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第1話:「黄色い線の内側に立て」

——あなたが読んでいるこれは、何回目だ

深い緑に覆われた丘の上。鉄格子の向こうにそびえる灰色のコンクリートの塊を、地元の人々たちは皮肉を込めて「グリーン・ルーフ・イン」と呼んだ。正式名称はない。地図にも載っていない。あるのはただ、冷たい石の壁と、鉄の扉、そして「番号」だけだ。


インテイク・オフィサーのマーカス・グレイは、今日も窓のない受付室に座り、新しい「宿泊客」を迎え入れていた。



この部屋には時計がない。

彼の腕時計も、15年前に没収されている。

だから、彼は「時間」を知らない。


あるのは、ただ:

——来客の数

——番号の増加

——蛍光灯の消えない光


その反復。その反復。その反復。


彼の脳は、もはや「時間を数える」ことを放棄していた。


だから、15年が、1日のように感じられるし、

1日が、15年のように感じられることもある。




「前の線に爪先を合わせろ。そこから動くな」



感情の起伏を完全に削ぎ落とした声。それはマニュアルに記載された通りの、完璧なトーンだった。


金属製のトレイが押し出され、マーカスは淡々と作業を進める。名前を奪い、経歴を書類の束に閉じ込め、代わりにプラスチック製のリストバンドを手首に結びつける。今日から彼らは人間ではなく、ただの数字の羅列になる。


「次」


マーカスが呼ぶと、小柄な男が線の前に立った。怯える様子はない。男の視線はマーカスではなく、背後の壁や天井の接合部に向けられていた。

男の名前はアーロン・グリーン。外の世界では建築家だったらしい。

「所持品をすべてトレイに出せ」

アーロンはポケットからいくつかの硬貨と、丸められた古びた紙の束を取り出した。

マーカスが紙を広げると、それは精緻に描かれた図面だった。見たこともないはずの、この「グリーン・ルーフ・イン」の完璧な内部構造図。通気口の位置から、隠された配管のルートまでが克明に記されている。



「……美しい。だが、私が引いた線じゃない」アーロンは壁を撫でるように見つめながら呟いた。「この壁は、生きているのか?」


マーカスは何も答えず、マニュアル通りに図面を丸め直し、所持品保管箱の『0046』番に放り込んだ。狂人の戯言は聞き流す。それが15年間、彼が一日も欠かさず続けてきた生存術だった。


「次」


次の宿泊客が線の前に立った。

ノラ・パーカー。32歳。心理学者。

マーカスの前に立った彼女の目には、ここへ来る者が必ず見せる絶望も、怒りも、怯えもなかった。ただ、古くからの知人を観察するような、奇妙に穏やかな光が宿っていた。


マーカスは手元の問診票にペンを走らせる。彼女に割り当てられた本日の受付番号は『0047』。

バインダーのクリップが弾ける乾いた音が室内に響いた瞬間、ノラは小さく笑った。


「47回目ね」

マーカスの手が、ほんの一瞬だけ止まった。


ノラは、マーカスのリストバンドを見つめていた。

そのリストバンドにも、数字が刻まれていた。『0001』。


「あなたは、最初の宿泊客だ」ノラは静かに言った。




「最初の『被験者』。



最初の『失敗』。



そして、最初の『成功』」


「……」マーカスは、自分の手首を見つめた。


彼が自分のリストバンドに『0001』が刻まれていることを、


今、初めて「意識」したのだ。



「……所持品をすべてトレイに出せ。装飾品もだ」


マーカスは彼女の言葉を完全に無視した。マニュアルにない対話はノイズでしかない。彼女が何を数えているのか、何を意味しているのか、考える必要はない。


「あなたはいつもそうね、マーカス」ノラはゆっくりと腕時計を外しながら言った。「15年間、一日も休まず。ご苦労なことだわ」


なぜ、自分の名前を知っているのか。なぜ、勤続年数を知っているのか。


マーカスの脳裏に微かなさざ波が立ったが、訓練された「自動操縦」の機能がすぐにそれを打ち消した。

「私語は慎め。ここにお前の名前はない。今日からお前は47番だ」

「ええ、知っているわ。この壁の呼吸の仕方も、あなたが夜に見る夢のことも」


ノラが連行されていき、冷たい静寂が受付室に戻った。


マーカスは引き出しを閉め、本日の業務日誌にサインをした。


今日は何月何日だったのか、彼は一瞬、思い出そうとした。


だが、その思考は、訓練された脳によってすぐに遮断された。

日付は重要ではない。重要なのは、番号だけだ。


昨日の来館者数は『24名』。

今日の来館者数は『3名』。

その前の日は『47名』だったはずだが……本当だったのか?


ペンの先端が紙に触れた時、微かな違和感が走った。


自分の筆跡が、日を追うごとに『変わっていない』ことに、ふと気づいたのだ。


15年間、同じ角度で、同じ圧力で、同じ形で、字を書き続けている。


それは、人間の手ではなく、機械の一部になることではないか。

この施設が稼働してから、彼が対応した「初日」は、今日で本当に何日目だったのか? 15年? 彼は本当に、15年前の記憶を持っているのか?


壁の奥から、低く鈍い振動音が響いた。まるで巨大な肺が息を吸い込むような音。


マーカスは小さく首を振り、ペンを置いた。すべてはマニュアル通りだ。異常はない。



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——では、あなたが読んでいるこれは、何回目だ? そして、あなたは気づいているか。 あなたが読み始めた時、 施設全体が「一度、呼吸」したことに。
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