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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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善をもって悪に勝て

 

 もう年末だ。クリスマスまであと数日。街はクリスマスムード一色になり、華やかな空気だ。


「はぁ……」


 一方、田中玲香の顔は冴えない。今日も自宅のソファに座り、ため息が出ていた。玲香はアラサーの専業主婦。子供はいない。夫の修一は大企業の管理職だ。バリバリと出世し、世間と比較したら裕福な部類にいたが、凛子の顔は暗い。


 手にしているスマホではSNSを見ていた。しかも修一の愛人のアカウントだった。ちょうど去年の今頃、探偵を使い、愛人の存在が発覚。


 結局、修一がやり直しを希望し、愛人と別れ、夫婦関係を修復しようと試みたが、うまくいかない。玲香は猜疑心から修一を責めてしまったし、修一も毎日ウンザリとしていた。子供ができればとも考えたが、コウノトリは残酷だった。妊活も上手くいかず、結局、修一は新しい愛人を作り、今に至る。


 新しい愛人も探偵を使って把握したが、SNSを見る限り、若く、仕事もできる女らしい。元モデルの女で、アパレルブランドも立ち上げ、インフルエンサーみたいな仕事もしていた。


 いっそ暴露してやりたい。不倫していると世間に公表されたら、愛人の仕事もなくなるかもしれない。


 そう、仕返しだ。復讐ともいう。凛子はスマホを握りしめながら、SNSで暴露したくてたまらない。探偵からもらった写真や動画をネット上にあげれば簡単に済む復讐だ。


「私は悪くない。悪いのは愛人の方じゃん。修一も全部悪い」


 つい指を動かそうとしたが、どうにも踏ん切りがつかない。玲香は咳払いし、一旦、スマホを見るのをやめた。どうかしていたのかも。愛人や修一のことを考えすぎて、頭に血が昇っていたのかもしれない。少し散歩でもして頭を冷やそう。


 実際、外は冬の冷たさが身に染みてきた。華やかなイルミネーションやツリーの飾りを見ても、何も感じない。頭は冷えるが、帰ってきた頃にはさらに虚無になっていた。


 郵便受けにはエステやジムのチラシもいっぱい。片付けるのにもため息が出そう。


 そんな気分で自宅に帰ると、チラシの中に妙なカードが挟まっているのに気づく。クリスマスカードだ。二つ折りでチラシより小さい。うっかり見落としそうだが。


「何これ?」


 ツリーの絵がついてる。派手なクリスマスカードだったが、送り主は書いていない。


「三毛猫文具店?」


 そんな名前は書いてあった。猫のスタンプも押してある。猫にはなぜか白い羽がついていた。天使みたいだが、奇妙なのはそれだけじゃない。


 メッセージも書いてある。「悪に負けることなく、善をもって悪に勝ちなさい。ローマ人への手紙12章21節より」とあったが、意味がわからない。


 イタズラだろうか。その割には丁寧な文字だった。カードのデザインも華やかだ。とてもイタズラに使うものじゃない。それに、このメッセージが目から離せない。


「どういう意味?」


 ネットで検索すると、聖書の言葉だと知った。牧師のブログが出てきた。悪に悪で仕返しするのではなく、善意や愛、良いものを相手に返そうとあった。なんだ宗教か。押し付けがましいというか、説教くさいというか、いい子ちゃんすぎる感じが、ちょっと鼻につく。


 このカードも宗教関連のものかもしれない。布教目的に配ってると思うとゲンナリとしてきたが、なぜかこの言葉から目が離せない。善をもって悪に勝て。どういう事か。まるで、愛人に仕返ししようとしていたのを見られているような。


 思わず、自宅の天井や壁を見つめる。誰もいない。誰も見ていないはずだが、もし、誰かに心を見られていたら?


 今の心は決して綺麗じゃない。正しさを盾に愛人や修一に復讐しようとしていた。それは戦争やカルトを作り出す宗教とどこが違うか。


「あぁ……」


 もし愛人に復讐したとしても、きっと何も変わらない。余計に修一は離れて行くかもしれない。


 今、わかってしまう。修一が別の女に走った理由を。相手のこと、全然考えていなかったから……。


「そっか、そうだった……」


 このクリスマスカードは誰が送ってきたかわかからない。でも、この言葉を見てたら気づいてしまった。


「修一に謝りたい……」


 今はそんな気にしかなれなかった。


 そしてクリスマスイブ当日。玲香はテーブルいっぱいにご馳走を用意した。ケーキはもちろん、チキンやフレンチフライ、サラダも。お酒が苦手な修一のためにノンアルコールのシャンパンやジュースも用意した。本当は笑顔なんて作りたくないが、一生懸命笑い、クリスマスパーティーを盛り上げた。


「ごめん……」


 なぜか修一の方から謝ってきた。その顔は何とも言えない。泣きそう、笑いそう、怒ってしまいそうな複雑な色合いだった。


 玲香も何も言えない。もう愛人や修一に復讐する気分じゃない。無理矢理でも笑顔を作っていたら、すっかり悪い気分は消えてしまったから。


「私こそいつも責めちゃってごめん……」


 ただ、そう言うのが精一杯だった。

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