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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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心配するな

「チョコレート、こんな値段なの……」


 スーパーに行くとため息しか出ない。生田瑠衣子、二十五歳。手取り十六万の事務職。チョコレートの値段も気になって仕方ない。


 こんな瑠衣子も大学はそこそこいいところにいったが、文系女子などいくら高学歴でも人余り。かといってやりたいこともなく、ぼーっとしていたら、苛烈な椅子取りゲームは終わってた。人手不足も売り手市場も、本人にやる気がない限り、どうしようもない。何社も受け、地方の家族経営の職場にいたわけだが、その目は虚無。


 最近の物価高に頭を悩ませる。いっそ退職し、自分の人生を見つめ直す時間を作った方がいい気もするが、ブランクを作るのもリスキー。


 クリスマスも近いが、ずっと生活費や貯金額が気になり、何も楽しくない。


 スーパーから家に帰ってきて、ケーキや唐揚げのチラシが郵便受けに溜まっていると憂鬱。家賃もそこまで安くないし、またお金のことを考えてしまう。


「あれ? これ何?」


 チラシをまとめてマンション共用部のゴミ箱に入れようと思ったが、一つだけ妙なものが混ざっていた。クリスマスカードだった。派手な色合い。ゴールドとピンク色で、手のひらサイズの二つ折り。


 このデザインのクオリティ、たぶん百均では無さそう。紙質も印刷も百均レベルではなさそうだが、送り主の名前がない。可愛い猫のスタンプは押してあったが、妙な言葉も書いてある。


 マタイ6:25より

 何を食べよう、何を着ようと心配するな。天にある父があなたを養ってくださる。


「なんかの格言? 知らんし〜」


 それより今は物価高。お金や節約について考えないと。一応部屋には持ち込んだが、適当にテーブルの上に置く。


 着替え、手を洗ってメイクを落とすと、スマホと睨めっこ。割のいい副業やスキマバイトでも見つけないと。とにかくお金が大事だ。この物価高で生きていけるかわからない。就活を頑張らなかった自業自得なわけだが、頑張ってお金、稼がないと。


 とはいえ、副業サイトがおすすめしているポイントサイトはスズメの涙ほどしか稼げない。スキマバイトも本業がない日に入れると、激戦の椅子とりゲーム。かといって転職する勇気も自分を見つめるための退職する勇気もない。


「あぁ……」


 狙ってたスキマバイトの求人が埋まり、頭を抱える。この椅子取りゲーム、一体いつまで続くのだろう。たぶん、恋活や婚活でも似たような椅子取りゲームがあると思うと、余計に気が滅入る。


「でも、お金、稼がないと……」


 そんな時、SNSで簡単に月三十万稼げるという広告が流れてきた。ちょっと雰囲気はあやしかったが、椅子取りゲームにあぶれた今、選択肢はない気がする。申し込もう。やっぱりお金は大事だから。


 その時だった。ふと、テーブルの上に置いたクリスマスカードと目があった。適当に置いたものだった。誰が送ってきたかも不明なクリスマスカードだったが、目が離せない。


 マタイ6:25より

 何を食べよう、何を着ようと心配するな。天にある父があなたを養ってくださる。


「天にある父って誰……? っていうか、この言葉なんなの?」


 もしかして「誰か」が励ましてくれているのだろうか。今の焦った気持ち、「誰か」はよく理解してくれているのだろうか?


 わからないが、クリスマスカードをじっと見つめていたら、落ち着いてきた。深呼吸もし、肩をさする。どうも焦り過ぎていたらしい。こうして休んでいると、冷静さが戻ってきた。


 お湯をわかし、カモミールティーもゆっくり飲むと、さらに焦りが抜けてきた。


 カモミールティーのさわやかな香りを吸い込むと、憑き物が取れたような感覚がする。そうだ、焦り過ぎていたみたい。一呼吸おき、例の副業の情報を調べていたら、動画サイトで詐欺だと警告が出ているのに気づく。


「昨今では社会的に弱った人がより騙されやすい投資や副業詐欺が多いです。気をつけましょう」


 そんな動画主の声を聞きながら、その通りだと思う。騙されるところだった……。


 さらに動画サイトを見ると、就活や転職に失敗した人、特に珍しくないらしい。低い手取りの独身女性、別段珍しくもなく、今の時代では普通だったと気づく。


「やっぱり焦りすぎるの、よくなかったな……」


 もう一度深呼吸し、クリスマスカードを眺める。誰が送ってきたかは不明。言葉の意味もよくわからないが、とりあえず、心配するのは辞めてみるか。いくら焦っても騙されたら元も子もないし。

 

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