「私を甲子園に連れてって」とは言っていない
なんでや!○神関係ないやろ!
(意味:この作品はフィクションです。某球団とは一切関係ありません)
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私はあの日のことを後悔していた。
でも、傲慢だった報いとしては、まだ、ましだったかもしれない。でも、……
私は、控えめにみて魅力的な女性と思っているし、高校に入学してから3ヶ月で告白された回数が2桁を超えている事実からすれば、決してうぬぼれとも思っていない。
だから、傲慢になっていたのだろう。
私は、甲子園のスタンドで、母校の応援をしながら、あの日の事を思い出していた。
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その日、私を屋上に呼んだ相手は、同じ学年の別のクラスの生徒だった。
別のクラスでも相手のことを知っていたのは、急に丸刈りにした事が噂になっていたからだ。
彼は言った。
「母校が、この夏の甲子園に出場したらつきあってください」
私は、兄が野球をしていた関係で、野球に関する知識があり、この学校の野球部が、校名のような成績を繰り返し、毎年のように地方予選で初戦敗退を繰り返していることを知っていた。
だから、
「できるわけ、ないじゃん」
と、思わず口にしてしまった。
「なら、問題ないですね」
彼は、強引に約束を取り付けてしまった。
ひょっとして、彼が中学時代有名な選手の可能性があるのではと、すこしだけ心配したが、母校の運営に関与している兄に聞いたところ、母校にはそんな選手が入学したという話は聞いたことないと、即答された。
もっとも、一人だけ優れた選手がいても甲子園にいけるほど、地方予選は甘くないことを理解しているので、私は安心するとともに、約束のことなどすでに忘れてしまっていた。
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<地方予選の軌跡>
○1回戦 武刀葉高校
初戦の相手は、強力な打撃陣を擁し、甲子園出場できるのではと噂されるチームだった。
しかし、試合の3日前に、野球部員が他校へ傷害事件を起こした事が判明し、棄権を申し出たことで不戦敗となり、別の意味で噂となってしまった。
○2回戦 市立阿武三高校
実質的な初戦の相手となったのは、超高校級スラッガー竹安を要するチームで、周囲からも地方大会の台風の目となると期待されていた。
しかし、試合中に、選手の多くが、頭痛や嘔吐にさいなまれ、実力を出し切ることができなかった。
当初、集団食中毒が疑われたが、後日、部員の飲酒事件が発覚し、1年間の出場停止処分となった。周囲からは「野球でなく、飲酒で、我々を振り回すな」と苦言を呈された。
○3回戦 巣都学園
3回戦の相手は、県内一の進学校であるとともに、毎年のように初戦敗退していたチームだったが、今年、県外から強力な選手が多数入学してきたことにより、春の県大会で準優勝を果たした新鋭のチーム。今年の甲子園出場の対抗馬と目されていた。
しかしながら、当日、1年生のほとんどがベンチ入りすらしなかったことや、上級生、特に3年生達は大学受験を控え、ほとんど練習をしていなかったせいで、敗退してしまう。
1年生がベンチ入りしなかった原因は、1年生と上級生との対立がきっかけとの事。「対抗意識を燃やすのはほどほどに」という、痛い教訓となった。
○4回戦 瑞暮工業高校
堅実な守備と、機動力を生かした攻撃による「負けない野球」で、10年ぶりの甲子園出場を目指す、「古豪復活」を印象づける強豪校。
序盤から小刻みに得点を重ねるものの、4回途中で、脱水症状により倒れる選手が続出し、試合続行が不可能となったことから、途中棄権となった。
瑞暮高校監督が去り際に、「野球では負けてはいない」と言い残したのが、印象に残った。
○準々決勝 穂根織大学付属高校
プロ入りが期待されている、エース四十肩を擁しており、初の甲子園出場が現実味を帯びていた。しかし、練習投球中に、肩を壊してしまったことで、代わりの錨型投手が急遽出場させることになった。
代理の投手は、重圧に負けて失点を重ね、最後にサヨナラ負けを喫した。
後に、肩を手術により回復させ、プロ入りした四十肩投手はこの試合を振り返り、「錨型の肩に重い荷物を背負わせてしまい、試合を壊してしまった。申し訳なかった」と回想した。
○準決勝 原板ハイスクール
先発の竜頭・中継ぎの中興・抑えの尻上の3投手による完璧な投手陣により、甲子園の常連で今年の最有力校でもある、天成高校の打倒を目標とし、誰もが参加チームの中で2番手と信じられていた。
しかしながら、守備についた原板ハイスクールの選手たちが、内野ゴロを見ただけで、急におなかを抱え、苦しそうにうずくまるようになり、エラーが続出。試合は、激しい点の取り合いとなる展開が続き、最後は僅差で敗北となった。
当初は、昼食の仕出し弁当による食中毒かと思われたが、同じ弁当を食べた別の高校生には異変が見られなかったことや、医療機関の診断や保健所の検査でも、食中毒の要因とみられる成分が見つからなかったことで、原因は不明ということになった。
一部では、「ボールが転がるだけで笑う年頃だったから」とも噂された。
