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Run away! 2

本と過去と今

作者: 貴幸

「時人、そういえばこの前借りた本面白かった。」


「そっか、良かった。」


一瞬、ドキッとした。

何かを思い出した気がして。


「今度続き見にいって良い?」


なんて答えるか迷った。


「うん、今日暇だし今日でもいいよ?」


「本当?ありがとう。」


なんだかいやな気分だ。








家に帰り、雪ちゃんを迎えようとした。


「え?」


鍵を開けようとした。

開いてる。

既に開いている。

どっと冷や汗が湧き出た。


「ゆ、雪ちゃん、ちょっとここで待ってて…」


ドアをあけ家に入り靴の並べてある場所に確かに女性用の高いヒールの靴がある。


不安は募る中部屋に入ると一人の女性が待っていた。



「母さん…っ!」



「時人おかえり。」



当然のようにソファーに足を組んで座っているその人を今すぐ殴りたい。


「なんで帰ってきたの!?」


「つい先日まで友達とニューヨークに旅行行ってて帰ってきたついでに来たわ。」


つい先日三日間くらい旦那とニューヨークに新婚旅行に行ってて帰ってきたついでに死んでたりしないか確認の為に来たのか。


「時人…」


後ろから雪ちゃんの声が聞こえた。

振り返ると雪ちゃんが家の中に入ってきてた。


「わーっ!!」


母は雪ちゃんを見て少しニヤッとした。


「あら、彼女?」


「ちがっ……………そ、そうだけど。」


「えっ!?」


雪ちゃんの手を握る。

ごめん、嘘をつかせて。

あぁ、母と会うだけで手が震えるなんて。


「へぇ、はじめまして。名前は?」


「え、えっと、坂道雪です…」


「雪ちゃんって可愛い子ね、時人にはもったいない。」


「そ、そんなっ…」


こいつは何をたくらんでいるんだ…


「雪ちゃん、時人とは何処までいったの?」


「えっ!?」


「な、何聞いてるの!?」


顔が熱くなる。

何処までって何処までもいってるけども。


「もういいよはやく帰ってよ!」


「時人、私に女の子見せたのは二回目ね。」


眉がピクッとあがった気がする。


「三回目がない事を願うわ。」


そう言い残して母は家を出て行った。


「はぁ…最悪……」


力が抜けてその場に膝を落とす。


「ちょっ、時人大丈夫?」


「あ…」


目から涙が流れている事に気づいた。


これは悲しみ?嬉しさ?恐怖?


「大丈夫?時人。」


雪ちゃんは僕の涙を拭ってくれた。

ふと自分が言った事を思い出す。


「ああああ!雪ちゃんごめん!!」


「えっ!?どうしたの?」


「そ、その、彼女とか言っちゃっ…」


雪ちゃんのほおが少し火照る。


「別に嫌じゃないから良いけど」


ドキッとする。

あんまり言われると照れるからやめて欲しい。


「雪ちゃんは優しいなぁ」


僕はその気持ちにまだ答えられてない。

答えられない。

ふと手を見る。



「…手も触れられなかったなぁ。」



親の温もりなんて忘れてしまった気がする。


そんな事を思っていると雪が手をにぎってきた。


「雪ちゃん…」


「大丈夫だよ。」


雪の指は僕の手から解かれそのまま腕を伝っていく。

少しゾクゾクとする。

なんだか変な雰囲気だ。


「雪ちゃんといると安心する。」


「私も。」


ニコリと笑った。

その笑顔が大好きだ。


あぁ、今日は嫌な予感がしたんだ。

あの時は父さんだった。


今日は、母さんだった。


あの時は彼女だった。


今日は…彼女じゃない。


「時人は寂しい?」


「え?」


突如聞かれ、びっくりした。

寂しそうな顔をしていたのかもしれない。


「そりゃ親二人いなかったら寂しいか…」


「うん…前は寂しかったかな。」


今は…


「今は雪ちゃんがいるから。」


「!?」


雪ちゃんは照れた表情をする。

少し素直に言いすぎた気がして恥ずかしくなってくる。


「いや、その、雪ちゃんとか、ユウトくんとか、ね?」


絶対誤魔化せきれてない。

変な空気が僕と雪ちゃんの間にとどまる。




「…本。」


「え?」


「本読みにきたのに一冊も読み終わらないまま帰る事になるじゃん…」


気づけば雪ちゃんがいつも帰る時間になっていた。


「泊まれば良いじゃん、明日休みだし。」


「えっ!?」


雪ちゃんからは裏返った声がでる。


「ちがう!別に嫌らしい事しようとはしてない!」


「そ、そんなつもりで言ったわけじゃなかったから…ちょっと、その…」


ついユウトくんやハルトさんに言うノリで言ってしまった。


「着替えとかは僕と同じサイズだから、大丈夫だし…ご飯はカップ麺とか食べれば安全だし…本読めるし、さ。」


「うん…」


心の中でガッツポーズしたのは内緒にしておこう。


「あ、じゃあ僕本持ってくるね!」


「待って!」


立とうとしたところをパーカーを掴まれそのまま転ぶ。


「な、なんでしょう…」


腰をうった、いてぇ。

何も言われないまま背中と腰の後ろに手を回され身体を引き寄せられる。


「うおっ…」


「あの…雪ちゃん…」


僕のいろんなところがどうにかなりそうだ。


我慢しきれず制服のワイシャツから見える首筋を舐める。


「ばっ、馬鹿!」


すぐに跳ね返された。


「はやく本とってこい!」


「理不尽だ…」



少し気分は晴れた気がした。





前の時ともう一つ違う。




僕は今、笑顔だ。


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