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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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強くあれ、雄々しくあれ

 

 どんなに息苦しくてもマスクは手放せない。


「水乃、マスク面倒じゃないの? もう強制じゃないし、外してもいいんでは?」


 友達の山尾葉月がいう。放課後の下駄箱の前にいる。明日は土曜日で休みだ。なんとなくゆるい雰囲気が漂っている。葉月もつい普段思っていることを口にしてしまったらしい。


「いや、もう逆に面倒で」


 そう語る佐々木水乃。きっちりとマスクをし、顔半分が見えない。制服もどこかキッチリと着こなし、マスク姿と相まって隙が見えない。実際、水乃は優等生だった。成績もいい。教師や親からは「いい子」だとよく言われる。


「そっか。まあ、マスクつけるのもつけないのも自由だしね。あ、もうバイトの時間。クリスマスは推しのライブいくから! じゃあね!」


 葉月はそう言い、手を振って帰っていく。残された水乃も、下駄箱から校門へ向かい、下校する。


 そうだ。もうクリスマスが近い。風が冷たい。マスク越しにも冷たい風を実感し、あわてて鞄からカイロを取り出す。


「ああ、寒い」


 カイロは温かくなってきたが、水乃の心は寒い。葉月にマスクの件を指摘され、目が曇っていく。嫌なことを思い出す。


 数年前の疫病騒動時、風邪を引いた。検査の結果、ただの風邪だったが、クラスメイトの視線が痛かった。「来るなよ、バイキン!」とも笑われた。以来、マスクが手放せない。周りが気になる。人の評価が気になってしまう。葉月からもマスクの件を指摘された。友達にさえ、どう思われているのか。ずっと気になってしまう。頭はぐるぐると同じことばかり考える。息苦しい。本音ではマスクなど外してしまいたい。


「あれ? こんな文房具屋あった?」


 その時だった。ふと顔を上げると文房具屋があった。確か学校の近くに文房具屋があったと先生が話していたが、経営不振で潰れたと聞いていた。


 学校の近くの住宅街の中、昭和レトロ風な店構えが浮いている。店頭には平成文化風のシール、手帳、ボールペンなどが並んでる。スマホ関連のモバオクバッテリーやケースもある。時代はごちゃ混ぜ感。


 それでもなんとなく気になり、店に入る。


「ミャー!」


 驚いた。店に入ると、三毛猫に出迎えられた。水乃の足元に擦り寄ってきた。どうやらこの店の看板猫らしい。店名も三毛猫文具店だ。なるほど、そういうことか。


 それに色とりどりのボールペン、シール、スタンプを見ているだけで楽しい。レターセットやノートなどの紙類も充実している。狭い店内だったが、女子高生の水乃が「可愛い」と思うものが全部揃ってた。


 思わず店内を見て回る。他に客はいないみたい。店員も大学生ぐらいの男の人が一人。おそらくバイトだろう。あくびをしながら、商品整理をしていた。


 こんな可愛い店があるとは知らなかった。ついノートや鉛筆などを選んでしまう。


「これなんだろ?」


 しかし、こんな可愛い店の中でも妙なものがあった。クリスマスカードだった。デザインは派手だ。赤と緑でチカチカする。確かに今の季節にはぴったりなものだった。デザイン自体は目を引く。可愛いのに、妙な言葉が印刷されていた。それは可愛さとは正反対の言葉。この店で一番浮いてる。目が離せない。釘付けになってしまいそう。


「強くあれ、雄々しくあれ。ヨシュア記1章9節って何?」


 いつに間にか足元にいる三毛猫に聞くが、当然返事はない。毛をふわっとさせ、ミャーミャー鳴いているだけだった。


 とはいえ、このクリスマスカード、一枚百円だった。お財布に優しい。なんとなく買ってしまった。衝動買いってやつだ。


「ありがとうございます!」


 やる気がなさそうな店員だったが、挨拶だけは元気だった。


 そして外に出た。寒い。冷たい風が指先まで伝わる。この時初めてあの文房具店、暖かかったと気づく。


 鞄からカイロを出しつつ、さっき買ったものも気になる。パンダやリスの絵がついたノート。お花柄の鉛筆など、我ながら無駄遣いしてしまった。改めて見ると、全く実用的ではないが、あのクリスマスカードが目につく。


 道の端に立ち止まり、改めてクリスマスカードを眺めてみた。デザイン自体は普通だ。もしかしたら百均にあるクリスマスカードの方がハイセンスかもしれない。それなのに、「強くあれ、雄々しくあれ」。やっぱり、この言葉から目が離せない。


 まるで「誰か」が励ましているみたいだ。その「誰か」は不明だったが、人の目が気になり、マスクも手放せない水乃の心を全部知っているかのようだ。


「どういう意味なんだろう? もしかして、私って思ったより弱くないのかな?」


 あの店員に聞いたらわかる。踵を返し、あの文具店に戻ろうとしたが、変な声が出た。


「へぇ?」


 店が丸ごと消えていたから。空き地になっているではないか。


「嘘、どういうこと?」


 夢でも見ていたのだろうか。でも、手の中にはあのクリスマスカード。幻ではない。


 わからない。このクリスマスカードはなんだろう。


 家まで走って帰り、三毛猫文具店のことを検索してみた。


 店のホームページがない。地図にも載っていなかった。それどころか都市伝説系サイトに情報があるだけだった。三毛猫文具店という謎の文具店からクリスマスカードが届くという噂が書き込みされてる。クリスマスカードには聖書の言葉が刻まれ、神様や天使が送ってくるという噂もあるらしかった。


「いや、まさかそんなことある?」


 あり得ない。信じられないが、家でもマスクをつけぱなしにしていた。今思うと、こんなマスク、どうでもよくなってきた。


 もう一度あのクリスマスカードを見つめた。


「強くあれか……」


 マスクをとってみた。やっぱり息がしやすい。本当に強くなれたら、もうマスクは必要ない気がする。

 

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