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会議

「正直言って、ただの軍備増強と言われましても、指針がない状況では難しいと言わざるをえないかと」

ゆったりとしたソファーに腰掛ける魔王とテーブルを同じにしている4人の男の中で、エルフ耳の肌の黒い30代半ばぐらいの整った顔の男が難し気にこたえる。彼は軍務を担当する大臣である。


「確かに、相手がどの程度の規模の戦力を保有しているかもわからない現状、軍備に全力を・・・として、戦争にならなければ無駄になりますし、そもそも際限ない軍備拡張などもってのほかかと・・・」


そういって同じように難し気にこたえるのは狸のような耳を持った獣人の老人である。この国の首相であり、各大臣を束ねる立場であり、魔王の今回の議題の関係大臣を招集した者である。


「だが、ムタ、資料を見る限り、軍備計画はできていると思うのだが、これではだめなのか?」


魔王の言葉に軍務大臣のエルフは難しげに答える。


「それは暫定的に作った物ですから、資料にある通り、準備段階として40年のうちの20年は軍艦や航空兵器、戦車の量産より、施設に投じた方がいいでしょう。建造ドッグを増やすべきですし拡充する艦隊の整備用のドッグも確保しなければなりません。航空基地、それに工場もある程度作らないと、正直、そこまでは特に問題はないかと思われます」


そういってムタは小さく溜息をして続ける


「問題は仮想敵の出方が一切わからない事です。強いのか弱いのか、戦う気があるのか?その目的が外交的な勝利なのが完全支配なのか、あるいは殲滅なのか・・・ぶっちゃけて言いますと圧倒的に強くて殲滅が目的なら、地下にシェルター作るか大陸を捨ててどっかの島を開拓して逃げるか、そっちに金出した方がいいってことになります」


そういいつつ別の資料を配る。


「・・・結界は基本、生物や魔力は通れません。反面、水や物質は意外に通れるので海岸に流れ着いた。向こうの大陸のものを調査しました」


資料にはいくつかの写真にとられた日付、それが何なのかが書かれている。


「資料を見る限り、木造船がメインであり、おそらく帆船のものが多いと思われます。つまり造船技術という一点で見れば、こちらが勝っていること、造船技術から察するに、科学的な技術力はこちらが圧倒していると思われます」


「・・・問題は魔法、魔学といったか、これの発展度合いといったところか」


魔王が口をはさむ。それにムタはうなずき。


「むしろ我が国は魔学的な指針が示されなかったため、いえ科学の発展は初代様の元、発達し続け、魔学は科学の補佐をおこなう技術のようになっています。ですが、効率を考えないで純粋に魔学だけの技術で船を作れば、わが軍の軍艦と互角に戦えるという研究資料もあります」


「つまり・・・相手の技術力が分からない時点で油断するわけにはいかない。だが、機械技術では圧倒的にこちらが有利だからおそらくは互角以上に戦える。そう分析しているということか」


「ええ、そうなると問題は最初の相手がわからないことが最大の問題になります」


「・・・・・なるほど」


「私、いえ、首相としては軍務大臣の言うことはもっともだと思ってはおります。ですが、際限ない軍拡に繋がりかねなく、それによる負担をできる限り軽くするべきだと思っております。ですが、敵がわからない以上、削減すべきところもわからず。このまま国民の負担が増えていくのは問題だとおもわれる」


「ふむ・・・・内務大臣、それについて何か対策は?」


その問いにずっと黙っていた全身黒い男、擬人化した蟻のような男が答える。特撮で作った蟻の人間といった風体である。


「失礼、内務大臣から言わせてもらいますと、まず、人口の問題があります。予算をつけて工場やドッグを作るとして、働く人の確保がまず問題になるかと、そもそも軍拡するにも人がとられる。それについての対策として、繁殖力の強い人種に対して行っている。人数制限政策を早期のうちに緩和するべきかと、それに対して食料や教育機関の確保も急務です。こちらも20年規模の長期の計画でやる必要があるかとそのためには」


「・・・予算がかかると、そしてまた負担になるか・・・」


魔王は小さく溜息を吐く。


「なら初代様が定め、計上されてきた軍事特別予算を早期に使った方がいいな。確か法律では結界がなくなる10年前から使うという規定があるが、状況がそれを許さないだろう。首相はできる限り早期に規定を撤廃するように調整、確か当代の魔王の承認も必要だったか、その書類は今日中に提出する。予算の確保ができたらそれを基本にこの書類通りに、とりあえず5年はこの書類通りに進めてその後は、実のところ、相手の調査が可能だと判明した」


その言葉に閣僚たちから驚きの声が出る。


「勇者は結界を通れるように初代様は作ったらしい。自分が大陸を渡って必要なものをこちらに持ってくるためにそうしたそうだが、ゆえに私に流れる勇者としての力を込めた生命を作ればそれは結界を通れるだろうと、近衛府が判断したようだ。逆に言えば向こう側も勇者召喚をおこなえば調査できるのだろうが、あちらの勇者召喚はできないだろう。神のまねごとをした結果。道が閉じてしまったゆえに、初代様は帰れなかったのだから」


そういって魔王は小さく笑う。


「実はすでに人間型の私の分身も完成していてな。もうすぐにでも送り込める。私の分身だけあって、そこそこ抜けている無能だが、まあ調査ぐらいのことはできるだろう」


その言葉に、閣僚は何と言っていいかわからずあいまいに笑う。


「とりあえず期間は5年、その後は調査を待つ。それでいいな」


「おこころのままに」


閣僚全員の声がそろう。


「・・・私がここにいる理由がなかったですな」


近衛府大将のオーガの男が最後につぶやいた。


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