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メイドな幼馴染orスク水クラスメート

不備な点などがあるかもしれませんが、ご了承お願いいたします。

また、この作品を続けてお読みになっていただき、ありがとうございます。



 ……テレビに繋がれた家庭用ゲーム機に、机の上で現在充電中の携帯ゲーム機とパソコン。そしてカラーボックス一杯に収納されたゲームソフトに、本棚に満載されているラノベや漫画、DVDの数々……。

とどめには、アニメキャラやら人気声優が写されたポスターで装飾された壁。

 ……大体三年の歳月の間、俺は風火の部屋には入っていなかったが、まさかこれほどまでに悪化しているとは、想像にも付かなかった。しかも、ゲームソフトが収納されているカラーボックスの中に、身分証明書の提示を求められるゲームが数多く混入されている。

 因みに昔の風火の部屋はここまで酷くはなく、年齢相応の部屋だった。

 例えば、本棚には少女漫画が、カラーボックスには全年齢対象のゲームが、と、現在に比べればある意味子供らしくて綺麗な部屋だった。

 ……どうして人とはこんなにも変わってしまうのか、本当に不思議だ。

 風火の部屋に入った俺は辺りを見回してそんなことを思っていると、ここまで俺を連行してきた風火が俺の手を引き、部屋の中央に置かれる折り畳みタイプのテーブル近くに案内する。

「それじゃあ響野! ここに座って!」

 テーブルまで案内した風火はニコニコ顔で床に座るよう指示し、俺が座ったことを確認してから向かい側に腰を下ろす。

「山紙さんも早く座ろうよ!」

「うん……」

 俺たちの後に続いて部屋に入ってきた山紙は、風火に促されるまま風火の隣に腰を下ろす。

すると、風火は笑顔を浮かべながらテーブルに両手を付き、口を開く。

「よしっ! みんなが座ったことだし、そろそろ本題に入ろうか!」

「本題って、お前らは一体何をする気なんだ? 俺たちは遊ぶために集まったんだろ」

「ふっ、ふっ、ふっ。私たちが何をするか、今こそ響野に教えてあげよう!」

「……何で自信ありげに笑うのかは知らないが、明らかに貞操関連だったら、二階だということなど関係なく、俺はそこの窓にタックルを決めて逃げ出すからな」

「安心して。本心ではそんなことをしたいとは思ってるけど、遊びなんだからさすがにまだやらないよ」

「ならどうするつもりだよ? というか、帰らせてくれないか?」

 貞操関連ではないと言ったが、それでも俺の危機は去ったわけではない。この二人と関わっている時点で俺の身の危機なのだからな。

 もちろん、俺の頼みなど耳を通っていないかのように見事スルーし、笑顔を崩さずに話を進める。

「それでは発表するよ。私たちが何をするのか」

 俺は風火の発しようとする言葉に、すでに嫌な予感を察する。

案の定、次に風火が口を開いた時には、そのいやな予感が見事に的中する。


「コスプレで、自己満ご奉仕プレイ!」


「ご奉仕プレイという単語が出てきた時点で、貞操観念をぶち壊す気満々だよね⁉」

「甘いよ、響野! 自己満が付いているから、加減は私たちで決められるんだよっ!」

「お前らの加減の範囲は、一般人とは大きく掛け離れているよねっ⁉」

「そこを気にしたら負けだよ!」

「負けじゃないからな⁉」

 笑顔で言い切る風火に、俺は必死な形相で訴える。

 しかし、どうしてコスプレご奉仕プレイなどと言った特殊なプレイを思い付くんだよ。到底理解できない思考回路だ。

 その時、俺の不意を衝くかのように山紙の声が聞こえてくる。

「響野は、私たちと遊びたくないの……?」

「したくないというのが、俺の本音だよ」

「響野が好きな格好をしても……?」

「もちろん断る」

「……」

 山紙は不満をぶつけるようにジト目で俺を見つめ、その視線を俺は見つめ返す。

 何でそんな目を向けるんだよ……。

 視線を見つめ返していた俺は、目を逸らしてため息を一つ吐き、やる気の無い声で二人に言う。

「分かった……。データを消す代わりに遊ぶ約束なってるからな」

「おおっ! 素直だね、響野! この調子で私の彼氏になってよ!」

「拒否する」

「そこは空気を読んでよ」

 笑顔を浮かべていた風火は、ムッと不満そうな表情を作り、文句を俺に投げ掛ける。

「こんなところで空気を読んで、自分の人生を捨てたくない」

「仕方がないな。まあ、これから始まるイベントで、響野の理性をおかしくして過ちを起こさせれば、すべて解決だけどね」

「……お前は俺を、一体どうしたいんだ?」

 十五年ほど付き合ってきた幼馴染に、新たな疑問と恐れを懐いてから、これから二人が始めようとしているご奉仕プレイの内容を訊くことにする。

「それで、そのご奉仕プレイというのは具体的に何をするつもりなんだ?」

 俺がそう訊くと、不満げな表情を浮かべていた風火はコロリと表情を嬉しそうな笑顔に変えて言う。

「何をするかと訊かれれば、答えは簡単。私と山紙さんが好きなコスプレをして、響野にご奉仕するだけだよ!」

「ドストレートな答えですね……」

 嬉しそうな声色で言う風火を見て、俺は思わずため息交じりの声でそう呟く。これは遊びだよね?

