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落下

掲載日:2025/10/17

目を覚ますと僕は、僕が暮らしているマンションの屋上の、柵の向こう側にいた。

一歩踏み出せば、落ちる。

そんな場面だった。


しばらく考えて、思う。

僕は今、落下死をしようとしている…?


でもどうして?

どうして今日死ぬつもりだったんだ?

そもそも、どうやってここまで来たんだっけ。


わからないことだらけだ。

でもきっと、死にたい衝動が僕にはあるのだろう。

だからここにいるんだ、きっと。


そう思った刹那、体が前へ傾いくのに気づいた。

死ぬ前の心の準備ができていなかったが、僕の脳は死ぬことを決心していたらしい。


そのまま抵抗もできず、頭を地面に向けながら、僕は落ちていく。

マンションの壁、自分の部屋を過ぎる。

すごいスピードで落ちていく。


だが、心は落ち着いていた。

なんなら少し興奮しているし、瞳は景色を楽しんでいた。

さっきは死にたい衝動に突き動かされ、怖かったはずなのに。


気がつくと、僕は空中で腕を広げていた。

鳥のように、蝶のように。

ジェットコースターの下り坂で、持ち手を離すかのように。


手で風を切りながら落ちていく。

耳に風を切る音が激しく流れ込む。


そして、もう間も無く地面だ。


でも、死に対する恐怖はない。

それなのに、なぜだろうか。

この時間が終わってほしくないと思う。

まだ落ちていたいと感じていた。


生きたい?

いや、違う。


ようやく気がついた。

僕は死にたかったんじゃなかった。

ただただ、一歩を踏み出したかったのだ。


僕は死にたい衝動に動かされたのではなく、空を飛びたい衝動に支配されていたのだ。




目を覚ますと僕は、僕が暮らしているマンションの一室の、ベッドの上にいた。

体を起こすと朝、学校へ行く時間。

そんな場面だった。


夢だった。

けれど、僕ははじめて一歩を踏み出し、空を飛ぶことができた。

そうだ、やっぱり僕は、空を飛びたかったんだ。

そんな幼い夢に、僕は気づいた。


そんなことを考えていたら、いつの間にか普段家を出る時刻が迫っていた。

そうして、急いで朝の身支度をし始める。


僕はもう一度、空を飛べるだろうか。

いや、まだ無理だ。


結局のところ、落下は恐ろしい。

今の僕は、飛ぶことを恐れている。

ジェットコースターの手すりに捕まっていたいと思う。


だからそうだな。

もう一度あの夢を追いかけよう。

今日の夜も、ぐっすり寝てやるんだ。


そうして身支度を終えた僕は、いつもの友人との待ち合わせ場所へ、一歩を踏み出した。




…もし夢で恐怖を感じなかったら


あの後はどうなっていたのだろう…。

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