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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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19/40

身体の部分

 会社の事務室、誰もいない。部長も課長も他の社員も会議に出て行ってしまったから。


 そこで一人、紅緒きいはため息をつく。デスクも窓際にあり、一番目立たない場所。


「つまんね……」


 思わずため息がでる。きいは障害者雇用の社員だった。パワハラで鬱や適応障害が治らず、転職活動もなかなか進めず、三十過ぎて障害者雇用でどうにか復職できた。家族経営の化粧品関係の会社だ。事務職で、周囲はみんないい人だが、暇。


 配慮はしてもらっているので、仕事量もセーブされ、いわゆる社内ニートになってしまった。社員が会議に出てしまうと、やることもない。


 ここの掃き掃除は任されていたが、すぐに終わってしまい、やる気も出ない。一昨日は営業部の社員が「障害者雇用とか幼稚園児レベルの仕事だよねー」と笑っているのを聞いてしまったし、また鬱が悪化しそうで。


「うん?」


 その時、デスクの端に見慣れないものがあるのに気づく。


「は? 何これ?」


 1コリントの信徒への手紙 第一 12章14〜17節より


 14 体は一つの部分ではなく、多くの部分から成っています。

 15 足が、「わたしは手ではないから、体に属していない」と言ったところで、そんなことで体に属さなくなるわけではありません。

 16 また、耳が、「わたしは目ではないから、体に属していない」と言ったところで、そんなことで体に属さなくなるわけではありません。

 17 もし体全体が目であったら、どこで聞くのでしょう。もし全体が耳であったら、どこで嗅ぐのでしょう。


 ツリーのデザインは可愛いが、こんな長文のメッセージがついてる。意味がわからない。楽譜のような数字もわからない。


 誰か社員のイタズラだろうか。いじめ?


 やはり者障害者雇用ってそういう存在?


 そんな気もしたが、紙質はいいし、デザイン自体はいい。文字も綺麗で丁寧。だとしたら、悪意はなさそう。


「暇だし検索するか?」


 すると、聖書のことばと知った。教会のブログも引っかかり、これはキリスト教の共同体について言っている箇所らしい。目立つ人だけが素晴らしいのではなく、教会で事務や掃除をしてくれる人、笑顔だけで雰囲気をよくしてくれる人など全員大切な「キリストの体」だと表現されていた。地味に見える部分でも、欠けてしまうと「キリストの体」は機能しないらしい。


 ちょっと宗教は抵抗ある。でも今はクリスマス時期だ。そんな考えが心に残ってしまい、全く消えない。


「そっか……」


 このカードを見つめていたら、別に今の身分でも、雑用なような仕事が多くても、暇になっても、悪くないのかもしれない。そんな気がする。


 数日後、クリスマスイブだった。相変わらず営業部の社員に笑われていたが、どうでもいいかも。気にならなくなってきた。


 帰り、ケーキ屋に寄った。クリスマスケーキを買う。


 シンプルなケーキだ。スポンジ、生クリーム、イチゴで構成されているが、ふと、ケーキの箱、フィルム、底の銀紙も目についた。地味で目立たない部分だ。しかもケーキを食べ終えたら捨てられる部分だが、美味しく食べるためには絶対に必要。


「うん、このクリスマスケーキ美味しい……」


 目立たない部分に目を向けながら食べるケーキ、案外美味しい。元気が出てきた。もう仕事納めになるが、来年からも何とかやっていけそうだ。

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