 だが、ため息交じりの声で呟く俺をお構いなしに、風火は言葉を続ける。

「細かいご奉仕プレイの内容は決まってないけど、何をされるのか分からない方が、ハラハラドキドキして、楽しいでしょ!」

「そのようなハラハラドキドキ感など、味わいたくはない」

 こっちは最悪、自分の貞操が係っているんだぞ。二重にハラハラドキドキしたら、俺の心臓が持ちそうにはない。

 風火の発言に対して俺は大きな不安を感じ、短く唸ってから言う。

「とりあえず、そんなハラハラドキドキ感を長くは味わいたくないから、早く始めてくれ。あと、そのご奉仕プレイが終わったら、俺はすぐに帰るからな」

「それはどうかな? 響野が私たちに発情すれば、すぐに帰るじゃなくて、朝帰りになるかもよ?」

「ならないからな⁉ もう一度言うが、俺は人生を捨てたくない!」

「自分に正直になるのは、恥ずかしいことじゃない。それだけは先に言っておくよ、響野」

「何その格言みたいなセリフ⁉ 意味あるの⁉」

「これといった意味は無いけど?」

「じゃあ言うなよ!」

 理解し難い風火の発言にツッコミを入れ過ぎて、俺は息を切らして荒い息になる。

 しかし、どうしてこんなにもツッコミどころの多過ぎる発言をすることができるんだ? ある意味すごい。

 とにかく、さっさと本題に移ろう。

 俺は早くこの危険区域から離れるため、二人に頼む。

「無駄な前ふりはやめて、早くそのご奉仕プレイをしてくれないか?」

「分かったよ、響野。そんなに早くしてほしいなら、すぐにやればいいんでしょ」

 仕方が無さそうな表情を浮かべながら、風火は隣に座る山紙に言う。

「響野が早くしてって言うから、もうやろう」

「分かった……」

同意を求められた山紙が小さく頷くと、二人は同時にスッと立ち上がる。

「そうだよ。早くやってくれれば、俺はすぐにでも帰――」

 と、俺が言い掛けた時だった。

 パサッと、布が床に落ちる効果音が耳に届き、俺の目の前にマズイ光景が突如出現する。


 ピンク色のパンツと、水色のパンツ。


 前者のパンツを穿いているのは風火で、後者は山紙。

 風火のパンツは学校で見たが、山紙のパンツを見るのは初めてだ。男としての素直な意見から言えば、ある意味嬉しい。

 ……何を言っているんだ、俺は……。

 こんな状況で喜んでいたら、明らかに変態じみている。もっと冷静になるんだ俺! こいつらのパンツを見たぐらいで喜んでいたら、後戻りが難しい道を進むことになるぞ。

 頭の中そう思考し、俺はスカートを脱いでパンツを曝け出している二人に、声を荒げて言う。

「お前ら! 一体何をやっているんだよ⁉」

「何って、コスプレをするためには着替えないとダメでしょ」

「場所を選べよ! 場所を!」

「ちゃんと選んで、私の部屋で着替えてるじゃん。何か問題でもあるの?」

「あるよね⁉ 男である俺がいる時点で、ちゃんと場所を選んでないよね⁉」

「どうして響野がいたら、部屋で着替えちゃいけないの? 私たちは幼馴染だから、気にすることないし、私も響野に裸や着替える姿を見せたいんだけど」

「その発想はおかしいよ⁉ 自分の裸や着替え姿を、普通人には見せないから⁉」

「普通は見せないけど、幼馴染なら別にいいんだよ」

「よくねぇよ! 一度その考えを改めろ!」

 いい加減にしてほしい。

 こいつはどれだけ幼馴染を万能化させたいんだ。幼馴染など、昔から付き合ってきたことを示す言葉でしかないのに。

 すると、水色のパンツを曝け出している山紙が、ジッと俺を見つめて尋ねてくる。

「響野……。私のパンツ見て、興奮した……?」

「そういう質問はやめてくれない⁉」

 何で風火と話していたら、いきなりそんな質問をしてくるんだよ。山紙の予想外のとんでも発言は、場所や状況を問わず、いつでも健在だ。

 山紙は俺が返した言葉を聞くと、少し不機嫌そうに眉をひそめてもう一度訊いてくる。

「私のパンツ見て、興奮した……?」

「だからやめてくれない⁉」

「響野が答えてくれれば、もう訊かないけど、響野が答えてくれないなら何度も訊く……」

「何で俺が、そんなことを答えなければならないの⁉」

「響野が私のパンツを見て興奮すると分かれば、毎日見せてあげられるから……」

「ありがた迷惑だよ⁉」

 何度も襲ってくる山紙のボケに、すべてツッコミで返す。

 いい加減にしてくれよ……。

 ツッコミをして軽く疲れた俺は、頭を抱えながら二人を見る。

「もういい……。お前らが俺の目の前で着替えることに関しては、もうスルーしてやる。だから早く、ご奉仕プレイとやらを終わらせて帰らせてくれ……」

「そうだね。響野は私たちのパンツを見ても興奮しないって分かったなら、もっと過激なことをするために、早くコスプレご奉仕プレイをしないとね」

「納得してくれたことは嬉しいが、その納得する理由がとんでもなく不吉な展開を予兆させるから、余計なことは言わないでほしい」

 第一、いきなりスカートを脱いでパンツを見せてきた以上に過激なことって、一体どれだけのことを仕出かすつもりだよ……。

 普通に捉えれば明らかにエロゲ展開なのだが、現在の俺にとってはそんな展開ではなく、バッドエンドフラグまっしぐらの、最悪の展開だ。

 俺が一人そう思案していると、目の前の二人は俺に何の声も掛けずに上半身に纏う制服を脱ぎ、風火がピンク色のキャミソール、続けて山紙が水色のブラジャーをあらわにさせる。

「……」

 その光景を目にし、俺はゆっくりと瞼を閉じる。

 ……今のは別に、意図的に見たわけではない。二人も、俺に何の一声も掛けずに服を脱いだわけなのだから、下着を見られたことは気にしていないはずだし、二人が俺の目の前で着替えることに関しても、俺はスルーすると決めたしな。

