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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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20/40

ぶどう園のたとえ話

 

 毎日が八月三十一日の気分だ。宿題は溜まっているはずなのに、明日も明後日も夏休み。


 御堂太郎はため息をつく。今日もそんな気分。一応求人情報誌や転職サイトには見る。未経験、年齢不問、ブランクOKの言葉に惹かれるが、アットホームな職場という言葉に動けなくなる。


 フラッシュバックする。かつて働いていた職場もアットホームだと言っていたがブラックだった。休日もない。帰ってくるのは深夜。上司からのパワハラもあったが、氷河期世代で何十社も受けてようやく内定がでたところだ。歯を食いしばりなんとか我慢していたが、五年前、急に朝起きられなくなり、鬱病と診断された。今は仕事にも行けず、病気もちの引きもり。


 実家では両親は優しい。生活費もくれる。何も言わない。それだけに、余計に終わらない夏休みにいる気分。焦燥感だけ募る。鏡をみたら、中年男の顔がいるが、中身はまだ高校生な気がして、何もできない。


「太郎、なんかあんた宛に手紙が届いてた」


 そんな思考に飲まれそうになった時、母が何か持ってきてくれた。


「な、何?」


 それはクリスマスカード。赤と緑の色合いが派手だ。


「さあ。誰か友達か?」


 母親はそう言って子供部屋から去っていくが、本当に心当たりがない。友達や恋人などゼロだ。SNSだって気が滅入るからやっていない。


 カードをよく見ても送り主は不明。猫のスタンプは押してあったが、よくわからない。もっとわからないのが、変なメッセージつきだったこと。


 マタイ20:16より

 このように、後の者が先になり、先の者が後になるであろう。


 何度読んでもわからない。何かの呪文みたいだと思ったが、ふと、窓の外をみる。庭の柿の木は、もう葉も実も落ちてる。もう冬だ。そうだ、時は流れてる。夏休みじゃない。


「あ、わかった。これ、聖書だ」


 窓の外を見ていたら、なぜか思い出した。太郎はクリスチャンではないが、高校はキリスト教系。聖書の授業もあった。


 確かこの聖書、ぶどう園の例え話という箇所にあった気がする。気になる。どうせ暇だし、ちょっと調べてみるか。


 子供部屋の押し入れを漁ると、高校時代のアルバムも出てきた。当時の聖書の授業のノートや聖書も出てきた。


「こんなもんとっておいたのかよ、自分」


 別に高校時代も楽しい記憶はなかったのに、意外と物持ちは良かったらしい。埃臭さ、カビ臭さに鼻を抑えつつも、ノートを開くと「ぶどう園の例え話」についても書いてあった。


 妙な例え話だ。とあるぶどう園が舞台だ。登場人物は長時間労働した先の者、仕事にあぶれ後に来た者、ぶどう園の主人の三人だが、おかしい。納得できないことが書いてある。先の長時間労働者と後から来た者が給料・待遇が全部一緒らしい。先の長時間労働の者は主人に抗議するが受け入れられない。それどころか「後の者が先になり、先の者が後になる」という言葉で締めくくられていた。


「意味不明……?」


 聖書も開き確認したが、よくわからない。当時も授業中、先生の牧師にブーイングが起きた記憶。


「しかし……」


 今は後に来た者の気持ちがわかる。仕事がなく、「誰も雇ってくれない」という言葉も聖書にある。その焦りは太郎にも想像できてしまう。後に来た者も夏休みの最後の日のような気分だったのだろうか。そんなことを想像していると、彼らにもちゃんと待遇したぶどう園の主人、かなり太っ腹。見た目の成果ではなく、人の気持ちが想像できるらしい。優しい。


 目元が潤んできた。こんな雇い主、一度も会ったことはないから。いっそ職にあぶれた者を誰でも雇うぶどう園でもあればいいのにと思うほど。


「あ、先生のメッセージも書いてある……」


 なんとなくノートをパラパラとめくると、先生の文字に気づく。当時、テストで赤点をとった太郎に励ましの言葉を送っていた。


「完璧を目指すのはやめなさい。それは神様しかできないこと。失敗してもいい。間違ってもいいから、とにかく勉強は続けてみよう。適当でいいんだから、か……」


 あのカード、もしかしたら先生が送ってきたのだろうか。それは謎だが、先生のメッセージを読んでいたら、子供部屋でずっと悩んでいるのは違う気がする。適当でいいんだったら、外に出てもいいじゃないか。


「そっか。完璧じゃなくていいんだな……」


 ふと顔を上げると、窓の外の柿の木が見える。冬の寒空も広がり、スズメの鳴き声も響いてる。そうだ、もう夏休みは終わってるのだから、一歩だけでも前へ進んでみたい。


 

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