蛇のようにさとく、鳩のように素直に
クリスマスの起源は悪魔崇拝。元もミトラ教お祭りだった。クリスマスを祝う人は悪魔を讃えてるんだ。聖書にはどこにもクリスマスを祝えなんて書いていない!
……ということを主張していたら、すっかり周囲から浮いていた。鳥野奈々、四十二歳。主婦だったが、陰謀論にハマり、そこからクリスチャンにもなったのに、全然わかってくれない。
「お前、頭大丈夫? 突然そんなキリストとか言って、どこかに洗脳された?」
特に夫は理解がなくイライラする。ママ友に話しても変人扱いされ、居場所はSNSとオンライン教会しかない。
「本当世の中、バカばっかり。悪魔崇拝のクリスマスを祝うなんて」
そうSNSに書き込むと、いつもの仲間からいいねはつく。オンライン教会でも味方が多い。少し気が治ってきたが、特に夫は全然わかってくれない。
「それって迫害で悪魔の攻撃では?」
仲間からはそんな返事もついたが、何か違うような?
迫害といいうより、自ら招いているような気もするが、それが何かわからなくてスッキリしない。
そんな違和感が強まった時だった。パートの帰り、自宅の郵便受けを見たら、妙なカードが届いていた。クリスマスカードだった。赤と緑の派手な色合い。
「ふん、クリスマスなんてハロウィンやイースターと同じ悪魔崇拝だから。そんなの知らんし」
丸めて捨てようとした。どうせ美容院かエステの宣伝だと思ったし。
しかし、家に帰って捨てる瞬間、カードに何か書いてあるのに気付く。
「は? 聖書?」
しかも聖書のことばだった。それはクリスチャンの奈々にとっては大事なもの。捨てられない。
「蛇のようにさとく、鳩のように素直でありなさい。」マタイ 10:16より
何これ。どういう意味か。
送り主は不明だが、都市伝説サイトでは不思議なクリスマスカードの噂がある。神か天使が送ってくるクリスマスカードがあるらしい。あの都市伝説のこと?
首を捻りつつも、このカードを見つめる。確か、優しいだけでも賢いだけでもダメだという意味だった。両方持って初めてこの世の中で生きられると聞いたことがある。
このカード、捨てられなくなってしまった。確かにクリスマスの起源を知ることは蛇のように賢いことかもしれない。でも、それだけではダメ?
今、夫やママ友の関係が悪くなった意味、わかった気がする。たぶん、優しさ足りなかった。相手の立場を想像していなかった。
「た、確かに、普通の日本人にいきなりクリスマスは悪魔崇拝とか言っても伝わらないよな……。陰謀論好きな人なら効果あると思う。人によって違うのかな……?」
そう言えば聖書でのイエス・キリストは、向き合う相手によって癒し方を色々と変えていた。そうか、これか。自分に足りなかったもの、見えてきた気がする。
「よし、夫やママ友へも伝え方、色々考えて工夫してもようかな」
このカードを見ていたら元気が出てきた。誰が送ってきたかは不明。都市伝説でウワサされているように、見えない存在が送ってきたのかもしれないが、別にその謎は解けなくてもいい気がしていた。
「今日は夫の好物のすき焼き、作っちゃおうかな?」
SNSも見るのも、今日は少しお休みしてみよう。