 だからと言って、二人の着替えを眺めてもいいというわけではない。合法だとしても、自分自身の品を下げるようなことはしたく無い。

 俺は目を瞑りながらそんなことを考え、服が擦れる音がしばしの間聞いていると、明るく聞き慣れた声が俺の名を呼ぶ。

「響野! 着替えたよっ!」

「やっと着替え終わったか。これでお前らの言うご奉仕――」

 閉ざした瞼を開けると、先ほど二人の下着を見た時と同様に、前触れなく声を失う。


 ミニスカメイド。


 純白のホワイトブリムにエプロンドレス。首回りが開いたフリフリなミニスカメイド服。そのミニスカの下には、真っ白な二―ソックスが伸びている。

 そんなメイド喫茶などでよく見られるメイド服を着た風火が、瞼を開けた俺の視界に飛び込んできたのだ。誰だって声を失うだろう。

 俺は上から下まで、ただ呆然と観察した後、失った声を取り戻して言う。

「風火……? 何だよ、その格好……?」

 疑問をぶつけられたメイドコス姿の風火は、スカートの裾をちょっとだけつまみ上げ、子供みたいな幼顔の上に、妖艶な笑みを浮かべて嬉しそうに答える。

「何かご奉仕をしてください、ご主人様」

 現在の格好とは、明らかに真逆の発言を堂々と言う風火。

 ツッコミを入れるか入れないかと数秒間悩んだ末、首を傾げて風火に訊く。

「どこで間違えた?」

「何その質問っ⁉」

 妖艶な笑みを崩し、風火は驚きと同時に荒げた声を上げる。

「どういうことなの、その質問は⁉ 特に私はどこも間違えてないよね⁉」

 驚く風火の反応を見た俺は、首を傾げるのをやめ、腕を組んで言葉を選ぶように話す。

「う~ん。別にその格好に関してはお前の性格上、間違えていない。だけどね……」

 俺が言葉を途切れさせた点に、風火は慌てて回答を求める。

「何で微妙なところで止めるの⁉ 最後まで言ってよ⁉」

「最後まで言ったら、風火が傷付くと思ってな」

「それでも言ってよ! 気になるじゃん!」

「本当にいいのか? なら最後まで言うが……」

 俺の言葉を待つ風火はごくりと喉を揺らして唾を飲み、まるで餌を目の前にしたが、飼い主からの『待て』を忠実に待つ犬のようだ。変態的な性格だとしても、やはりそういうところは普通にかわいいな。

 そんなかわいらしい姿を目に映しながらも、傷付くような発言を吐こうとする自分に、少し罪悪感に浸られながらも言い切る。

「薄々気付いていたけど、お前って胸があまり無いよね」

「グサッァアアアアアアア!」

 ミニスカメイドの風火は、心にダメージを受けたような効果音を口からこぼし、あまり無い胸を両手で押さえて数歩後ずさる。

「……ごめんな、風火」

 ふらふらっとした足取りの風火に、申し訳ない気持ちを含んだ声で謝ると、「ぐふっ」と追加のダメージを受けたようなうめき声を風火が漏らす。

「……追い打ちは掛けないでいいよ、響野……」

 風火はふらふらとした足取りのまま、謝る俺に注意を促し、言葉を続ける。

「だけどびっくりしたよ。まさかこのタイミングでそんな指摘が飛んでくるとは、予想にもしてなかった。確かに、初めてこのコスを着た時、『もう少し胸が必要だよな~』とか思ったよ、自分でもね……」

 虚ろ気な光を瞳に映し、自虐的な口調で呟き出す。

 ……自虐的になるほどに、風火は自分の胸のことを気にしていたのか……。

 慰めの言葉を新たに掛けようとしたが、寸前のところで自分は失礼な慰めを入れようとしているのではないかと思い、口を噤んでそのまま黙る。

 口を閉じずに、「安心してくれ風火。お前にも一応(・・)胸はある」なんて慰めをしたら、それはある意味、女の子に対して最低な発言だろう。

『最低な男』という、不名誉なレッテルを貼れるのを回避した俺は、小さな安堵のため息を吐く。

一人ぶつくさと自虐的になる風火をとりあえず放置していると、もう一人の存在を思い出すと同時に、座る俺の背後から落ち着いた声が耳元でささやかれる。

「響野……。今の発言は、女の子に対しては失礼……」

 急に耳元でささやかれたことにより、背筋がゾクリと撫でられ、身体ごと振り返って後ろを見る。

「いきなり耳元から話し掛けるなよ! ……と、というか、なぜにそんな格好を……?」

 後ろを振り返った俺は、着替え終わった山紙の姿に少し戸惑いながらも、咄嗟に尋ねてしまう。


 白スクール水着。


 学校などで使用される紺色のスクール水着ではなく、白く染まったスクール水着。

 ぴっちりと山紙の身体に張り付き、スタイルの良さや身体の膨らみなどをごまかすことなく外部へと見せ付け、身体のラインを直に視覚に伝える。

 また、競泳目的のスクール水着とはいえ、水着だという事実は変わらず、肌を晒す部分は洋服よりも当たり前のように多く、山紙の色白気味の肌が見事調和する。

 すると、山紙は俺が尋ねたことに、不思議気な表情を浮かべる。

「? ご奉仕プレイでは、定番の格好……。知らないの……?」

「知らないよ⁉」

 さも当然なことを語るかのような口ぶりで山紙は答え、その答えに俺は自分の率直な意見を返す。

 逆に、何で山紙はそんなマニアックなことを知っているのかが、不思議で仕方がない。

 俺の率直な意見を聞いた山紙は少しばかし饒舌気味になって、口から言葉を出す。

「スクール水着は、幼げなイメージやスポーティなイメージなどがある上に、きわどい露出箇所がある……。しかも、布越しから分かる身体の膨らみなども、性的な刺激を与えられる……。さらに加えて、それを脱がせばすぐに裸体が――」

「スクール水着の良さを伝えるのは、頼むからやめてくれ……」

 山紙の長くなりそうな説明を、無理矢理制止させる。

 どうして山紙から、スクール水着の良さを延々と聞かされなければならない。俺は別にスクール水着が好きというわけでもないから、説明をされても理解できない。

俺と山紙が会話を繰り広げていると、自虐状態であった風火がスク水姿の山紙の隣まで来て、頬を膨らませて不満げな声を上げる。

「むぅ……。どうして二人は盛り上がってるの……?」

「その盛り上がっている理由は、信じられないほどにしょうもないけどな……」

「スクール水着は、しょうもなくない……」

 呟いたその発言に、山紙は眉をひそめて否定の言葉を入れる。

「分かった分かった……。スクール水着はしょうもなくない……」

 適当な返事で俺が回答すると、山紙は不満を瞳に込めて見つめてくる。

「そんな目で俺を見て、何か気に入らない点でもあるのか……?」

「ある……。響野はまだ、スクール水着の良さを理解してない……」

「当たり前だ。どうして理解しないといけない?」

「理解すれば、脱ぎたてのスクール水着で興奮できるようになれる……」

「メリットまったくないよね⁉」

 脱ぎたてのスクール水着で興奮できるようになるなど、全然メリットではない。むしろアブノーマルの考え方を理解してしまって、デメリット満載だ。

 ……しかし、現在の風火と山紙が隣同士で並ぶと、シュールな光景でとても笑いにくい。

 ミニスカメイドと白スクール水着のツーショット。こんな状況下に何も知らされていない者が乱入したら、確実に?マークを浮かべるだろう。

 奇妙な光景を目の前にした俺は、頭を掻きながら短く唸り、これ以上シュールな光景を継続させないよう、二人に訊く。

「二人とも着替えは終わったんだろ? だったら早く、お前らが言うご奉仕プレイとやらを、とっとと始めよう。……もしも気が変わってやりたくないのならば、今の内に言ってくれ。俺はいつでも大歓迎だから」

「やめるわけないじゃん。何言ってるの?」

 俺が言葉を言い終えると同時に、メイドコス姿の風火が真顔で即答する。

「……容赦なく即答しないでくれ、風火」

「それは嫌だよ。即答で返した時の響野の反応を見るのが楽しいんだから」

「悪趣味だね」

「私より悪趣味な人間なんて、世の中わんさかいるよ。ネットでホラー動画やグロ画像を見たりする人がいるんだから。私なんてまだまだかわいい方だよ」

「俺にとってはかわいくないけどな」

「その対象が、響野だけだもんね」

「マジで最低だよね」

 そんなことを笑顔で言い切り、俺の気分はじんわりと落ちて行く。

 ……本当に、どうして俺の幼馴染はこんなにも性格が変わっているんだろうね? 誰か素直で大人しい幼馴染と交換してくれないだろうか?

