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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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低くされている者

「スキマバイトさん! こっちのお皿もよろしく!」


 飲食店の裏側、想像以上に多忙だ。次から次へと皿、コップ、トレー、鍋、ミキサーなんかも洗い場に来るから、一秒でも休めない。


 三浦直哉、二十歳。和風レストランの洗い場で格闘中。しかもスキマバイトで。時給は最低賃金だったが、今日はクリスマスイブだ。次から次へと汚れものが来る。洗い場はお皿がたまりパンク寸前で、気が遠くなってくる。和食なので、小さな小鉢や小皿なども多い。まさに目が回る忙しさ。直哉の頬や額は汗で滲んでいく。心を無にしながら、仕事を続けるしかない。人手不足と言われている現場、想像以上の大変さだ。


 途中、バイトに怒鳴られたりしながらも、何とか今日一日分の仕事を終え、解放された。スキマバイトアプリでチェックアウトすると、これ以上ないぐらいの開放感がある。


 クリスマスイブの夜風、寒いが、洗い場で格闘した後は気持ちいい。


 もう深夜なので人もまばらだし、家の近所の住宅街はイルミネーションもなく、落ち着いたものだ。


 中学や高校はひきこもり、正直、人間関係はうまくない。それでも家はシングルマザーで貧乏だったし、今はどうにかスキマバイトで働いてる。底辺ってやつかもしれない。ネットでは底辺職ランキングというのが炎上していた。労働量の比べ待遇が悪い介護や保育、農業などが馬鹿にされ炎上中。それらの職業の擁護の声も大きいが、実際は人手不足なのだから、国民の本音は炎上側に近いのかもしれない。


「ハァ……」


 そんなことを思い出しながら、夜空を見上げる。遠くに小さな月が見えるだけ。だんだんと寒さも実感しはじめ、直哉の鼻も赤くなってきた。


「俺には華やかなクリスマスイブとか無縁だな……」


 母ですら遊びに出掛けていた。食事も昨日の残り物の味噌汁と冷えたご飯だけだろう。チキンもケーキもつい食べ逃してしまった。


 そしていつの間にか家のアパートの前につく、郵便受けにチラシが溜まっており、ウンザリしながらそれらを引き抜くが。


「何だこれ?」


 なぜかクリスマスカードが入っていた。赤と緑の派手な色合いだったが、送り主は不明だ。しかし、嫌な気持ちが全く湧き上がってこない。


 詩編138:6より

 主は高くいましても

 低くされている者を見ておられます。

 遠くにいましても

 傲慢な者を知っておられます。


 こんな変なことばも書いてあったが、直哉の名前が書いてある。三浦直哉様へ、と。


 丁寧な文字だった。スキマバイト中は一回も名前など呼ばれない。学生時代も変なあだ名をつけられ笑われていたのに。


「あぁ……」


 クリスマスカードを見ていたら、鼻の奥がつんとなり、視界がぼやけてきた。


 誰が送ってきたかはわからない。このことばも意味がわからないが、「誰か」は見ていてくれる気がした。クリスマスイブも孤独な底辺でも。

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