか?」
聞きなれない言葉に泣きそうになっていたリンは目をパチクリさせレンのほうをジッと見た。
「お前、まさかと思うが自分の身の上まったく知らないのか?」
リンはレンの言葉に首を傾げる。
レンは頭をボリボリとかきながらため息をする
「えーっと…おさらいね?あんたの親父はアスベルで母親はベルフィナだよな?」
「はい、間違いありません」
「じゃあ、あんたの血筋だけど…お前の父親は」
「私の父は傭兵をしていますわ?まぁ、主に用心棒らしいですが」
「いや、それは今の職業であって血筋なんだけど?」
二人は顔を見合わせる
「?私何も聞いた事ありませんもの‥一緒にいる時間が殆どありませんでしたし」
リンの顔が俯く
「本当に本当か?」
「はい」
(はぁ?まさか何も知らせてないなんて…アスベル何しているんだよ?こいつに血筋やら今までの事話すのも俺の役割ってか?)
(しかしこれでも俺口ベタだから…どっから説明すればいいんだよ?)
レンは顔の眉間にシワをよせ一人でブツブツと言っている。
「あのぉ?」
それを見てリンはレンに声をかけてみた。
「あっ‥」
その声を聞いてハッとレンは我に返る、そしてリンと目が合ったがリンはレンから目を逸らした。
「い、いえ‥なんでもないのです」
「あのさ」
レンは“ふう”と溜息をつくと自分が知っている事すべてを話したい
リンの母親ベルフィナがドラゴン達の長である皇帝竜と人間の間に生まれた娘でドラゴン達の守人であること、父親がウェンゼルナ国の第一王子で国が大臣によってのっとられた事・・・など
「そうだったのですか、そんな事があったなんて…」
リンは父親と母親の過去の出来事と自分の身の上を知った為か悲しげな表情を見せた。
「まぁな、もしかしたらお前の身を案じ何も教得なかったかもしれないな」
「そう言えばお母様、お母様も遠くで暮らしていると聞いたのですが…レンさんはお母様の事をよく知っているのですよね?」
「あぁ…ベルは生きているよ。大丈夫だ、俺ベルに頼まれてお前の所に来たのだから」
その言葉と裏腹に何故か少し悲しげな顔をしてレンは微笑む
しかしその顔をリンは見逃していた、その顔の意味に気づくこともなく…
「そうですかお母様に逢われたのですね?今はどちらに住んでらっしゃるのですか?」
「あぁそのうち話すよ。それより今はとにかくこの町を出てウェンゼルナに向かわないと…な?」
ポンポンとリンの肩を叩きながらレンはニッコリと笑う。
リンを叩いた手が少し汗ばみ顔にも汗が浮き出している
それもそのはず…いくら皇帝竜でも今は大切な角がなくなった状態である。
しかも苦手な教会(聖域)なのだ、長い事いると気分も悪くなり冷や汗もでる。
「……」
リンは少し顔を下に向けて黙り込んだ。
「どうした?」
「…あの、神父様が…私がいなくなると年をとった神父様がお一人になってしまうの」
「私の事は大丈夫じゃ、行っておいで…」
ガチャ‥キイィ
そう言いながら入って来たのは白髪の老紳士。
口のまわりと顎に髭を生やしていてやしていて年齢は70歳くらいだろうか?その割には背筋がピンとしている。
「神父様お帰りなさいませ‥」
「すまぬ、盗み聞きするつもりはなかったのだが二人の会話が聞こえてきてな?」
「私の事はよいからお行きなさい」
「でも…」
リンは今までお世話になった神父を置いて旅に出るのが心もとなかった。
「いいのだ、リンよ?私はお前の両親に昔言われておるのだ‥もし自分達が戻らなく数年たってからリンを迎えに来た不思議な若者がいたら一緒に行かせておくれと…」
「神父様がお父様とお母様に?」
「あぁ、だから行っておいで?これもお前の運命だろう」
「そこの若者よ」
「オレ?」
レンは自分の顔に指をさす
「どうかリンをお願いします」
そう一言レンに言うと老神父は深々と頭を下げた
「あっ?あぁ、まかせな」
バンっと胸を片手で拳を作で自分の胸を叩いて見せた
「ありがとうございます神父様、必ず父と兄を連れて帰ってきます。」
リンは神父の胸に頬をあて嬉しそうに微笑み涙を流した。