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第2話:「オレンジ色の制服」

——では、あなたが読んでいるこれは、何回目だ?

「グリーン・ルーフ・イン」の地下に位置する


『処理室』は、常に消毒液と古い鉄の匂いが充満している。


ここは、外の世界からやってきた「人間」を、

施設を構成する「部品」へと解体する最初のラインだった。


——そして、マーカスは気づいていた。

この処理室の壁が、かつて白かったはずであることを。


今、壁は淡いオレンジ色に変色している。


消毒液をどれだけ使っても、その色は消えない。

それは、壁が「吸収」しているのだ。

何百人もの「人間」が脱ぎ捨てたオレンジ色を。


やがて、この壁そのものが「オレンジ色」へと完全に統一されるのだろう。

その時、この処理室は「人間を加工する場所」から、「施設の一部」へと完全に変わるのだろう。



マーカス・グレイは、強化ガラスの向こう側で進行する作業を無表情で見下ろしていた。


スピーカーから無機質な合成音声が響く。

「衣服をすべて脱ぎ、足元のカゴに入れろ。装飾品、義歯、隠匿物、すべてだ」


ガラスの向こうに立つ新しい宿泊客たちは、まだ外の世界の色彩と匂いをまとっている。



彼らが着ているのは、仕立ての良いスーツ、泥にまみれたジーンズ、あるいは派手なドレス。しかし、数分後には全員が私服から統一規格のオレンジ色の制服へと着替えさせられ、社会での身分や過去の痕跡を強制的に削ぎ落とされることになる。


ジェームス・コーン。受付番号『0048』。



外では数々の金庫を破ってきた凄腕の銀行強盗犯だ。彼は最高級のウールで仕立てられたスリーピース・スーツを脱ぐのをためらっていた。



「おい、このスーツがいくらすると思ってる? 預かり証くらい出せよ」


ジェームスは監視カメラを睨みつけ、声を荒らげた。彼の目には、まだ野心とプライド、すなわち「人間らしさ」が燃え残っている。


ここがただの刑務所だと思い込んでいる者の典型的な反応だった。


マーカスはマイクのボタンを押し、平坦な声で告げた。

「0048番。指示に従え。お前の過去の価値は、ここではゼロだ」


「俺はジェームス・コーンだ! 番号で呼ぶな!」



「次」


マーカスはジェームスの怒声をスイッチ一つで遮断した。


彼らが吠えるのは最初だけだ。


やがて、この分厚いコンクリートの壁が彼らの声を飲み込み、

施設の冷たさが骨の髄まで浸透していくと、誰もが従順な数字へと変わっていく。


マーカスは、その過程を何度も見てきた。

何百回も見てきた。


しかし、彼は「いつ」から、この「観察者」になったのか。


彼もかつて、その位置にいたはずだ。

彼も、かつてジェームスのように、スーツを着て、名前を持って、

プライドを抱いていたはずだ。


では、彼はいつ、その「オレンジ色」になったのか。

いつ、「0001」になったのか。


その記憶が、なぜ、こんなに曖昧なのか。


マーカスはジェームスの怒声をスイッチ一つで遮断した。彼らが吠えるのは最初だけだ。やがて、この分

厚いコンクリートの壁が彼らの声を飲み込み、施設の冷たさが骨の髄まで浸透していくと、誰もが従順な数字へと変わっていく。


次に足元の線を踏んだのは、サラ・ヴァレンティナ。受付番号『0049』。

冷酷な麻薬密売組織のボスとして君臨していた彼女は、衣服を脱ぐこと自体には抵抗を示さなかったが、首から下げた銀のロケットペンダントだけは固く握りしめていた。


「これだけは渡さない。私のものよ」


サラの瞳には、鋭い反発の色が宿っていた。彼女もまた、自分がまだ「個」としての権利を持っていると錯覚している。


「0049番。すべての装飾品を外せ。例外はない」


マーカスの声には微塵の感情も混じらない。

「誰が外すもんですか。力ずくで奪ってみなさいよ!」


サラが叫んだ瞬間、処理室の床から微かな振動が走った。それは、先ほど受付室でアーロンやノラが現れた時にマーカスが感じた、あの奇妙な「壁の呼吸」に似ていた。



サラが叫んだ瞬間、処理室の床から微かな振動が走った。


それは、先ほど受付室でアーロンやノラが現れた時にマーカスが感じた、

あの奇妙な「壁の呼吸」に似ていた。


——そして、サラの背後に立っていた自動処理アームが動いた。


マーカスは、その腕が「動く」のを何度も見ている。

15年間、毎日、その腕が動く様子を見てきた。


しかし、今回も、その動きは「音がしない」。

油圧を使っているはずなのに、駆動音がない。

金属が金属を切断するはずなのに、摩擦音がない。


ただ、サラの首の周辺が「微かに光った」。

それは、レーザーなのか、それとも別の物質なのか、

マーカスはもう、見分けがつかない。


ペンダントが落ちた時、サラの肌には傷一つ付いていなかった。

それが、より恐ろしかった。


施設は、人間の肉体を傷つけることなく、

その「大切なもの」だけを、正確に奪い取る。


直後、サラの背後に立っていた自動処理アームが無音で動き、彼女の首からペンダントを正確かつ機械的

にむしり取った。

サラが悲鳴を上げる間もなく、ペンダントはダストシュートへと吸い込まれ、代わりに

眩しいほどに真新しいオレンジ色の制服が彼女の前に押し出された。


怒り、絶望、そして得体の知れない恐怖。

ガラスの向こうで、色とりどりだった人間たちが、次々と均質なオレンジ色の塊へと塗り潰されていく。ジェームスのプライドも、サラの執着も、オレンジ色の布地に袖を通した瞬間にひどくちっぽけなものに見えた。


マーカスは、その光景をただ淡々と観察し、チェックリストにチェックを入れていく。

彼らにはまだ「人間らしさ」が残っている。だが、それも時間の問題だ。この施設は、彼らの希望を喰らい、絶望を消化し、施設の血肉へと変えていくのだから。


マーカスは手元のバインダーを閉じた。

ふと、自分の手首に巻かれた古いリストバンドに視線が落ちる。


『0001』


印字は擦り切れてほとんど読めなくなっているが、確かにそう刻まれている。


なぜ、自分が1番なのか。


なぜ、自分は15年間、このオレンジ色の服を着た連中を見送り続けているのか。


「47回目ね」


先ほどのノラ・パーカーの言葉が、脳裏で毒のようにじわりと広がった。

マーカスはリストバンドを乱暴に制服の袖で隠し、処理室の照明を落とした。


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——では、あなたが読んでいるこれは、何回目だ? そして、あなたは気づいているか。 あなたが読み始めた時、 施設全体が「一度、呼吸」したことに。
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