第四夜
「今日もいた。」
「いたら悪いか。」
前夜とは逆のパターンで、彼女はくすくすと笑う。
白い体が、ひどく頼りない。
「で、今日は何をする気だ。」
「一つ訊いていい?」
唐突だったが、僕は頷くことで先を促した。
「私と一緒にいて、楽しかった?」
「それなりに。」
彼女はきょとんとした。
しばらく考えていたが、どうやら結論はでなかったらしい。
「じゃあ、私と一緒にいるの、嫌だった?」
「別に。」
僕の答えに、彼女は嬉しそうに顔を輝かせた。
「じゃあさ。私と一緒に来て欲しいところがあるの。
一人だとなかなか決心がつかなかったんだけど、二人なら大丈夫。
ねえ、一緒に行こう。」
「断る。」
一瞬の間。
彼女は激昂した。
「なんで、なんで!?一緒にいるの、嫌じゃないって言ったじゃない!」
「確かに一緒にいるのは、それほど嫌じゃない。だけど、それとおまえと一緒にいくことは別問題だ。」
「うそつきっ!」
彼女から言葉が放たれた瞬間、僕の体は縛られたように動かなくなった。
足の先から、腕の先から。
何かが順に巻き付けられ、絞め上げられていく。
彼女の声は泣き声に変わり、声が高まるたびに、その絞め付けは増していく。
それでも僕は、彼女に話し続けた。
「仮におまえといることがとても楽しかったとしてもだ。僕が一緒にいくことはできない。
一緒にいったとしても、僕ができることは何一つない。」
「黙れっ!」
ひゅっと僕の喉が音を漏らす。
それを合図に、僕への締め付けはいっそう厳しくなり呼吸すら難しくなる。
その時。
「ぎゃあああああああっ!」
突然彼女は身もだえし、その場にうずくまった。
同時に、僕を襲っていた締め付けも消え、僕は片膝をつきながらも大きく息を吸った。
傍に落ちていたのは、三角に折られた小さな折り紙。
僕はそれを拾い上げると、彼女の元まで歩み寄った。
「……一人は、嫌なの。」
くぐもった声が、彼女の両手から零れた。
「一人は、嫌。寂しいのは、嫌。」
「おまえは、一人じゃない。」
「どうしてそんなことが言えるの!」
「見てみろ。」
僕は手にしていた折り紙を、ツルの形に折った。
すると、折り紙は不思議な鳥の形となり、彼女の肩に止まった。
そっと、鳥はその頬に顔を寄せる。
「そいつが連れていってくれる。」
「どこに?」
「みんなのいるところ。」
彼女は鳥を撫でた。表情はわからないはずなのに、確かにその鳥は嬉しそうだった。
彼女はゆっくりと顔を上げた。
「私、もう。行かなきゃいけなかったんだね。」
「そう。」
彼女は深呼吸した。
「うん。じゃあ、行く。」
鳥が高らかに一声をあげる。
それと共に、彼女の姿も薄れはじめる。
「あのね。」
透き通っていく中、彼女が言った。
「私も、それなりに楽しかったよ。」
僕は少しばかり目を瞠って。
ついで、にやりと笑った。
「それはよかった。」
彼女は年相応な笑顔を残し、そして、消えていった。




