プロローグ
─プロローグ─
ヴィクトリア大陸にあるヴォンセンヌ地方、この地方は非常に暖かい。その地方の中心にある大国ウェンゼルナ・・・そこは水源と緑・・・豊富な資源にも恵まれたとても美しく不思議なことに天災も起きない、女神・ウェスタベルタに守られし国で有名であった。
だが、約1000年続いたこの国も我が手に入れたいとする貪欲な大臣の手によりその地位を奪われた
王家の血筋は絶えたと思われたが,王妃と幼き王子は難を逃れ生きていたのだ。
王妃はボロボロになりながらも王子を連れてある場所へと向う。
その場所はヴォンセンヌ地方より遥かに北にあると言われている「彼方の地」と言うドラゴンが住まう場所・・・しかし、そこに辿り着くまでは高い雪山を登り越えて行かなければならなかった。
王妃と王子は5つ目の雪山を歩いていると氷でできた洞窟を見つける。
回りの氷はキラキラと光りダイヤモンドのように美しいが、まるで何者も近づけさせない冷たさを持っている。
やっとの思いで辿り着いた最後の砦だが、その頃には王妃はもう虫の息だった。幼き王子は母を支えながら冷たい風が流れてくる洞窟の奥へと進む…どれくらい歩いただろうか?洞窟の奥のほうから光が見え始め周りの氷が七色に輝きだす、出口に辿り着いたのである。
洞窟を抜けるとそこは雪がなくなり目の前には青々とした草原が広がっていた。
王子は母を連れ草原に一歩踏み出そうとした時どこからか声が聞こえてきた。
「この地に足を踏み入れるという事はその身が滅びてもよいと言う事か?」
声がした方を見てみると、洞窟の出た上の岩場を見上げると17歳くらいだろうか?一人の少女が座っていたのだ。
髪の色はオレンジ、瞳は金色だ。
「お前達は禁を犯しているのは重々承知か?ここは(彼方の地)決して人間が入ってはいけない場所だ。」
王子は恐る恐るその少女に声をかけた。
「母上が病気みたいなのです、どうか助けてください。」
少女はじっと少年の方を見た後、少年が支えている王妃の方を見て目を細めた。
「その者…もう助からぬぞ?」
「え?」
王子は目を大きく見開いて少女を睨んだ。
「うそだ!?」
「…本当よ…私は‥もう…」
今にも消えてしまいそうな小さな声で王妃は息子の耳元で告げた。
崩れてしまいそうな細い体を最後の力を振り絞るかのように王妃は凛として少女を見上げる
「私はウェンゼルナ国ウェルト家が妃・リザベルーテです。王家に伝わる言い伝えの通りこの地へと参りました。」
王妃はそう言いながら胸元から何かを取り出して頭上へと掲げる。
「ここにあるのがその証・・・最強のドラゴンの角で作られたペンダント…これ何かはご存知でしょう…」
そう聞くと少女はピクッとした。
そのドラゴンの角で出来ていると言うペンダントは中がくり貫かれベルのような形をしている。
そしてそのペンダントが風に揺られる度に心地よい音がする
「そうか、どおりでそのお前達血からは懐かしい香りがするはずだ…ヴェンゼルナの王家の者だったのか」
少女は呟いた後、その顔は少しだけ強みがなくなった。
「ところでお前達は何しにここへ来たのだ?いかに王家の者であろうが近づいてはならぬと知っておろうに」
王妃は必死の思いで目の前にいる少女に伝えはじめた
ウェンゼルナが大臣によって奪われ王家の者は自分と王子を残し殺されてしまった事
「どうか、ウェンゼルナの血を絶がえぬ為、また王家を復興する為の力をお貸しください・・・」
「…今ドラゴンは繁殖の時期に入っている、オスのドラゴンは役目を終え殆どが眠りにつき、メスのドラゴンは卵を宿している状態だ・・・動けるになるまで20年近くにはなろう…それでも良いというのか?」
「…そこまで言うのならば」
少女は少し考えた後、王妃に向ってこう告げた
「王妃よ、そなたの命は永くない…その身、子を宿した后妃竜達に捧げてはくれぬか?」
「なっ!!」
それまで黙って聞いていた王子だったがその一言を聞いた突如険しい顔になった。
「・・・なんだ?小さき王子よ?」
「捧げろってどう言う意味だよ!!」
「その身…血と肉を后妃竜達に喰われろと言っておるのだ‥」
「!?」
王子は一瞬小さな手で拳を作り身構えたが、王妃の手がその拳を止めた。
「もう幾許かもない命、そしてウェンゼルナの王家の血を引く者、霊力もありそうだ…もし后妃竜達がその身を喰えば強い力のドラゴンが生まれるに違いない…」
「それに従えば、王家を復興させる手助けをきっとその子供達にもさせよう・・・どうだ?悪い話ではあるまい。」
王妃は霞んで見えなくなってきている目を見開く
「分かりました。我が身を后妃竜達に捧げましょう・・・この子と王家の為に。」
横で聞いていた王子は身を震わせながら母の腕を握り締め、涙を浮かべて見上げる
「ごめんなさい、アスベル・・・・お前と王家の為なの、これから一人になるけど逞しく・・・強く生きて、そしていつか王家を復興させて下さい。」
「…母上」
(御免なさい…アナタを道連れにする母様を許して…)
心の中で王妃は呟きながらそっとお腹の上に手を添えるのだった
「では王妃よ、お前は一人でこの先に進むがよい。この先に后妃竜達が住まう泉の辺がある…今までの会話は后妃竜達に聞こえていただろうからな…」
「はい‥」
よろよろとしながらも歩き出す…数メートル程進んだ辺りで一度王子の方に向き優しく微笑むと王妃は霧に包まれ中へと消えていった。
「ははうえー」
王子は地に手をつき瞳に涙を浮かべながら大きく叫んだ。
「母の骨を花が咲く綺麗な丘に埋めてあげよう…」
少女はそう呟く、先程までとは違って冷たい表情ではなくなっていた。
「…どうして貴女がそんな悲しそうな顔をするの?」
「…私の名はベル…ベルフィナ」
王子はその名を聞いてハッとなった。
ベルがつく名はウェンゼルナ王家の者しかつけられぬ名であり、はるか昔、皇帝竜に嫁いだ王家の姫が産んだ子供の名前を
「そんな…まさか?」
「お前の母の骨を我が母が眠るこの地の一番綺麗な場所に作ってやる。花が一年中咲く綺麗な場所だ…」
そう言うと先程王妃が持っていたのと同じようなペンダントを取り出しそっと手をあてた、すると光の玉が中に吸い込まれていく。
「このペンダントによって願えば母の墓への道を開く鍵となろう…」
ベルはそっと王子の首にペンダントを下げる、すると王子は小さな手でペンダントを握り締め、声をあげ泣き崩れたのだった。