今の話で俺が気分を沈ませているのにも関わらず、風火は変わらない笑顔のままでご奉仕プレイの話を再開させる。

「まあ、気を取り直して。これからコスプレご奉仕プレイを始めよう!」

「おー……」

 風火の掛け声に、隣の山紙が小さくこぶしを天井に上げる。

 とうとう始まってしまうのか。非情なる地獄が……。

 気分を落としている場合ではないと悟り、俺は自分の気持ちを鼓舞するように心の中で語り掛ける。

 自分の身を最終的に守れるのは、自分自身だ。こんな時まで気分を落としていたら、俺の貞操は二人によって奪われてしまう。しかも、それは恋人でもない幼馴染とクラスメート。色々な意味で、それだけは絶対に阻止しなければならない。

 俺は主に自分の貞操を守るというだけで気持ちを高め、その心持ちで覚悟を決める。

「最初に言った通り、もしも俺の貞操が危うくなったら、すぐさま俺は逃げるからな」

「どうかな? 響野の理性が保てなくなれば、逃げ出すなんてことはできなくなるよ」

 メイドコス姿の風火は余裕の笑みを浮かべて反論を返し、俺もその笑みに対して苦笑いを作る。

「お前らに貞操を奪われたら割と真面目にマズイから、俺は何があっても逃げる気だ」

 そう答えながら俺はゆっくりと立ち上がり、シュールな光景である並ぶ二人を眺める。

「で、どんなことをするんだよ? 肩もみでもしてくれるのか? 近所のスーパーでジュースでも買ってきてくれるのか?」

 二人が考えてなさそうなことを、俺は皮肉っぽい口ぶりで羅列する。

 だが、風火は余裕の笑みを崩さずに俺の皮肉っぽく吐いた言葉を平然と聞き、その言葉に対しての返事を冷静に返す。

「残念ながらその予想は外れだよ、響野。この企画は私たちの満足するための企画なんだから、面白くもないことをするわけがないじゃん」

「……それって、奉仕関係ないよね」

 こいつらのわがままで行われる奉仕など、まったくもって言葉の意に通ってない。なのに、どうしてご奉仕プレイなんて言う遊びを提案したのか、理解できない。

「とにかく、ご奉仕の内容は私たちがもう決めてるから、響野は大人しく待ってればいいよ。安心して、悪いようにはしない予定だから」

「悪いようにはしないって、この状況がもう悪いんだけどね……」

 俺が呟くと、風火は堂々とそれを聞き流して自分の考えた奉仕の内容を公表する。

「私が響野にするご奉仕の内容はズバリ、『ご、ご主人様……。こ、このような場所でこんなことは……』だよっ!」

「ツッコミどころ盛り沢山のボケ、ありがとう」

「別にボケてないからね⁉」

 余裕の笑みは崩れ、驚きの表情で言う。

「そんな奉仕の内容があるわけないだろ。どう考えても……」

 一瞬の沈黙を流してから、俺は改めて口を開ける。

「……今のは会話文の一部だろ」

「絶対今の合間で、言い訳を考えたよね⁉」

「それで風火。結局何をするつもりだ?」

「普通に無視しないでよ⁉」

 スカートの裾を揺らし、風火は興奮気味に文句をぶつけると、頬に空気を溜めてムッと不機嫌そうな顔をする。

 ……はぁ。

 俺は不機嫌そうにするメイドコス姿の幼馴染を見て、心の中で小さなため息を一つ吐く。

 こいつはどこまで俺を困らせる気だ? こっちは自分の貞操が、リアルに係っているというのに……。

 不機嫌なメイドもどきと数秒間目を合わせたあと、低く短いうめきを喉で鳴らしてから言う。

「……分かったよ。お前が言ったご奉仕プレイの内容を一度聞いてから、その内容次第でやって良いか悪いかを決めてやる」

「……本当?」

 空気を溜めていたかわいらしい頬袋は、持ち主である風火が言葉を発するのと引き換えにしゅんとしぼみ、そこには疑問と少しの不機嫌な顔が残る。

「本当に、内容によってはやってもいいの?」

「俺の身が危なくなければな」

 すると、風火は顔に残していた疑問と不機嫌を笑顔に変える。

「つまり、響野が納得するような内容なら、私がそれを実行してもいいってわけだよね!」

「そうなるな。まあ、お前が言ったご奉仕プレイのタイトルからして、俺が納得するような内容ではないことは、すでに明らかだけどな」

 『ご、ご主人様……。こ、このような場所でこんなことは……』などと言ったタイトルを聞いた時点で、健全な内容ではないことは分かりきっている。しかも、それを言ったのは変態幼馴染の風火だしな。

 一人でそう思考し終えると、風火が笑顔でご奉仕プレイの内容を語り出す。

「内容は単純! 私が身体の部位全部を使って響野を気持ちよくさせて、響野のことを欲情させるだけ!」

「……」

 こいつは笑顔で、何を言っているんだ?

