第3話:「24時間の蛍光灯」
——では、あなたが読んでいるこれは、何回目だ?
「グリーン・ルーフ・イン」に夜は訪れない。
監視室のデジタル時計が「03:00」を刻んでいても、モニターに映し出される独房群は、真昼の砂漠よりも暴力的な明るさに満ちていた。
天井に埋め込まれたLEDパネルから降り注ぐのは、影を一切許さない純白の光だ。それは網膜を焼き、脳の奥底まで容赦なく侵入してくる。
マーカス・グレイは、規則正しく並んだモニターの群れを無表情で見つめていた。新しい「宿泊客」たちの最初の夜——いや、永遠に終わらない昼の観察記録をつけるためだ。
モニター『0048』。
数時間前まで高級スーツを纏い、吠え猛っていたジェームス・コーンは、今やオレンジ色の毛布を頭から被り、硬いベッドの上で芋虫のように身悶えしていた。しかし、官給品の薄い毛布ではあの光を遮ることはできない。彼は何度も寝返りを打ち、やがて苛立ちとともに毛布を跳ね除けると、虚空に向かって声にならない悪態をついた。彼の顔には、すでに明らかな疲労の色が濃く滲んでいる。
モニター『0049』。
サラ・ヴァレンティナはベッドには横たわっていなかった。彼女は部屋の隅にうずくまり、両腕で膝を抱え込んでいる。奪われたペンダントの代わりを探すように、自分の首筋を神経質に掻きむしっていた。影のない部屋は遠近感を狂わせ、壁がじわじわと迫ってくるような錯覚を引き起こす。彼女の目は血走り、小刻みに揺れていた。
「順調だ」
マーカスは業務日誌にペンを走らせる。
この施設の照明は、単に明るいだけではない。色温度は正確に6500ケルビンに設定され、意識には上らないレベルの微細なフリッカー(ちらつき)を放ち続けている。
人間の概日リズムを完全に破壊し、脳がレム睡眠に入ることを物理的に阻害する。時間感覚を奪い、自意識の境界を曖昧にし、最終的には「思考する気力」そのものを根こそぎ奪い取る。狂気へ至る前の、完全な無力化。
それが、この光が持つ本当の目的だ。
マーカスはそこまで思考を進め、ふとペンを止めた。
——なぜ、自分はそんなことを知っている?
インテイク・オフィサーのマニュアルに、照明の仕様書は載っていない。ただ「消灯時間は存在しない」と書かれているだけだ。それなのになぜ、自分は「人間の精神を破壊するために設計された」という開発者のような意図まで、さも当たり前のように理解しているのか。
頭の奥で、昨日から鳴り止まない鈍い痛みがまた脈打った。
視線を別のモニターに移す。
モニター『0046』。
建築家、アーロン・グリーン。彼は眠ろうとする努力すら放棄していた。ベッドの上に立ち上がり、天井の照明パネルの継ぎ目を指でなぞっている。監視カメラ越しにも、彼が恍惚とした笑みを浮かべているのがわかった。彼は眩しがる様子もなく、まるで自分の最高傑作を愛でるように、ただ光の源を見つめ続けている。
そして、モニター『0047』。
心理学者、ノラ・パーカー。
彼女はオレンジ色の制服を着たまま、部屋の中央で静かに胡座をかいていた。目を閉じることもなく、眩しさに顔をしかめることもない。
ただ真っ直ぐに、壁に埋め込まれた監視カメラのレンズを見つめ返していた。
レンズ越しに、マーカスとノラの視線が交差する。
彼女の唇が、ゆっくりと動いた。音声はない。だが、マーカスには彼女が何と言ったのか、はっきりと読み取ることができた。
『あと、何時間?』
マーカスは無意識に、コンソールの端にあるデジタル時計へ目を向けた。
「03:00」
赤いLEDの数字は、さきほど確認した時から1分たりとも進んでいなかった。
背筋に冷たいものが走る。自分の腕時計を見る。秒針が、12の位置で完全に停止していた。
マーカスがいつからこの監視室に座っているのか。彼らがいつ独房に入れられたのか。1時間が経過したのか、それとも1秒も経っていないのか。
光が、モニターから溢れ出し、監視室全体を飲み込もうとしている錯覚に陥った。
壁の奥から、またあの「呼吸」のような振動音が響く




