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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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24/40

喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣きなさい

 暇な時間はSNSを見てしまう。楽しい。あぁ、楽しい。


「マジ!? あの清純派女優が二股不倫疑惑!?」


 SNSのタイムラインには芸能人の不倫ネタが燃えていた。スマホを持つ手、汗でじっとりしてきた。ワクワクしちゃう。楽しい。


 そんな川野部楓は専業主婦だった。大学を出てからずっと専業主婦。といっても夫は薄給、息子の教育費はかかる。親の介護も現実的な問題になってきたし、物価高も頭を悩ませる。ネットでは専業主婦はバカにされていたし、こうして家事の合間にSNSを見るのが楽しみだった。


「このスカッと系の動画面白い! ただの主婦がコーヒー豆の知識があって、ぼったくりカフェを論破!? やだ、面白い」


 思わず声に出してしまったが、平日の昼下がりのリビングはがらんとしている。最近、夫が老後を見据えて断捨離もしたせいか、余計に空白が目立つ。


 窓の外からはカラスの鳴き声も響いていた。もうすぐクリスマスが近い。風も冷たくなってきた。床も底冷えしている。


 さっきまではSNSを楽しんでいたのに、急に虚しくなってきた。楽しいのに、なぜか面白いとは思えない。満たされない何かがある。


「なんだろう、この感覚……」


 よくわからないが、年末年始の準備の買い物もしなきゃ。楓は付箋に買い物リストを書き、近所のスーパーへ。


 家の周辺は比較的田舎だったが、駅前の方まで来ると、コンビニ、整体、クリニック、スーパーと栄えてる。バス停もある。ロータリーはバスやタクシーが連なり、比較的賑やか。それに今日はチラシを配っている人もいた。何かのキャンペーンだろうか。


「こんにちは!」


 このロータリー周辺を歩いていると、地味な雰囲気の大学生からティッシュを渡された。大学生の足元には三毛猫がいた。可愛い猫だったが、妙に大人しく、全く泣いていない。


「あ、ありがとう。あれ、このティッシュ、カードが付いてるわね。何これ?」


 ティッシュを見ると、二つ折りのクリスカードがついていた。赤と緑の派手なカードだったが、何これ? 


 変なメッセージもついてる。


 喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣きなさい。ローマ12:15より。


「ミャー!」


 首を傾げた瞬間、猫が鳴いた。


「え?」


 その鳴き声合図だったかのように、大学生も猫も消えていた。まるでお化け?


「な、何これ?」


 手にはティッシュとクリスマスカードだけある。


 一応、駅員やロータリーのタクシー運転手にこの辺りでティッシュ配りしている人はいなかったかと聞いたが、心当たりが無いという。ティッシュやチラシ配りも許可が必要らしいが、そういった連絡もなかった。


「な、何?」


 思わず首を傾げるが、とりあえずスーパーで買い物は終え、家に帰ってきた。


 あの妙なクリスマスカードはちゃんとある。ティッシュもある。どちらも何の変哲もない。タネも仕掛けもなさそうだ。


 リビングのソファに座り、あらためてクリスマスカードを見つめた。


 喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣きなさい。ローマ12:15より。


「どういう事? まさかSNSで芸能人とかの不幸をよって喜んでいるの、誰かにバレてる?」


 天井や壁を見回すが、特に何も変化はない。いつも通りの我が家のリビングだったが。


 相変わらずリビングはがらんとしている。虚しい。やはり、いくら人の不幸を喜んでも満たされないらしい。


 泣きたくなってきた。あまりにも虚しくて。楓は自分の人生を振り返ると、決して表舞台に立てなかったことにも気づき、ますます虚しい。


 かといって夫や息子は専業主婦の虚無感など共感してくれないだろう。ネットを見ても専業主婦叩きはとても多い。友達も二馬力でバリバリ働いている人が多く、なんとなく引け目がある。いくら家事や育児を頑張っても、夫や息子から「ありがとう」と言われた経験もない。それどころか料理の味付けが悪いとか文句ばっかり言われる。


 この言葉のように一緒に泣いてくれる人がいたら、まだマシだ。それでも、楓にはそんな存在はいない。


 奥歯を噛み締め、どうにか泣くのを堪える。この虚しさは人の不幸を喜んでいた報い。そんな気がしてきて。


 再びSNSを見た。どうせ余計に虚しくなる気がしたが、とあるママタレが妊娠したという。長年の不妊治療のすえ、ようやく身籠ったという。


 SNSのタイムライン、なぜかママタレの妊娠が叩かれて炎上していた。同じく不妊治療中の女性や独身女性に配慮がないという。


 確かにそうかも。実際、楓もこのニュースを見てモヤっとした。簡単に他人の幸福など喜べない。


 でも……。再びあのクリスマスカードが目に留まる。


「喜ぶ者と共に喜ぶか……」


 一緒に泣いてくれる人は見当たらないが、一緒に喜ぶことはできるかも。


 SNSにママタレの妊娠を祝う言葉を投稿してみた。「おめでとう」とたった一言だけだった。何の反応もない。フォロワーもポジティブな話題に興味がないらしい。


 それでも、ほんの少しだけ、楓も嬉しくなってきた。虚しさは相変わらず取れないが、誹謗中傷で埋め尽くされたSNSよりは良いはず。

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