 俺は片手で頭を抱え、理解し難い説明をした目の前の変態に短い一言を投げ掛ける。

「却下」

「えっ⁉ どうして⁉」

 短い合否の一言を聞いた風火は、心底驚いたような顔をする。

 何でそんなに驚いているんだよ……この変態は……。

 俺が下した判断に納得できないのか、フリフリなメイド服を揺らして俺に問い掛ける。

「何でダメなの⁉ 響野にはメリットしかないんだよ⁉ どう考えてもおかしいよ⁉」

「おかしいのはお前の頭だ。一度病院に行って診断しろ」

 貞操に触れないようにしろと言っているのに、なぜこいつは平然と触れてくる。

 風火は不満げに俺を見つめ、微かに唸ってから口を開く。

「納得する要素いっぱいなのに、拒否する意味が分からないよ。じゃあ訊くと、響野は一体どういうことを私にしてほしいの?」

「特に無い」

「一途で献身的な幼馴染に、地味に残酷なことを言うよねっ⁉」

 俺に容赦のない答えを返され、目を見開いて風火は声を荒げる。

そんなメイドコス姿の風火が声を荒げていると、隣にいる白スク山紙が眉をひそめ、俺と風火をまじまじと凝視しながら訊いてくる。

「水川がまだやらないなら、私が先にやってもいい……?」

「やるって、ご奉仕プレイをか?」

 こくりと山紙が頷く。

「そう……。水川がやるご奉仕プレイが、まだ決まってないなら、私が先にやった方がいい……」

 頷いた山紙がそう言うと、その隣に立つメイドコス姿の風火が山紙のことを見て、待ったの声を出す。

「今は私の番だよ、山紙さん。だから私が終わるまで待っててよ」

 風火のその言葉を聞いてもなお、山紙は眉をひそめたままそれに対しての反論を返す。

「でも響野が納得していないところを見れば、後どれだけ掛かるのかは分からない……」

「う~。でもでも……」

 言葉を返された風火は俯き、何かを考えているかのような唸り声を溢す。

 このまま風火の番とやらが終われば、こっちにとっても最高なんだけどな。貞操が奪われる可能性も減るし。

 しばらく風火は俯いたまま考えるような唸り声をこぼしていると、結論が出たのか、俯いていた風火は不満そうな顔を浮かべ、仕方なさそうな口調で言う。

「分かったよ、山紙さん……。すぐに終わらせて、交代するよ……」

「?」

 風火が山紙に言った発言に、俺は?マークを頭に浮かべる。

すぐに終わらせる……? どういうことだ?

俺が納得しなければ、風火が発案したご奉仕プレイは実行できないはずだぞ。それなのに、すぐに終わらせる……?

頭に?マークを浮かべてそんなことを思案していると、山紙に話していた風火はこちらに向き直って、突然予想外な行動に身を移す。

「風火⁉ 何してんだよお前は⁉」

 風火はスカートの裾を躊躇うことなく持ち上げ、ピンク色のパンツをあらわにさせる。

「何って?」

 いきなり目の前で起こった事態に、俺は衝撃と戸惑いに襲われて声を荒げるが、風火はとぼけた顔で聞き返してくる。

 俺の目の前で曝け出された、今日三度目の風火のパンツ。

 『二度あることは三度ある』ということわざを考えた人は、このような状況を想定して作ったのだろうか? だとしたら、そのことわざを考えた人はある意味波乱万丈の人生を歩んできたに違いない。普通こんな事態は、三度どころか二度も無いはずだしな。

 そんなくだらないことを考えた後、俺は現実に目を向ける。

 触れば返ってきそうなほど柔らかそうで、あざやシミなど一つもない風火の綺麗なふともも。そのふとももの上へと視線を送れば現れる、鮮やかでぴったりと体型にフィットしている、ピンク色のパンツ。

 正直、風火が変態でなければかなり魅力的な光景だ。脚が短いってわけでもないので、割とスタイルもいいし。

 俺は思わずその魅力的な光景に視線が釘付けになるが、数秒経ってから我に返る。

 何を見惚れているんだ……俺は……。

危うく、色々と間違えた道を辿るところだった。風火のパンツなどに見惚れていたら、人生変態まっしぐらコース確定だ。二人と同類にはなりたくない。

我に返った俺は首を振って頭の雑念を追い出し、スカートの裾をめくって自身のパンツを見せ付ける風火に、再度声を荒げて訊く。

「何じゃなくて、どうしてお前はスカートをめくっているんだよ!」

 すると、二度目の質問をぶつけられた風火は「はぁ……」という気落ちしたため息を一つ吐いてから、面倒くさそうな口調で話す。

「スカートをめくっている理由? そんなのは簡単だよ、響野……。本来したかった内容とは大きく違うけど、これが私のご奉仕プレイだよ……」

「ご奉仕プレイ?」

 その理由を聞かされた俺は疑問符を思い浮かべて呟くと、さらに風火は愚痴っぽく言葉を吐き出す。

「私だってこんな楽しくないご奉仕プレイはしたくないのが本音だよ。響野は私が最初に出したご奉仕プレイを断るし、山紙さんも早くって催促し始めたから、仕方がなくこんなことをしたんだよ」

「俺にそんなことを言ってもな……」

 何とも同情し難い愚痴を聞かされた俺は、呆れた声色で返事をする。

 俺にとっては最初に風火が言い出した内容よりはマシなのだが、見せ付けられた風火のパンツを思わず直視してしまって、危うく人生を間違えるところだったから、その愚痴に対して励ましのセリフなどは投げ掛けられない。

「ほんと、響野のせいだよ。響野が貞操なんて言う細かいことを気にしなければ、私は楽しむことができたのにさ」

「一学生であるお前が、貞操を細かいこととして扱うなよ……」

「私から見たら細かいんだよ! 基本的、幼馴染という立場と愛さえあれば、すべては合法なんだよっ!」

「幼馴染という単語を一々付けるの、マジでやめてくれない? 幼馴染はそこまでの権利は持ってないからね」

「その考え方がダメなんだよ、響野は」

 やれやれと風火は首を横に振り、俺を見つめ直して話す。

「よくよく考えてみてよ。もっとも身近にいる家族以外で最初に親しい関係になる人が、幼馴染なんだよ。この広い世界で、様々な人種や性別がいる中で、最初に親しい関係になる。それを運命とは言わず、何と言うの?」

