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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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あなたを愛している

 今年もクリスマスが近づいていた。暖冬のおかげか、あまり寒くはないが。


 早野明良は、クリスマスも仕事の予定だった。大学卒業後、いろいろな事業を手がけ、紆余曲折の末、今は自己啓発と自己理解をミックスした独自プログラムを提供し、書籍も発売予定だった。今も締め切りに追われ、自宅で仕事中だ。


「はー、つかれたなー。息抜きするか」


 明良はミニマリスト的なこともしていたので、部屋の中はスッキリと綺麗だ。殺風景とも言えるが、最近は動画配信も始めた。


 動画では本棚を背景にし、意識高そうな自己啓発を発信するつもり。キャッチコピーは「自分で自分を愛すると全てがうまくいく」というもの。実際、自分を理解し、自分を優しくし、自分を愛することで成功する法則を発信し、何万ものフォロワーがいる。動画配信も成功する気しかしない。大卒後、十年以上もクリスマスを犠牲にし、仕事漬けだった甲斐がある。


「しかし腹は減ったな」


 そんな明良だったが、食欲には勝てず、近所のコンビニへ。プロテイン系の飲料や栄養バー、サラダチキン、サラダを買って帰る。クリスマスのケーキやチキンも売っていたが、健康に悪そうだ。全く興味はない。


 その帰り、自宅の郵便受けも確認したが、ジムやピラティス、ヨガのチラシが入っていた。


「面倒だな、もうジム入ってるんだが」


 文句を言いながら、チラシを取った時、他にも何か届いているようだった。カードだった。しかもクリスマスカード。ツリーがデザインされたカードは派手だ。赤や緑で目がチカチカしそうだが、心当たりがない。


「なんだ、これは?」


 誰が送ったのかわからないが、猫のイラストのハンコも押してあった。しかも猫の背中には天使のような白い羽根まであるのだが。


「三毛猫文具店? なんだ、これは?」


 よくわからないが、捨てるのもちょっと怖くなり、そのまま自宅に持ち込む。暖房の電源を入れると、リビングのソファに座り、カードの裏面を見る。


 そこにはメッセージもあった。


「なんだ、これは」


 丁寧な手書きの文字だった。「わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している。イザヤ書 43:4」とある。


「意味がわからない」


 こういう時はすぐ検索だ。結果、旧約聖書の言葉とわかった。確かにクリスマスと聖書は関連が深い。すっかり忘れていたが、クリスマスはイエス・キリストの誕生日だった。


 さらに検索すると、都市伝説のサイトにあたる。不思議なクリスマスカードが届くという噂があるらしい。実際、このクリスマスカードとそっくりなものの画像も上がっていた。しかも、どこの文具メーカーでも製造していないクリスマスカードだ。三毛猫文具店というのも地図上にどこにも無いという。


「なんだ、その都市伝説は?」


 噂では神様か天使が送ってくるクリスマスカードと言われている。選ばれた特別な人にしか貰えないとか。


「いやいや、そんな非科学的な噂はないだろう。何かのイタズラだ。そうだ、カルトとか宗教の連中のイタズラだよ」


 口ではそう呟くが、なぜかこのクリスマスカードが捨てられない。それどころか「あなたを愛している」という言葉から目が離せない。まるでラブレターのような言葉。


 そういえば、ずっと自分で自分を愛そうとして一生懸命だった。仕事ではそうすれば上手くいくと語っていたが、実際、どうかはわからない。


 確かに今はそこそこ幸せだが、未来はわからない。子供の頃は死んだ後どうなるか、考えただけで眠れなくなった日々もある。


 大人になるにつれて、死後など忘れていったが、今でもその解決方法はわからない。死については自分を愛するだけでは解決できない。親や恋人からの愛だっていつかは尽きるんだ。


「そっか……」


 この不思議なクリスマスカードの送り主は不明だ。イタズラかもしれない。何のために送ってきたかは不明だが、たまには自分を愛するのを忘れてもいいかもしれない。


「クリスマスぐらいは、誰かに愛されてるって思ってもいいのかね?」


 当然、返事はない。その「誰か」もわからない。それでも、自分で自分を愛すること。案外、難しかったとも気づいてしまう。「誰か」に愛されていると感じた方が圧倒的に楽じゃないか。


 目の前の不思議なクリスマスカード。見つめながら、ゆっくりと息を吐く。今は、そんな気分に浸っても悪くない気がした。

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