All or None1
前書き:
くらくらする内容が始まります。
車酔いに似た感覚になっていただければと思います。
あと、このお話、あんまりハッピーには終わらない予定です。
内容が内容なので。
broken key-none1
ー生の定義1:生かされる世界での、生の在処ー
家畜として生きる彼にとって最も不幸なことは、
彼自身が、己の人生が家畜以上の意味を持ち得ないという事実に気づくことーーーにはなく、
自身という存在が家畜として「生かされている」という事実にーーー気づくことにある。
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ー死の定義1 :群れにおける、個ー
あるとき、流れの旅人が異国の羊飼いに問うた。
「羊飼いを営む上で、一番大事なことは何ですか」ーーーと。
そんな彼に、羊飼いは、こう、答えた。
「『羊』を動かすことさ。『あの固まり』を、うごかすこと。それが全てだよ」
ーーーーーーと。
All or None : 序章1:姉妹世界α:ねじれた生の始まり1:宮本慎也 : All
ふと目を覚ますと、シロ塗りの壁が視界に映った。
それは規則正しい正方形が毅然として刻まれた壁で、無表情だった。
別に俺はそこに、暖かみを求めたわけでもない。ただただ、そこには熱が無かった。
その事実が、なんだか悲しかったんだ。
それが病院の天井だと気づいたのは、俺を包み込む布団の暖かさと、視界の端に映る点滴の存在が大きかったんだと思う。
「あ・・・・・・」
規則正しく聞こえるとpi、piっという電子音。
それが、病室に満ちる響きの全てだった。
あとは、自分の静かな呼吸くらいだろうか?
他は、何も無かった。
「こ、此処は・・・・・・病院? 俺、助かったのか?」
俺は状況を確認するため、何の気もなく首をねじって周りを見渡そうとした。
けれど、それは叶わなかった。
そう、体に全く力が入らなかったのだ。
自分では首を普通に曲げたつもりだったのに、結果として、俺は未だに同じ天井を見続けている。
それは俺にとって初めての体験で、不思議なものだった。
小指一本曲げられなかった。まるで、「体が他人」のようだとすら、思った。
そして、今までどうやって体動かしてたかな――なんて、哲学にも似た馬鹿げたことを巡りの鈍い頭で考え始めようとした、そのとき。
「菊池・・・・・さん? 菊池大輔さん?」
そのとき、声が聞こえた。
ガラガラという引き戸を開けるような音が過ぎた後に、そう、聞こえた。
だが、声の主の顔は見えない。俺の視界は未だに、天井に固定されたまんまだからだ。けれど。
「先生に連絡して。 菊池さんが、目を覚まされたって! 急いで!」
けれど、俺はその声の主の顔をはっきりと見ることが出来た。
べつに、俺が特別な何かをしたわけじゃない。
理由は、声の主の方が俺に近づいてくれたからだ。
俺は、何もしていない。
声の主は、看護士だった。
かなりガタイの良い、大柄な男性だった。
・・・・・・どうせなら、美人でスタイルの良い看護婦さんが良かったなんて、馬鹿げたことを考える俺は――?
「菊池って、だれですか? 俺は、宮本です。 宮本、慎也・・・・・・」
ぶれだす視界で、看護士さんの顔が崩れた気がした。
また意識が、遠のいていく。
少しずつ世界が上昇して、俺が落ちていく。
俺は、そんなふわふわとした感覚の中で――――
「先生、菊池さんが目を覚まされました! はやく、こちらに!」
――――――という声を聞き遂げ、そして、また深い眠りに落ちたのだった。
All or None : 序章1:姉妹世界β:手違いから始まる、黄泉の旅1:菊池大輔 : none
もはや死後の世界なんて信じていなかった俺すれば、目の前の光景は衝撃以外の何者でもなかった。
「んで、あんたは、宮本慎也さん・・・・・・じゃない? ちょっと、順番守ってもらわないと困りますって! というか、そもそも、これ、あなたのじゃないじゃないですか~! え~っと、あなたは・・・・・・」
そう、衝撃以外の何者でもなかった。
なぜなら、天使とも仏ともかけ離れた外見のおっさんが、しかめっ面で俺の死亡確認書を値踏みしているのだ。
そして、なんなく×を食らった。
当たり前だ。
その診断書の写真は明らかに、俺じゃなかったのだから。
だが、それは俺が悪いわけじゃない。
ちなみに、おっさんが手にしている書類(死亡確認書?)は俺が手渡したものだが、再度確認させてもらうと、俺が悪いわけじゃない。
なぜなら、その書類は、「とある少年」が俺に手渡したものだからだーーーそう、おれが、「この世界」で目を覚ましたときに初めて会った、死神を名乗るオッドアイのーーー
「あれ? あなた、だれですか? リストに在りませんけど? ちょっと、これは・・・・・あんの、バカたれが・・・・・・!!! なんちゅうことを!!!」
俺が渡した書類ではなく、自分の手元におかれた別の紙をめくっていたおっさんの手が止まった。
そして、みるみる顔を青ざめさせていく。
ちょっとまじかよ~と頭をかきむしるおっさんーーーもとい死神高官(名札上は)は、座った目でどこかに電話をかけ始めた。俺のことは、ガン無視だ。
暇なので、少し自分の境遇について考えてみる・・・・・ないな。
考えることなんて、ない。ただ、どうやら俺は死んだらしいということが、何となく感じることができる。
ここがあの世かどうかは分からないが、すくなくとも、俺が手渡された書類には、「死亡確認書及び住民登録届け」なる文字が踊っているし、俺は死んだんだろう。
その記憶は無いが、あの状況じゃしょうがない。
ちなみに、死因は「全身を強く打って」ーーーーという、隠語でやんわりとしたものだったが、ようは、バラバラになったらしいな、俺は。
まあ、そんだけ強い衝撃だったから・・・・・・
「鈴をよべ! あんのばか、やらかしやがった! ああ、そうだよ! 別の人間連れてやがる! まったく、あのバカ、なにをどうやったら・・・・・・」
衝撃だったから・・・・・・ん?
別の人間? あれ? なんか、聞き捨てならない言葉が耳に入った気がするんだが、それは気のせいーーーーじゃない!
てか、いつのまにか、おっさんに囲まれてるのか、俺は!!?
あれ? なんで? おれ、何も悪いことしてないのに、そんな目で見るのやめ・・・・・・