 風火はスカートの裾を離して曝け出していた下着を隠し、目を瞑って言葉を紡ぐ。

「だからこそ、私は幼馴染である響野が――」

 と言い掛けた瞬間だった。

「うぉっ⁉ いきなり何だよ、山紙⁉」

 目を瞑って話をする風火を眺めていた俺に、突然スク水姿の山紙が飛び込むように抱き付いてくる。

「水川のご奉仕プレイが終わったから、今度は私の番……」

「タイミングっていうもんがあるだろ⁉ 空気を読んでくれよ!」

「そんなものに振り回されて好きな人が盗られたら、後悔する……。響野は私のもの……」

「俺に自由は無いんですか⁉」

「無い……」

「無慈悲な即答ですね⁉」

 一秒たりとも迷うことなく、山紙は俺に自由は無いと平然と言い捨てる。

 まさかここまでの発言を平然と言うことができるとは、山紙に優しさと言う感情は宿っているのだろうかと、逆に心底心配になってくる。

「山紙さんっ! まだ私の番だよ!」

 目を瞑っていた風火は、声を大にして俺に抱き付く山紙に文句を言うが、山紙は俺に抱き付いたまま、無表情で答える。

「パンツを隠した時点で、あなたの番はもう終わり……。それが自分のご奉仕プレイだとも言っていた……」

「うぐゅ……。でも、ちゃんと交代の意思を私が出した時に交代でも……」

「誰もそんなことは決めていない……」

「なっ⁉」

 山紙は会心の一撃を風火に放って黙らせてから、抱き付く俺の顔を見て言う。

「それじゃあ、私のご奉仕プレイを受けて……」

「この状況はすでに、お前のご奉仕プレイを受けているんじゃないのか?」

「受けてない……。これはまだ、前段階に過ぎない……」

「お前にも風火と同様のことを言うが、俺の貞操が危うくなったら逃げ出すからな」

 しかし、その説明を投げ掛けられた山紙は無表情を崩すことなく、不吉な返答を俺に投げ返す。

「それがどうしたの……? 私の力の前じゃ、響野は逃げ出せない……」

「……」

 ……そうでした。

 こいつの人間離れした圧倒的な力の前では、普通の考え方ではどうやっても逃げることなどできない。

 当たり前の現実に気が付いた俺は、思わず空いている手で自分の頭を抱える。

「……お願いします、山紙さん。どうかこれ以上、派手な真似はしないでください……」

「やだ……」

 まるでバラエティ番組のお約束の展開のように、即答で拒否の二言を発する山紙。

 まあ、即答で拒否されるなんて言うことぐらいは、薄々予想してたよ。この長い一日の中でね。

 俺は頭に抱えた手を離し、無表情でこちらを見つめてくる山紙に呆れた声色で尋ねてみる。

「お前が俺から離れる気も、ご奉仕プレイをやめる気も無いことはよく分かった。じゃあ話は変えるが、お前の場合は一体どんなご奉仕プレイをするつもりなんだ?」


「響野の貞操を奪う……」


「……一つでもいいから、俺の願いを聞いてくれないか?」

 お願いを何一つ叶えてくれない山紙に、俺は不機嫌気味な声色で言う。

「響野が私に貞操をくれたら、なんでも言うことを聞いてあげる……」

「それはどう考えても、本末転倒だよね」

「安心して……。響野の貞操を奪ったあと、ちゃんと調教して、私がいないといけない身体にしてあげるから……」

「お前って最低な思考回路してるよね⁉」

 人の貞操を奪いながらも、さらに追い打ちを掛けるかのように調教とか、鬼畜以外に何がある?

 すると、俺に抱き付いていたスク水山紙は一層身体を密着させる。

「ぎゅっ……」

「山紙。頼むからこれ以上抱き付かないでくれ……」

「今は私のご奉仕プレイの最中……。例え響野が何を言っても、やめる気は無い……」

 それを言い切ると同時に、俺と山紙の身体は先ほどよりも密着させられる。もちろん、風火よりも発達している山紙のある部分も、魅惑的な変形を遂げている。

しかも、現在の山紙の姿はほぼ布一枚のスク水。その部分の柔らかさは、ストレートに伝わってくる。

「な、なあ、山紙?」

 魅惑的な変形を遂げている山紙のある部分を指差しながら、俺は声を少し震わせて要望を告げる。

「く、苦しいから、抱き付くならもう少し力を緩めてくれないか……?」

 なるべく山紙を刺激しないよう、言葉を選んで要望をぶつけるが、スク水姿の山紙は俺の真意を見通してその点を見事に衝いてくる。

「やだ……。どうせ私の胸が当たっているから、そんな言い訳を言ってるだけ……」

「分かっているなら離してくれ……と言っても、離してはくれないんだよな……」

「うん……」

 山紙は抱き付きながら小さく頷き、俺の身体を自由にする気は無いことを意思表示する。

 ……どうするか。

 今はまだ抱き付くだけで済んではいるが、しばらくすれば山紙は過激な行動に移すだろう。

 その過激な行動が実行される前にこの状況から脱出しなければ、確実に俺の貞操を守り切ることはできない。

 しばしの間、俺は何かこの状況から脱する手は無いかと頭の中で考えを交差させるが、これと言った決め手が見つからない。

 ……仕方がない。

 ため息を一つこぼし、俺は自分のポケットに手を入れる。

 精神的にダメージを受ける可能性があるから、この方法はできれば使いたくないのだが、これを使わなければ俺の貞操を奪われるだけだからな。

 俺はポケットに入れてある写真を一枚引き抜き、それを山紙の視界に映るように見せ付ける。

「山紙……。これをやるから離れてくれないか……?」

「……⁉」

 見せ付けられた写真を目にした山紙は、衝撃によって大きく目を見開く。

「こ、これは……」

 普段は感情などを表に出さない山紙だが、俺が持つ写真を見て感情のこもった声で呟いてから、はっきりとした物言いをする。


「きょ、響野の写真⁉」


 そうだよ、俺の写真だよ。しかも、俺が小さい頃、大体小学三年か四年の頃の写真だ。

 俺からその写真を奪い取るために、山紙は抱き付く俺を解放して写真に手を伸ばす。だが。

「その前に、お前は俺に対してのご奉仕プレイを、今すぐ終了させろ」

 伸びてくる山紙の手が届かない高さまで写真を持ち上げ、写真を奪おうとする山紙にそんな要求を持ち掛ける。

 この写真はこういう状況のために用意した、いわば俺のとっておきだ。それなのに、何の要求もせずにこの写真を山紙なんかにあげるわけにはいかない。

 ……しかし、この作戦にはある不安が一つ存在している。

 それは、俺の要求を飲まれなかった場合だ。

 言った通り、これは俺のとっておき。そして、最終手段でもある。

 つまり、俺が持ち掛けた要求に山紙が良い答えを返してくれなかったら、確実に貞操は奪われ、俺にとっては悲劇的な結末を迎えることになる。

 だからこそ、この作戦は絶対に失敗したくないのだ。

 俺が写真を手に持ちながら最悪の場合のケースを考えていると、スク水山紙は目をキラキラとねだる子供のように輝かせ、手を必死に伸ばしながら俺の要求に答える。

「なら、やめるからその写真をちょうだい……」

 ……あれ?

