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All or None  作者: blue birds
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All or None : 序章1:姉妹世界α:生きる権利の破棄:菊池大輔

テーマは、「生きるとは?」です

All or None : 序章1:姉妹世界α:生きる権利の破棄:菊池大輔



 人は死に直面したとき初めて、生の素晴らしさや命の尊さに気づくという。

 まあ、感動もののドラマなんかで、よくある設定だ。


 でも実際、それは間違っているじゃないかと、今まさに俺は思っている・・・・・・正しくは、「緩やかなな死に直面したとき、人は・・・・・・」―――だ。




「いや! いや! いやーーーーーーー!!!!!」

「ふざけるな! おい、こんなところで! パラシュートはどこだ!? おい、おまえ、こたえーーー」

「おちついてください! 指示にした下ってください!」




 怒号と悲鳴が飛び交う中、俺は冷静かつ冷めた目で、現状を分析した。

 視界を回転させ、聞き耳を立てる。渦巻く混沌の除法から視覚と聴覚を最大限に生かし、必要な情報の採取と現状の構築を行う。


 たった、それだけのこと。よく見て、よく耳をすます。ただそれだけで、自分の乗った飛行機が墜落するのだということを悟ることが出来た。



 なんでも、両翼のエンジンが火を噴いているらしい。というより、片翼に関しては吹き飛んでしまい、原型すら無いとのこと。



「まんま、太平洋の上か・・・・・・どうせなら、楽に逝きたいもんだな」



 墜落した衝撃で即死出来れば良いが、なんらかの奇跡で運良く生き残り、そのまま海に機体と心中――ってのは、避けたい。数ある人間の死のなかでも、窒息死は最悪の部類に入ると聞いたことがあるからだ。



(でも、まあ、いいか。ここで、終わっても)



 思考は、クリアだった。

 心も、静かだった。

 それだけに、パニックを起こしている連中が、滑稽に思えてくる。


 なにしろ、こんな状況だ。なにをどうしたところで、もはや「運」にかける以外、俺たちに残された選択肢はないだろうに。



 ・・・・・・まあ、それすらも、もう、どうでもいい。

 そう、俺はここで死んでもかまわないのだから。





(だからと言って、死にたいわけでもないけどな)




 心の中で皮肉気味に呟くと、俺は目を閉じた。

 そして、自身の半生というものを振り返ってみる。



 ・・・・・・そう、俺の半生。それ例えてみると、約束された成功のレールに乗っかって走るだけの、出来レースそのものだった。なんの、面白みも無い。

 ただただ当たり前のように家業を習得し、こなす。有家に生まれたこの身ならではの、人生だった。


 視界に入るのは、あるべくしてある一本道のみ。

 ただの、一本道だけ。そう、ひたすら未来へと伸びる、ただただの――――冷たい、一本に引き延ばされた、コンクリートの道。それを、革靴で歩く。


 カツカツと、音を立てて。





(・・・・・・)





 生ける屍――――まさに、それが俺の人生だった。

 生きている振りをした、死人。絡められた糸と用意された部隊が無ければ踊れない、只の道化――――それが、俺だった。



 そうだったのだと、今更ながらに思い至った。

 ・・・・・・だから、俺は目を閉じた。

 体から力を抜き、深呼吸する。



 ここで死ぬのかどうか、もう天に任せると、俺は決めた。

 仮に此処で死んでも、悔いは無い。これまでの人生だってどうせ、死人それだったんだ。

 そして、仮に、百歩譲って此処で生き残ったとしたら――――そうしたら、生きよう。今まで通りに。生きた振りをした、道化の、まま・・・・・・






(ねぇ、だったら、その「権利」をゆずってくれないかな?

 どうでもいいんでしょ? だったら、「それ」を譲っておくれよ。

 必要としている人が、居るんだ)






 ――――声が、聞こえた気がした。

 権利を、譲れと。俺にとって価値のない、この、「権利」を。






(・・・・・・?)




 俺は、うっすらと目を開けた。

 目の前には、霞のような一人の少年。心無しか、彼の体の向こう側に、機内の装飾品が見えてさえいる。




 透き通った少年は、「生きる権利」を譲れと、再度言葉を重ねた。

 そして、代わりに「死ぬ権利」を与えるとも。

 



(どうでも、いいんだよね? どっちでも、いいんでしょう?

 だったら、「それ」をちょうだい。ぜったいに、「それ」が必要なんだっていってる人がいるんだ)




 ――――真剣な、少年の目。

 どこまでも透き通った、漆黒の瞳。そんな瞳で、少年は必死に懇願している。



 これが、俺が最後に見る光景かと思うと、情けなくもある。しかし、同時に、それすらもどうでも良いと感じる自分がいる。


 そう、もう、どうでもよかった。生きようと死のうと、同じこと。その二つは俺に取って、同義だったのだから。だから、俺は答えた。

 そう、何の感慨も無く、なんの根源も無く俺は――――




 「好きにしろ」と。




 そう言い残して、俺は再び目を閉じたのだった。

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