将来と希望を与える
ニュースでは暖冬といっていた。実際、風はそう寒くもないクリスマスイブ。
「寒ぅ……」
絹井愛美は呟く。クリスマスの街を歩きながら、風が身に沁みる。元々冷え性ではあったが、転職活動が上手くいかない。年齢もアラフォー。サービス業と事務職の経験は積んでいたが、市場価値は低かったらしい。連日、お祈りメールが届いていた。
こうして心も身も冷え切ったまま、一人暮らしのアパートへ帰る。郵便受けを見ると、ピザやケーキのチラシが溜まっていた。それだけでウンザリしてきた。昨日はわざわざ郵送で「お祈り」されたし、どっと疲れてきた時だった。
「何これ?」
郵便受けにチラシ以外のものがあった。それはクリスマスカードだった。ツリーがデザインされ、派手なカードだ。赤と緑がキラキラしている。
「誰から?」
送り主はわからない。三毛猫文具店よりとあった。その横に猫のスタンプも押してあったが、変なデザイン。猫なのに、天使のような羽根がついてた。
変なカードだ。怪しい。イタズラかもしれないが、この猫は可愛い。元々、猫好きの愛美はうっかり部屋まで持ってきてしまった。それに丁寧に「絹井愛美様へ」ともある。手書きだ。どうも悪意や悪戯とは無縁な雰囲気だ。
暖房をつけ、ソファに座る。ようやく冷たさから解放された。目の前のテーブルの上には、昨日送られてきた「お祈り」も置いてあったが、この不思議なクリスマスカードは一体なんだろう。
「しかし、このカード……?」
カードの裏面、手書きのメッセージもあった。「わたしはあなたがたに将来と希望を与える。エレミヤ書 29:11」とあるが、どういうことか。この変な数字は何の意味があるかわからない。
綺麗な文字だ。丁寧に書いている。やはり悪戯には見えないが、将来と希望という文字を見ていたら、目の前がふにゃけてきた。
気づくと泣いていたらしい。将来とか希望とか、今の愛美には遠いものだったから。まぶし過ぎる。胸が詰まってしまったらしい。
この言葉、ネットで調べると旧約聖書の言葉らしい。文脈はわからない。どういう意味で語られた言葉かは不明だが、応募した会社から送られてきた「お祈り」よりは、まぶしく見えてしまうから、不思議。不思議なクリスマスカード。
悪戯の可能性も高いだろう。いくらクリスマスだからって宗教的なものには抵抗があるが、「誰か」から背中を押されている気がする。その「誰か」は目の前の暗い現実より、ちょっと遠くの未来でも見えているのだろうか。そんな気がする。
「ま、今日はクリスマスイブだ。転職活動も忘れてみるか」
さっき郵便受けにあったチラシで宅配ピザを注文した。ポテトやオレンジジュース、小さなケーキも一緒に頼んだ。
「来るの楽しみだな」
注文を終えると、楽しくなってきた。そうだ、今はまだ手元にないだけだ。ピザが届くのは決まってる。
今の状況もそうか。明るい未来は決まっているから、ただ安心していればいいのか。そんな気がするが。
再びあのクリスマスカードを眺める。誰が送ってきたのかもわからないが、じっくりと眺めていると、もう涙は出てこない。