 一瞬頭の中身がフリーズしたが、すぐに解凍されて戸惑いながら返事をする。

「ほ、本当なんだな? だ、だったらまず、俺から離れろ。そうしたら写真を渡してやる」

「離れたくないけど、響野の写真のため……我慢……」

 山紙は興奮の声をこらえて、俺の身体に抱き付くのをやめて数歩後ろに下がる。

「離れたから、その写真を早く……」

「いや、まだだ。俺がお前に写真を渡した後、裏切られでもしたら困るからな」

「私は響野を、裏切らない……。写真だけもらって、響野を襲うなんてことはしない……」

「散々俺を襲っておきながら、どこの口がそんなことを言っているんだろうね?」

「私の自慢なる口……」

「よく自信満々に言えるな、お前……」

 腰に手を当て少し胸を張るスク水の山紙に、俺は写真を持つ手で頭の後ろを掻く。

 だけど、なぜ山紙は俺の要求を飲んでくれたんだ? ある意味その点に関しては、嬉しいことだけど、何か引っ掛かる。

 俺は頭から手を離し、「とりあえず」と切り出してから会話を再開させる。

「まだ信用できないから、俺が逃げる逃走路を用意してくれないか?」

 そんな提案を俺が出すと、自信満々の山紙は胸を張るのをやめ、いつもの無表情に戻って言う。

「……知ってると思うけど、私が写真を選ばずに響野を襲うことも可能だと言うこと、分かってる……?」

「もちろん分かっている。もしもその選択をされた時は、何としてでも写真だけは破り捨てるつもりだ」

 山紙が最悪俺を襲ってきても、写真を破るだけの時間はあるはずだ。もしも破る時間が無かったとしても、争っている間に破るチャンスはいくらかあるだろう。

 俺がそんな風に答えると、特に今の表情を崩すことなく山紙は言う。

「正直、響野を襲う方が私にメリットがある……。だけどそんなことは、いつでもできる……」

「いつでもやれるとか、はっきりと言わないで。リアルに怖いから」

「だけどその写真は違う……。その写真を手に入れるチャンスは、このタイミングしかない……」

 ……まあ山紙の言う通り、それは確かだ。

 現在俺が持っている写真を手に入れるためには、このタイミングでしか手に入らないだろう。俺が襲われたのならば、何があってもこの写真を破り捨てるからだ。

「いつでもできることと、今しかできないこと……。私なら、後者を選ぶ……」

 山紙の言葉を聞き、一人納得する。こいつが俺を襲わないで写真を選んだ理由は、そのためなのか。

俺が納得してふと意識を目の前からズラしていると、いつものとんでも発言が炸裂する。

「響野を襲ってもいいけど、写真があれば色々と楽しめるというのが本音……」

「最低な発想はやめてくれない?」

 俺の小学時代の写真で色々するとか、マジで勘弁してほしい。綺麗な頃の俺の記憶を、汚さないでくれる?

「別に最低な発想じゃない……立派な正論……」

「立派な正論を言えるならば、人の貞操を奪わないでくれる?」

「それとこれとは話が別……。響野の自由は私のもの……」

「勝手に人の自由を自分のものにしないで⁉」

「無理な相談……」

「絶対に無理じゃないよね⁉ ただお前が聞く気が無いだけだよね⁉」

「うん……」

「そこは嘘でも違うと言ってくれないかな⁉」

 山紙はこくりと頷き、それに対して俺は声を荒げる。

 どうしてクラスメートと話すだけで、こんなにも体力を消費するのだろうか? もう少し俺の体力を心配していただきたい。

 俺が声を荒げる原因を作った山紙は、何事もなかったかのような無表情を向けながら、平然と話を戻す。

「話を戻すけど、私は響野のことを裏切らない……」

 そんなことをまた言い出した山紙に、俺は声の調子を整えてから言う。

「だからどうしてそう言い切れるんだよ……?」

「好きな人を裏切らない……。それが私の中のルールだから……」

「……はぁ」

 真顔で答える山紙を見て、俺は憂いと呆れが混ざったため息を溢す。

「……写真をもらったあと、お前は絶対に裏切らないんだな?」

「絶対に裏切らない……」

 言葉に力を込め、俺の目をしっかりと見つめて山紙は頷く。

 ……こんな姿を見せ付けられれば、誰だって了承するしかないな……。

「分かった、お前を信じるよ」

「さすが響野……」

 俺は離れていた山紙との距離を数歩歩いて縮め、手に持っている自分の写真を手渡す。

「響野、良い子……」

「黙れ……」

 山紙の上から目線気味のセリフを一蹴してから、少し身体を強張らせ、山紙の動きを凝視する。理由は簡単に、万が一約束を破って山紙が襲ってきた時に、最低限の抵抗をするためだ。

 しかし、俺が身体を強張らせるとは対照的に、山紙はリラックスしたような態度で、襲ってくる気配は微塵も感じられない。

「……」

「響野……どうしたの……?」

 俺が襲ってくると思っていたことなど当の本人は知らず、ただ不思議そうに小首を傾げる。

「いや、本当に襲ってこないんだなって思ってな」

「? もしかして襲ってほしかったの……? 襲ってほしいなら、いつでも襲う……」

「そんなことを依頼する気は無い」

「? 逆に私のことを襲いたいの……? それでも私は別にいい……」

「確実にお前の思考回路は狂っていると思えるんだけど、俺の勘違いか?」

 変態にもほどがある。

 どうすればここまでの発想が思い付くのか、一度でもいいから調べてみたいものだ。

「ねぇねぇ、響野」

「……疲れているから、できればお前とは話したくないんだけど」

「響野も響野で、突拍子にひどいことを言うよね⁉」

 横から話し掛けてきたメイドコスの風火を軽くあしらおうとすると、風火は目を見開き、前に足を踏み出して文句をぶつけてくる。

「風火。俺はお前らとの会話で、朝から疲労が蓄積されているんだよ」

「年寄りじゃないんだから、それぐらいで根を上げないでよ」

「年寄り関係なく、誰だって根を上げるレベル何だけど」

「気合と根性の問題だよ、響野! 私なんて、三日三晩寝てなく疲れてても、響野とイチャイチャする妄想は欠かさずやってるよ!」

「それとこれとは話が別だろ」

 俺がそう指摘をすると、風火は手を自分の顔の前で横に振り、発言を否定する。

「いやいや、別なんかじゃないよ。三日三晩徹夜でゲームしてみてよ。あれは本当に大変だよ。目は潤むし痛くなるしでキツイし、ゲームの内容は記憶から飛ぶし、むしろ寝落ちしそうになるし」

