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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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良い贈り物

 

 珠子の誕生日は十二月十一日。クリスマスに近い。だから毎年、誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントは同じだった。


「ハッピーバースディー、珠子!」


 珠子の母と姉の声が響く。ケーキのろうそくをふき消すと、食卓に灯りが戻った。ケーキのろうそくは十本。そう、珠子の十歳の誕生日パーティー中だった。


 三つ姉の歩美は中学生。珠子と比べ、大人っぽく落ち着きがある。見るからに優等生だが、笑顔でバースデーソングを歌ってる。母も笑顔でチキンを切り分け、食卓は温かいムードだ。


「でも、パパがいないのは寂しいよ。どうして? 海外のお仕事ってそんなに大変なの?」


 こんな誕生日パーティーだったが、珠子は少し不満。やっぱり家族四人全員揃って欲しい。


「しょうがないでしょ。パパもお仕事で忙しいんだよ」


 姉の歩美は聞き分けがいいが、珠子は子供っぽく頬を膨らませていた。


「やっぱりパパ、クリスマスも帰って来れないの?」


 また文句が出た時だった。宅配便がきた。何かの荷物らしいが、珠子たちの父からだった。大きな箱の中にはクリスマスプレゼントも入っているみたい。


「わあ、すごい! 大きなクマのぬいぐるみ! あと、クッキー缶もある!」


 珠子あてのプレゼントは二つもある。去年までは誕生日とクリスマス、一つしかなかったのに、今年はちゃんと二つ!


 しかもこのクマのぬいるみは、元々欲しかったものだ。珠子はさっきまでの不満を忘れて、満面の笑み。


「あ、私のプレゼントはコスメボックス? えー、自分のメイクとかは興味ないんだけど」


 一方、姉の歩美のクリスマスプレゼントはコスメボックスだった。どこかのブランドもののようで、とても大人っぽい。中には絵の具みたいなアイシャドウや筆もあり、キラキラしている。


 珠子、急に笑顔が消えた。何か姉のプレゼントの方が豪華に見える。それに大人っぽい。珠子だって子供向けメイクに興味があるのに。お小遣いで百均のネイルシールを買うのが精一杯だった。


 その日、ずっとモヤモヤしている。誕生日パーティーは楽しかった。ケーキも最高だった。プレゼントのクマのぬいぐるみとクッキー缶だって良かったのに、なぜか姉のコスメボックスが綺麗に見えてしまう。


 ベッドに入ってもなかなか眠れない。


「お姉ちゃんのコスメボックス、なんかキラキラしてたな……」


 プレゼントのクマのぬいぐるみを抱きしめてみるが、何か納得いかないものが残る。


 次の日、学校の授業は早く終わり、家に帰ってきたが、誰もいない。母は仕事、姉も部活だったはず。


 要するに誰も見ていない。


「ちょ、ちょっとお姉ちゃんの……」


 魔がさしてしまった。姉の部屋へ行き、あのコスメボックスを見る。やっぱり綺麗。色んな色のアイシャドウが綺麗。姉は部活で演劇部にいた。確か主役の子にメイクやってあげるのが好きって言ってたが。


「いいなぁ……」


 大人っぽくて憧れる。


「クマのぬいぐるみより、こっちのが可愛いじゃん……」


 ちょうどその時、窓の外からカラスの鳴き声が響く。


「やば……」


 誰かに見られている気がして、急いで自分の部屋に戻ったが、心臓がバクバクいってる。いくらメイクボックスに憧れていたからって、勝手に見ているのは良くなかった。


 それに、ベッドの上にいるクマのぬいぐるみとも目が合い、気分は最悪。心なしかクマの目が寂しそうに見える。冷や汗が出てきた。何かわからないが、とても悪いことをしてしまった気分。


「あれ?」


 ついベットから目を逸らした時、机の上に何かあるのに気づいた。


「何これ?」


 それはクリスマスカードだった。赤と緑の派手なカードだが見覚えがない。しかも変な言葉も書いてある。


 ヤコブの手紙1章17節より

 良い贈り物、完全な賜物はすべて、光の源である父から来るのです。


「は? 何? どういう意味?」


 難しい漢字もあって読めない。本棚から漢字辞典も引き抜き調べていたが、わからない。どういう意味だろう。


「まさか、これパパのこと言ってるの?」


 わからないが、そう気づいた時だった。急に意識が途切れ、夢の世界にいた。


 場所はどこかのおもちゃ屋だ。ぬいぐるみや人形だけでなく、ロボットやプラモデルがたくさん並んでる。思わず目移りしそうになったが、父がいた。


「え、パパ?」


 しかし父は珠子に気づかず、熱心に売り場を見ている。


「店員さん、十歳ぐらいの女の子が喜ぶおもちゃってなんですかね?」


 しかも店員にも質問し、何度も何度も売り場を行き来していた。


「やっぱり、このクマのぬいぐるみだよな。前に珠子、これが欲しいっていってたし。よし、クマのぬいぐるみにしよう。あと珠子が好きなクッキーも買うぞ。喜んでくれるといい」


 普段、無口であんまり笑わないくせに、この時だけは口元がほころんでいた。


「パパ……」


 その瞬間、目が覚めた。いつもの部屋にいた。夢だったらしいが、またクリスマスカードに目を向ける。


 このカードの意味、あんまりよくわからないけれど、父の心を見せてくれたのかも。そんな気がする。不思議なクリスマスカードだ。


「そっか……。私、やっぱり、クマのぬいぐるみが一番好きかも」


 もうプレゼントの内容は何でも良くなってしまった。父が一生懸命自分のために選んでくれたってだけでいい。それが何よりなんだ。姉のコスメボックスもどうでも良くなった。


 再び、クマのぬいぐるみを抱きしめると、心がぽかぽかと温かい。あのクリスマスカードの意味はよくわからないけれど、大切なものに気付けた。


 こうして数日がたち、クリスマスイブになった。残念ながら、父は仕事。また家族三人でクリスマスパーティーを祝った。姉にはメイクもやって貰う。あのコスメボックス、姉は自分自身の顔にメイクするのは、あんまり興味がなかったらしい。


 鏡の中の珠子、いつもより少し大人っぽい。確かにもう、姉のプレゼントに嫉妬する必要もなく、クリスマスパーティーも心から楽しめた。中身も少し大人っぽくなれたかもしれない。


 その夜、クマのぬいぐるみを抱きしめて眠った。とても幸せな気分だった。

 

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