考える
目の前に箱がある。白い壁の手前の、白い電球に照らされた、白いテーブルの上の、黒い箱にピントが合う。その中に何がある。僕は考える。
目の前に箱がある。それは箱と言える。三つの面が見えている。上面と側面が二つ。箱と言うのなら上面は蓋である。僕は蓋を理解する。
目の前に箱がある。触れることはできない。すぐ目の前にある、透明なガラスの板にピントが合う。そして再び、黒い箱にピントが合う。僕の触れようとした指は、空中で静止する。僕は考える。
目の前の箱が振動する。白いテーブルの上で黒い箱が荒ぶる。中央から外れる。テーブルの淵までは、まだ遠い。箱は元の位置に戻される。その箱を動かしたアームにピントが合う。僕はアームを見失う。
目の前に箱がある。黒い箱は音を出している。僕は喉で音を真似る。
「ああぅええああぅええ」
とても似ている。僕は考える。
目の前にある箱が、アームに捕まる。アームは箱を持ち上げて視界の外に消えていく。ガラスの板の向こう側、この場所から見えない奥の方へ、黒い箱は連れて行かれる。僕は箱を見失う。
目の前に箱があった。白い壁の手前の、白い電球に照らされた、白いテーブルの上の、黒い箱は連れて行かれた。その中に何があったのか。僕は考える。
僕はピントを合わせる物が失くなって、何も見なくなる。頭の中にある、黒い箱にピントが合う。僕は黒い箱に触れる。僕は黒い箱を開ける。その黒い箱の中の小さい僕にピントが合う。僕は考える。
僕は、考える。白いテーブルの上に、黒い箱があった。僕は、見る。白いテーブルの上には、何もない。僕は、考える。本当に、白いテーブルの上に、黒い箱があったのか。僕は、見る。白いテーブルの上に、黒い箱はない。僕は、考える。