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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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はじめに言葉があった

 

「え、お前、ブスになった? っていうか太った?」


 クリスマスイブの前日、偶然、元カレに再会した。


 イルミネーションが輝く街の中、正直会いたくない。木下サチは思う。同じ大学で、同じサークルで、なんとなく付き合ったが、元カレは色々無神経。そうこんな風に思ったことを我慢できずに口にしてしまう悪癖があった。だから別れを切り出したのだが、相手は全く変わっていない模様。ため息がでる。


「どうでもいいでしょ。別れた彼女のことなんて」


 サチはこれ以上元カレと会話していても無駄だと思い、家に帰ることにした。


 元カレのことなんてどうでもいい。一ミリも関心が無いが、それでもイライラする。ブスとか太ったとか言われて喜ぶ女がどこにいよう。


 言葉はナイフだ。人を殺すこともできる。誹謗中傷で自殺する芸能人もいる。パワハラを受けて鬱になる人もいる。そんなことも思い出すと、元カレの無神経さに余計に憤る。


「あれ?」


 そんな気持ちのまま家についたが、郵便受けに見慣れないものがあった。クリスマスカードらしいが、送り主が不明。三毛猫文具店というハンコは押してあった。デザインもツリーやリースの絵が可愛いが、妙なメッセージも刻まれてる。


「何これ?」


 はじめに言葉があった。ヨハネによる福音書一章一節と書いてある。


「イタズラ?」


 その割にはカードのデザインもよく、文字も丁寧だ。悪意は見えないのが不思議。


 とりあえず、家に帰り、暖房をつけると、カードを眺めてみた。


「言葉かぁ……」


 たった今、元カレの言葉に傷ついたばかり。どういう意味かはわからないが、言葉は大事ってことだろうか。


「あ、この言葉! 確か聖書!」


 じっと眺めていたら思い出す。大学の宗教学の授業で聞いた。戦争や強引な布教ばかりしているキリスト教は嫌悪感を持ったが、教授はこの聖書の言葉を引用して、こんなことを言っていたのを思い出す。


「キリスト教では神の言葉、つまり聖書も言葉が絶対的です。言葉の宗教とも呼ばれているぐらいです。だから、彼らは人の言葉には傷つかない。確かに言葉は大事だが、神の言葉以上に強いものはないからね」


 教授の言葉を思い出し、改めてクリスマスカードを見つめた。確かに、元カレの言葉に傷ついたのも事実。でも、もし神の言葉が一番強いとしたら?


「あれ、元カレの言葉なんてゴミみたいなもの? 気にするだけ損ってこと!?」


 急に目の前が明るくなった気がする。そうだ、元カレの言葉など、全く意味がない。


 急に力が抜けてきた。そうか、気にするだけ損だと思うと、笑っていた方が絶対いい。


「うん、笑おう!」


 笑顔を作ると、もう元カレの言葉など全部忘れてしまった。

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