表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
All or None  作者: blue birds
10/10

All or none:noneとall

なぜ、自分だったのか?

なぜ、他人では駄目だったのか?


もし、その答えに正答が存在しないとしたら————


TiPs〜少しだけ、先の未来:持ち得たもの、望んだもの、満たされぬ結末:菊池&少年


少年は虹色に輝くペンダントを握りしめ、大輔から距離をとった。

忘却の定めを破棄する、その唯一無二の法具———「トーチ」を胸に、少年は今一度失いたくないと願ったのだ。


そんな彼の瞳が宿す焰には、暗い影が渦巻いている。


「なんでだよ! 何で今更、返せなんて言うんだよ!

・・・・・・必要なかったんだろう!!? 自分には必要ないものだって・・・・・・なのに、何で今更!!!」



絶対に返さないと慟哭する少年に、菊池は————返す言葉が見つからなかった。

代わりに、鈴がそっと少年に歩み寄る。



「それは、あなたが持っていていいものではありません。それはあなたの運命を狂わせるものです。それを持っていては、あなたの傷は・・・・・・・」


「だまれよ、死神! 人間でもないお前に何が分かるって言うんだ!? だれが直してくれって頼んだよ? だれが消してくれなんて頼んだんだよ!!!!」



魂の管理者である鈴を前にして、少年はなお引かない。

さりとて鈴自身も同様に、定められた縛りにある。

そう、彼女とて、その身を引くことなど出来はしないのだ。


「どれだけ逆らおうと、あなたは運命から逃れられません! 私たちを退いたとしても、もっと強力で無慈悲な誰かがあなたを在るべき道に連れ戻します! ここは癒しの世界なんです! 対岸で受けた傷を癒し、新たな旅路への支度をするための優しき世界・・・・・・たとえその法具で世界を幾ばくか騙し仰せたとしても、いつか世界は歪みに気づく! そうなってからでは、あなたは・・・・・・」


「大切なものなんだよ! 無くしたくないものなんだ! 約束したんだよ! なんで分かってくれないんだよ! なんで! どうして! 誰も・・・・・・・」



木霊する願いは虚空に溶け、神秘の月下が三人へと降り注ぐ。

静かな世界で想いを振るわす誰もが、その矛盾を理解していた。


「なんでお前なんだよ! なんで俺じゃないんだよ! どうでも良かったんだろう!? むしろ奇麗さっぱり忘れたいって言ってだろうが!

それに、お前が帰ったら、お前の代わりに誰か死ぬんだろう!? 生きることに意味が無いなんて言うお前の代わりに————今を懸命に生きたいと願う誰かが、死ぬんだ!!! おかしいだろう!? なあ!? 答えろよ!? なんで! なんで、お前なんだよ!? 何で俺じゃないんだよ!? なんで、お前じゃない誰かなんだよ!? お前はそれで良いのかよ!?」



答えろよ——————いいや、応えろよ。

漂白されるだけの世界で、得たられたその答えは、菊池にさらなる苦痛をもたらした。


されど、それこそが生きるということ。

けれど、それが傷を得るということ。傷を得て、それと向き合うということ。



それが、答えだった。

応えること——誰かの想いに、応えること。


正しくないかもしれないし、それどころか、間違いだらけかもしれない。

それでも、「応える」ことが「答え」だと——————そう、想えたから。


そう、想えてしまったから。だからこそ、彼は——————



「本当にな? なんで、俺なんだろうな? なんで、お前じゃないんだろうな? なんで、慎也ってやつじゃないんだろうな! なんで、なんで、なんで、本当に俺なんだろうな・・・・・・・?」




だから、彼は、帰ることを決意したのだ。

大きな力が、運命が、世界の理が、他の誰でもない菊池大輔の生存を肯定するから————だから、そんな結末が正しいと————そう、答えるのではなく。


彼は、応えたのだ。

初めて————少なくとも、彼は「それ」を意識して、応えたのだ。






生きたいんだ・・・・・・・生きたいんだよ!

こんなにも今更になって、そう想ったんだ!——————と。

癒されるべき傷を庇う——ー失いたくないと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