日常の異変
授業の終了の合図となる鐘が鳴り響き、みんなが帰り支度を始める。
俺はいつもの様に机の横に引っ掛けておいた鞄を手に取り、机の中の教科書を適当にぶち込む。
この勝間高校は偏差値50程度。
本当はもっと上の、偏差値65程度のいわゆる頭の良い高校に進学する予定だったが、父親が大量の借金を残し、家を出て行ったせいで家のお金が足りなくなり、地元の公立高校であったこの高校に通う事になった。
実際俺は真面目に机に向かって1日5時間勉強するなんていうガリ勉君のようなことをしたことはなく、荒れているこの勝間学校の奴らともなかなか気が合った。
最近は部活動で先生が少なくなる放課後の職員室に忍び込み、先生の机の中に入っているお菓子を盗んでくる、というのが俺たちの密かなブームで、これがスリリングでとても楽しい。
実際今日もそれを決行する予定で、俺は自分のクラスの担任である弓成先生の引き出しに入っている大量のビックカツを盗る予定だ。
その為の作戦を考えていると不意に俺の名前を呼ぶ声がした。
「宮市くん。何ボーッとしてるの?帰りのホームルームは始まってるわよ。」
丁度標的にしていた弓成先生が声をかけてきたので、俺は頭の中を見透かされたようでドキッとした。
因みに宮市というのは俺の苗字。下の名前は爽だ。
「すいません。」
そして俺は特になんの装飾もつけず素っ気なく返し、ホームルームの再開を促す。
そしてまた放課後の作戦について考えている内に帰りのホームルームは終わっていた。
「お前何ボーッとしてんの?まあいつものことか!」
俺の悪友、篠原賢人が話しかけてきた。
名前に「賢」という字が入っているが、決して頭が良い訳ではなく、クラスでいつもビリ争いをしている。
「授業中寝てるお前よりはマシだ。とりあえず作戦決行までは図書室に行こう。」
俺はそう言い、いつの間にか中断していた帰り支度を終えると、賢人と共に教室をでて図書室に向かう。
ホームルームが終わるのは3時30分、それぞれの部活が始まるのは4時からなのでそれまでの30分間は何処かで暇を潰さないといけないのだ。
俺は賢人に声を掛けた。
「弓成先生俺たちがしてる事気付いてるのかな?」
「自分のお菓子が減ってるのは気付いてるだろうけど、俺たちの仕業だとは思わないだろー」
だよな!今まで優等生を演じ続けて来たのにここでこんな事がばれたら俺の将来は・・・
「宮市くん、篠原くん、ちょっとお話があるんだけど職員室に来てもらえるかな?」
弓成先生だった。
「・・・何ですか?」
口の中の水分がなくなり、うまく声がでない。
隣にいる賢人は完全に固まってる。
いや、もしかしたら違う話かもしれないじゃないか!
そんな職員室に呼ばれるくらい全然・・・!
「ちょっとね、重大な話なの。」
ああ・・・俺の人生さよなら・・・
俺たちは完全に無言になり、弓成先生について行く。
教室から職員室までは1分とかからず、心の準備が出来ていないまま職員室に招き入れられる。
職員室にはまだ2、3人の先生が残っていた。ここへは何度も入った事がある。まあ指導を食らった事はまだ無いけどね!
弓成先生は自分の机まで行くと何か呟いた。
それは一瞬で、何と言ったのか聞き取れなかった。
恐らく隣にいる賢人も同じだろう。
そして俺は違和感に気づく。
音が一切しないのだ。
もしやと思い見てみると時計の針が止まっている。
「とうとうバラしちゃった・・・」
弓成先生の口元がニヤリと動いたように見えた。
「これは・・・?」
正直怖い。
こんな漫画の中でしか起こらないような事が実際起こるなんて・・・。
時が止まってる!?
そんな放心状態の俺たちを無視するかのように先生は話を続ける。
「実は私、神なのよ。」
衝撃の告白だった。




