第12話:鎮圧作戦、あるいは絶対的監視の証明
——では、あなたが読んでいるこれは、何回目だ?
「俺たちと一緒に来い! このドアをぶち破るんだ!」
『447』ことジェームス・コーンの叫び声が、第三作業室に響き渡っていた。
立ち上がった数十人の宿泊客たち。オレンジ色の制服の波が、一つの明確な「反逆の意思」としてうねりを上げようとしている。終わらない白昼と無意味な労働の中で、彼らは確かに人間としての希望を取り戻しかけていた。
監視台に立つマーカス・グレイは、スタンバトンを握ったまま硬直していた。
鎮圧しなければならない。マニュアルはそう命じている。だが、蘇った記憶と感情がマーカスの身体を縛り付けていた。彼もまた、かつてはあの中にいたのだ。自分は彼らを罰する「支配者」などではない。
マーカスが迷いに引き裂かれていた、まさにその一瞬だった。
『――不規則なノイズを検知。該当区画の隔離を実行します』
スピーカーから、あの不気味な多重和音が降り注いだ。ディレクター・ハミルトンの声だ。
一切の感情を持たないその宣告が響いた直後、マーカスが動くよりも、ジェームスが一歩を踏み出すよりも早く、施設そのものが「反応」した。
ガコンッ、という重い金属音が鳴る。
ジェームスが立っていた場所の床面が、正確な円形を描いて瞬時に陥没した。それと同時に、床下から分厚い透明な強化シリンダーが猛スピードでせり上がり、ジェームス一人の身体を完全に包み込んだ。
「なっ……! 開けろ! 出し――」
シリンダーが密閉された瞬間、ジェームスの声は完全に遮断された。
彼は円筒の中でガラスを叩き、何かを叫び続けていたが、外には微かな振動すら漏れてこない。
その間、わずか2秒。
暴動の熱狂は、文字通り一瞬にして凍りついた。
『対象の処理シーケンスに移行』
ハミルトンの声が再び響くと、シリンダーはジェームスを閉じ込めたまま、エレベーターのように床下の暗闇へと急速に沈み込んでいった。
ガシャン、と床のタイルが元通りに塞がり、後には一切の痕跡も残されていない。ジェームス・コーンという人間は、数十人の目の前で、音もなく完全に「消失」した。
熱狂から、絶対零度の絶望への相転移。
希望を抱いて立ち上がっていた宿泊客たちの目から、光が急速に失われていく。彼らは誰からともなく膝を折り、再び自分のデスクへと這い戻った。そして、震える手でペンを握り、何事もなかったかのように意味のない数字を書き写し始めた。
圧倒的なまでの監視体制と、人間をチリのように扱う処理速度。彼らは理解したのだ。自分たちの一挙手一投足はすべてシステムに掌握されており、抗うことなど初めから不可能であったという事実を。
マーカスは監視台の上で、呆然とスタンバトンを取り落とした。
床に転がる乾いた音が、静寂の戻った作業室に虚しく響く。
(俺は、何もしていない……)
マーカスは震える両手で監視台の手すりを握りしめた。
ジェームスを鎮圧したのは自分ではない。施設だ。この巨大なシステムは、マーカスというインテイク・オフィサーの判断など最初から必要としていなかった。
自分は生殺与奪の権を握る「支配者」だと思い込まされていただけで、実際には、ただ監視台の上に立たされているだけの見栄えのいい案山子に過ぎなかったのだ。
もしあの時、自分がジェームスに同調して一歩でも動いていたら?
間違いなく、自分もあのシリンダーに閉じ込められ、床下の底なしの暗闇へと消去されていただろう。
恐怖と、何もできなかった自分への激しい嫌悪感が、マーカスの中でどろどろと渦を巻く。蘇った感情がもたらす人間らしい苦悩が、彼の精神を鋭く苛んでいた。彼もまた、システムに組み込まれた哀れな「被害者」でしかなかった。
ふと視線を上げると、『047』——ノラ・パーカーが、ペンの動きを止めることなく、監視台でうなだれるマーカスを静かに見つめていた。
彼女の目は、絶望していなかった。むしろ、マーカスのその「人間らしい苦悩」を、興味深そうに観察しているように見えた。
壁の奥で、システムが満足げに低い呼吸音を漏らした。