○決勝戦 天成高校
選手層が厚く、序盤・中盤・終盤ともに隙がない、甲子園の常連校。
今年も圧倒的な勝ち上がりを見せていたが、決勝戦当日に、選手とともに校舎ごと消失する事件が発生。
数日後、再び校舎及び選手が現れたものの、甲子園の日程上、再試合が行われることはなかった。
後日、救出された生徒達からの証言によると、「生徒が魔界を召喚した」、「雪の女王が現れた」、「砂漠と化した未来の世界だった」、「女神様に異世界に召喚された」、「テロリストが襲撃した」等、それぞれに食い違いがみられる。
現在まで原因が特定されていない。
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母校は、奇跡とも呼べる、いろいろな要因が重なり、甲子園に出場することになった。
甲子園の出場が決まった日、私は再び彼に呼び出された。
「では、約束どおりつきあってください」
「……。まあ、仕方ないわね」
私も、彼の約束を利用して、その後に別の人から受けた告白に対して、
「今、気になっている人がいるので……」
と、すべて断っていたからだ。
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でも、正直に言えば全く納得していない。本当に、納得していない。
なぜなら、……
「いやあ、さすが優勝候補だね。一つもアウトがとれないとは」
私の隣にいる彼が、試合の状況をつぶやいた。
なぜなら、彼は、予選を含め、これまでの試合、出場どころか、ベンチにすら入っていなかったからだ!
「まあ、しょうがないか」
彼がつぶやくと、
「じゃあ、終わらせにいくので、あとの支援をよろしく」
と、私の肩を軽くたたいてから、アルプススタンドから去っていった。
……彼につきあうのは、この試合だけにしようと思った。
でも、兄に怒られるかも、と、すこしだけ心配した。
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<全国大会の概要>
○甲子園1回戦3日目 第2試合 千羽海洋学園 33ー4 三神高校
春夏甲子園大会5連覇がかかる、史上最強との呼び声高い千羽海洋学園と、「実力は全くない」のに初の甲子園出場を果たし、「魔法か何かでも使われていたのではないか」と噂された、三神高校との一戦。
戦前の予想どおり、初回に、間に6四死球を挟む27連続安打(うち先頭打者本塁打をはじめとする本塁打3本を含む)という、打順が4巡する破壊的な連打により、大量得点を重ねた千羽海洋学園が、歴代最多得点及び最多得失点差により勝利を収め、連覇に向けて好発進した。
三神高校は、予選・甲子園を通じて初出場となった控えの真裳埜選手が、途中から出場し、27連続三振により一人も塁に出させない好投と、4打席連続連続本塁打により、一人だけ気を吐いたのが印象に残った。
○千羽海洋学園 朽手監督のコメント
「油断した訳ではないが、初回の得点がなければ完敗だった。気持ちを切り替えて、次戦に臨みたい」
○三神高校 割浮監督のコメント
「初の甲子園で、選手達は緊張していたが、精一杯戦ってくれたと思う」
「真裳埜は一度も練習に参加したことがなく、今回、初めて試合で使った。彼の実力を知っていれば、当然、先発で起用していた」
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注意!
当該文書には、認識阻害魔導が用いられています。
認識阻害内容解析中………
解析に失敗しました。
認識阻害防護装置、起動します………
起動しました。
以下の文書以降から、認識阻害魔導からの影響を排除しました。
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<解説>
○三神高校
全国で唯一の魔導科がある高校。
魔導技術研究者である校倉氏が魔導科の運営に携わっていた。
ただ、認識阻害魔導により、これまで秘匿されていた。
○認識阻害魔導
校倉宋一氏が提唱する、魔導技術の一つ。
彼は、魔法が体系化できない主要な要因として、特殊な力を持った人間でなければ認識できないと考えた。
そして、魔法が認識することができるために必要な理論を構築し、認識化するための基本的な技術を魔導技術として提唱した。
校倉氏が研究した結果、魔法が認識できない原因として、一般的な魔法の発動による反作用として、魔法自体の影響が、通常の人間からは認識できなくなってしまうことを主張した。
そして、認識化するための手法及びその応用により事象を任意に認識阻害させる手法を、魔導技術として確立したものをまとめて、「認識阻害魔導」と分類した。
校倉氏は、さらなる魔導技術を研究・実験するために、三神高校に魔導科を設立した。設立にあたり、研究への妨害を排除するために、認識阻害魔導により、一部の人間しか認識できないようにしていた。
しかしながら、疑惑の甲子園事件により、魔導科の存在が明らかとなった。
なお、第1期魔導科生徒には、弟で、魔導士の第一人者である校倉辰也がいる。
〇疑惑の甲子園事件
甲子園に出場した三神高校の選手の一人が、女性だった疑惑。
詳細については、「真裳埜 野乃」を参照。