「ならやるな」

 だが、風火は俺の言葉に対して、満面な笑顔でまた否定する。

「ダメだよ。あれはゲーマーにとっては、乗り越えなければならない道だと思ってるよ、私なりには。あっ、でももう二度としたくない経験だね!」

「笑顔で言い切るな」

 呆れた声色で、言い捨てる。

 幼馴染がダメ人間になり掛けているんだけど、誰か救い出してやってはくれないか? 報酬は特にないという、ボランティア精神の持った人限定の仕事だけど。

 俺はダメ人間街道まっしぐらの幼馴染を見てため息を吐いてから、言葉を発する。

「それじゃあ、俺はもう帰るぞ。お前らのお願いは全部完遂したし、これ以上ここにいたら精神的に圧迫されて、ダウンしそうだしな」

「女の子の部屋にお邪魔しておいて、本当に響野は失礼極まりの無い言葉を、容赦なく出してくるね」

 笑顔で持論を言っていた風火は、眉をひそめて不機嫌そうにする。

「女の子の部屋って、明らかに年齢対象外のゲームが置いてある時点で、女の子の部屋としては扱いづらいことになっているだろ」

「それは偏見だよ。女の子向けの十八禁ゲームはわんさかあるし、普通のエロゲでも興奮するもんだよ」

「自分の年齢を配慮して喋ってくれない? 十八禁って、ストレートに言わないでくれ……」

 現役の女子高生なのだから、もう少しそういうことを考えてほしい。

 ……まあ、ここはとっとと帰ろう。また口車に乗せられたら、疲れるだけだ。

「……どうでもいいことは置いておき、俺はもう帰るからな」

「まだ帰らないでよ、響野。ポテトチップスコンソメ味あるよ」

「そんなの一人で食ってろ。俺は何が何でも帰る」

 すると、風火は慌て出し、急ぐような口調で俺を食い止めようとする。

「響野専属のメイドもいるんだよ! 欲情まっさがりの男子高校生が、こんなところで手を引いてもいいの⁉」

「俺はまっとうな人生を送ると決めてる」

「世の中にイレギュラーは付き物でしょ、響野!」

「じゃあ、俺は帰るよ」

「くっ、仕方がない。響野捕縛プロジェクト、Xを起動――」

 と言い掛けた風火に、俺はポケットにしまっておいたもう一枚の写真を目の前で放る。

「! こ、この写真は⁉」

 放った写真をさっと風火は折らないように取り、写真に写る人物をまじまじと見つめる。

「響野の写真、しかも中学校入学式の来たぁああああああ!」

「幼馴染の奇行を見るのキツイから、やめてくれないか……」

 そう言うが、風火は俺が放った写真に目をキラキラと輝かせて熱中しているため、言葉が耳に入っていない様子だ。

 因みに、俺が渡した写真はうちの家族が入学式の時に撮った写真なので、風火の手元には無い。

 だから現在の変態幼馴染は、新しいおもちゃを与えられたネコのごとく、この写真に夢中になっているのだ。

 風火が夢中になっている間に、俺はこっそりと扉へと向かう。

 だが、すぐに俺はもう一人の変態に呼び止められる。

「響野……待って……」

「……要件を全部終えたから、俺はもう帰りたいと何度も言っているんだけど」

「別に、まだ何かをやるっていうわけじゃない……」

「ならなんだ?」

 胸の前で大切そうに写真を抱える山紙を見ながら、俺がそう訊き返してみると、頬を微妙に赤めて言う。

「今日の夜……楽しみにしてる……」

「何をほざいてるの⁉」

 神出鬼没なとんでも発言を受け、俺は思わず声の調子を乱す。というか、本当に何ほざいているんだこいつは⁉

「ほざいてない……私は夜の営みのことを話してる……」

「夜の営みについて、俺はお前と話すことなど微塵もないんだけど……」

「そんなことない……。むしろ埃が立つほど話さないといけないくらい、重要……」

「どうして重要なんだよ。とか訊いたら、お前は絶対納得し難い理由を話すつもりだろ」

「響野が好きだから……」

「分かってるから言わなくていいよ!」

 朝から同じようなことを聞いていて、言わずとも分かる。悪い意味で。

 俺はうめきに近い短い唸り声をこぼしてから、山紙の期待を裏切る発言を表明する。

「俺はお前と何かと、夜の営みなどを行うつもりはない」

「……それはつまり、夜這いしろっていう意味……?」

「おかしい結論だね⁉」

 拒否の意を表しているのに、なぜそんな結論が出てくる。だから変態の思考は困るんだよ。

「……じゃあ、俺はもう帰るからな」

 これ以上、二人の変態思考に付き合っていたら俺の身が持たないと分かっているので、俺は口で語りながら扉のノブを手で掴む。

「楽しみにしてる……」

「俺は楽しみにしてない」

 背後から耳に届く山紙の落ち着いた声に、呆れた調子の否定の言葉を掛けてから俺は扉を開けて部屋を出て行く。

「……」

 二階の廊下を足音立てながら歩いていると、風火の部屋から身悶えるようなくぐもった叫びが聞こえてくる。

「響野ぁあああああ! 響野響野響野響野ぁあああああ!」

 致命的なほど、幼馴染がマズイんだけど……。

 俺はそう悟り、また自分に被害が降り掛からないよう早足で階段を下りて玄関へと到着すると、玄関に座らせられている一人の顔見知りが目に入るが、その横を平然と通り過ぎる。

 後の面倒事は、上で騒いでる変態たちに任せよう。

 そう心の中で呟き、俺は玄関の扉を開けて夕陽色に染まる空の下へと身を晒した。


 お読みになっていただき、誠にありがとうございます。

 最初は右も左もわからなかったこのサイトに、ようやく慣れてきたような感覚を覚えます。

 そんなことはさておき、この作品はそろそろクライマックスです。

 みなさん方の貴重なお時間を、この作品をお読みする時間に費やしてもらい、本当にありがとうございました。

 次話も近日掲載したいと思いますので、今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。

 最後に、この作品をお読みくださいました読者のみなさまに、心からお礼を申し上げます。

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