第4話:「番号の割り当て」
——では、あなたが読んでいるこれは、何回目だ?
永遠に続く白昼のような夜が明け(あるいは、時計の針が規定の時刻を指し)、新しい「宿泊客」たちは地下の集会室へと引きずり出された。
眩い光の下に並ばされた彼らは、一様にオレンジ色の制服を着せられている。昨夜の疲労と睡眠剥奪により、彼らの顔からはすでに生気が失われつつあった。
冷たいコンクリートの床に等間隔で引かれた白い線。その線から一歩でもはみ出せば、壁に埋め込まれた銃眼から警告の電流が飛ぶ。
インテイク・オフィサーであるマーカス・グレイは、彼らの正面に立つ演台から、無機質な視線を下ろした。手元には、新たに発行された名簿のバインダーがある。
「よく聞け。今からお前たちの『新しい輪郭』を与える」
マーカスの声は、反響を計算し尽くされた集会室の構造によって、神の宣告のように低く響き渡った。
「外の世界で何者であったか、どれほどの財産を持っていたか、誰に愛されていたか。それらはすべて、この分厚い壁の外に捨ててきたゴミに過ぎない。お前たちは、ここではもう『名』ではない」
マーカスは名簿に目を落とし、最初の男を指差した。
「ジェームス・コーン。一歩前へ」
高級スーツを剥ぎ取られ、サイズの合わない制服を着たジェームスが、ふらつく足取りで前に出た。昨日のような獰猛な反抗心は鳴りを潜めているが、それでも彼はマーカスを睨み返した。
「今日から、お前の呼称は『447』だ」
マーカスが宣告した瞬間、ジェームスは顔を歪めた。
「ふざけるな。俺はジェームスだ。ただの強盗じゃない、歴史に残る仕事を……」
「黙れ、447。復唱しろ」
「俺は……」
壁の奥から、鼓膜を圧迫するような低い振動音が鳴った。それは見えない巨大な獣の唸り声のようだった。ジェームスの膝がガクンと折れ、彼は床に両手をついた。目に見えない重圧が、彼の意志を上から物理的に押し潰していく。
「……447」
ジェームスは這いつくばったまま、掠れた声で自分の新しい輪郭を受け入れた。
「次。サラ・ヴァレンティナ」
麻薬密売組織のボスだった女が、無言で前に出る。彼女の首元には、奪われたペンダントの代わりに、擦り切れた赤い引っ掻き傷が残っていた。
「お前は『892』だ」
サラは何も言わず、ただ虚ろな目で宙を見つめ、「892」と呟いて列に戻った。
マーカスは淡々と作業を続ける。
番号を呼ばれるたび、宿泊客たちの肩から目に見えない「何か」が剥がれ落ちていくのがわかった。彼らは自分の名を失うことで、過去との接続を断ち切られる。
——「番号! 1、2、3……」
やがてマーカスの号令に合わせ、オレンジ色の塊たちは自らの番号を叫び始めた。
「447!」「892!」
その声の連なりは、もはや人間のそれではなく、機械の駆動音に近かった。彼らの人間らしさの最後の痕跡が、空調のノイズに溶けて消えていく。
マーカスはその光景を見下ろしながら、バインダーを握る手に微かに力を込めた。
(昨日、手首に巻いた受付番号は『0048』と『0049』だったはずだ)
なぜ、彼らは今日「447」と「892」になっているのか? 途中の番号はどこへ消えた?
いや、それ以上に不可解なのは、マーカス自身がこの「番号による完全な支配」の先に何があるのかを、確信を持って『知っている』ことだった。
この号呼システムは、まだ表面的な儀式に過ぎない。
名前を奪い、睡眠を奪い、思考を奪う。それは、彼らを「器」にするための下準備だ。完全に空っぽになった器に、この「グリーン・ルーフ・イン」という巨大な施設そのものが、自らの意志を流し込み、同化させる。彼らはやがて、壁のシミとなり、床の軋みとなり、この建物を構成する細胞の一つとなるのだ。
なぜ、マニュアルに書かれていないそんな絶望的な結末を、自分は知っているのか。
マーカスの冷徹な灰色の瞳に、一瞬だけ濃い影が落ちた。
「次。アーロン・グリーン。一歩前へ」
マーカスが呼ぶと、図面を持っていたあの男が前に出た。彼は恐怖するどころか、与えられる番号を心待ちにしているように見えた。
そして最後尾には、ノラ・パーカーが立っている。
彼女は自分の番が来るのを、やはりあの奇妙に穏やかな、すべてを見透かすような瞳で待っていた。




