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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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キリストは昨日も今日も、また永遠に変わらない

 推しがいれば幸せ。


 山尾葉月はそう思っていた。推しのコンサートや動画、ブログ、雑誌記事、ラジオ、ファンクラブ会報などあれば、良い。実際、葉月は中学生のときにいじめられ不登校になっていたが、推しがきっかけで学校に戻り、高校受験も乗り越えた。今では佐々木水乃といい友達だってできた。それなのに。


 夜、学校から帰り、宿題をやっている時だった。推しのせいでバカになったと言われたくないし、勉強も頑張っていた。友達の水乃も成績優秀だし、負けられない。


 勉強にも熱が入り、携帯に通知が来ていたことすっかり忘れたが、ふと、トイレにたった時、チェックした。なぜか水乃からたくさん連絡が来てた。SNSにも「葉月大丈夫?」と推し活仲間からのメッセージが溜まってた。


「え、なんかあったの?」


 急いでSNSのタイムラインをチェックしたら、声を失った。


「嘘……」


 推しの結婚報道が流れていた。しかも相手はB級アイドル。あまり評判が良くない子。その上、妊娠三ヶ月。ご丁寧に直筆のメッセージも配信されていた。


「え、どういう事?」


 頭は真っ白。フリーズ。勉強が手につかなくなったことは言うまでもない。学校でも水乃に慰められたが、頭が痛い。お腹も痛い。なぜか脚も痛い。それ以上に心も痛い。


 早退した。親は「推しの結婚報道で早退? バカじゃないの」と呆れていたが、体調が悪い時は悪い。家に帰ると、すぐに自室に引き篭もる。


 推しのポスターも壁に飾ってある。うちわもそう。アクリルスタンドもある。ファンクラブの会報や雑誌も綺麗にファイリングされていたが、余計にしんどい。確か会報や雑誌のインタビューでは、女性に興味はなく、仕事一筋だと言っていたじゃないか。


「わぁん、ショック。裏切られた……」


 もう推し活辞めたい。疲れた。コツコツと集めたグッズや雑誌記事も全部フリマアプリに出した。葉月と似たようなことを考えていた人も多いらしい。フリマアプリには元・推しのグッズが大量に出品され、売れ残ってる。


 こんな様子を見ていたら、元・推しの人気は落ちるだろうと予想したが、葉月の思い通りにはならなかった。元・推しは結婚後、家庭的なパパキャラにチェンジし、主婦や高齢者に人気が上がっている。


 しかし、その頃には葉月も大学生になり別のアイドルや声優を推し、彼のことはすっかり忘れた。


「あぁ、こっちの声優のヒロくんもかっこいいな。推し変えようかな?」


 大学生になり一人暮らしをはじめ、時間も金銭的にも余裕が出てきたというのもある。ますます推し活にのめり込む。連日コンサートへ行き、グッズを買い漁り、時には布教活動もしていたが、どうもおかしい。


 一人、部屋にいると、なぜか満たされない感覚がする。今だって推しがいれば幸せなのに、完全に満たされている感覚がしない。むしろ、推しが病気になったり、怪我をしたり、死んだ時のことまで想像し、今から既にロス。


 その上、ファン同士のマウント合戦やチケット争奪戦も疲れる。運営の不手際にも、些細なケースに関わらずイライラしたりもする。


「うん? 推し活、思ってたり幸せじゃない?」


 今はどんな素敵なアイドルや声優を見ても、何か疲れてきた時だった。バイトの帰り、自宅の郵便受けを見たら、クリスマスカードが入っていることに気づいた。


「何これ?」


 シンプルなカードだ。赤と緑のチェック柄が可愛いが、変なメッセージがついてた。


 イエス・キリストは昨日も今日も、また永遠に変わらない。ヘブライ人への手紙 13章8節 より。


「は? イエスってキリスト教の神だっけ?」


 葉月は腐っても大学生だ。宗教の授業も一般教養としてとっていた。クリスマスがキリストの誕生日とも知っている。戦争や侵略、強引な布教の酷い歴史を知り、キリスト教にいいイメージはない。確かにキリスト教式の結婚式は女子として憧れるが、クリスマスも形骸化したお祭りだと習ったが、何、このカード?


「イタズラ?」


 とはいえ、悪意があるようにも見えない。字は丁寧だ。それに布教というのにも控えめすぎる気がする。宗教学の授業ではかなり強引に布教していた記憶。


 丸めて捨てる気分になれず、部屋まで持ってきてしまった。暖房をつけ、コーヒーを淹れると、ゆっくりとカードを見つめた。何かタネや仕掛けはなさそう。二つ折りで紙製。そこはなんの変哲もないのに、この言葉を見つめてしまう。


「永遠か……」


 そのカード、妙に引っかかるのは「永遠」があったからかもしれない。それは今の葉月にとって縁が薄いものだ。


 確かに元・推しは結婚し、キャラも変えていたが、推しをコロコロ変え、自分が好きなようにしていた。まるで消費活動だ。心から応援していたわけじゃなかった気がする。その癖、推しの死なども想像し、勝手に不安になったりもした。推しがくれる幸せは永遠じゃないってこと。どこかで気づいていたのかも?


「はは、宗教は嫌いだけどさー、死なない神様推せるっていうのだけはいいかもねー」


 独り言は虚しく響くが、葉月も「永遠」みたいなものを探したくなってきた。ずっと変わらない普遍的な「何か」を見つけてみたい。


「とりあえず、推しをコロコロ変えるのやめよっかな。なんか不満があっても運営に文句言うの辞めるかー」


 今のところ、一生何かを推す覚悟は持てないが、もうすぐクリスマスが近い。今年は「永遠」のことでも考え、静かにクリスマスを過ごしてもいいかもしれない。

 

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