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自己欲溢れるプロローグ

「悪いな、梅子、舞桜」


「滅相もございません」


「んだよ話って」


 夜も更けてきた頃、刃の部屋に舞桜と梅子が呼ばれた。


 刃は双方に視線を向けた後、テーブルに積まれている資料を片手に話を始めた。こんな時でも仕事が最優先だ。


「こんな時間になってしまいすまない。学の進路のことで話がある」


「なんでしょうか」


「学は高等部への進学を狙っているのか? それとも外部の学校か?」


「外部です。現時点では頴川学園を希望しています」


「頴川学園――流ノ佐(りゅうのすけ)が経営しているところか。それなら話を通しておくか」


「ジン様、それは止めてくれ。ガク様なら自分の実力で合格可能だ」


 舞桜の知る限り、テストの成績ではA判定を貰っている。いまのペースで勉強をしていれば落ちることはまずない。それに、コネで入学したなんて分かれば、学が精神的にダメージを受けると思ったのだ。


「そうなのか、梅子」


「私は学様のメイドではありませんからね。舞桜の言うことを信じるだけです」


 梅子は肩をすくめた。こういう時に彼女はアシストをしないのだ。自分の発言は自分で責任を持てということだ。梅子は実の娘に容赦がない。彼女は前職で《《実力がモノ言う世界》》にいた。ライバル達が脱落していく様を見ていれば、強くなれよと言わんばかりの教育方針には納得がいく。


「舞桜が言うなら、事実なのだろう。それなら学の自由にさせる」

 

「それなら、もう少し自由にさせてもいいか?」


「どういうことだ?」


「少し前から、ガク様が1人暮らしをしようと模索しているんだ。その許可を貰いたいと思ってな」


「……愚かなことだ。現時点でメイドに世話を焼かせているのに、1人暮らしがしたいのか」


「勿論、アタシもそれには反対なんだが、アタシと珠李の2人も一緒に住んで生活するのはどうだ?」


 刃は予想外の提案に深く息を吐いて唸る。


「……舞桜、あなたは一体何を企んでいるの?」


 さすがに梅子も驚いたのかいつになく真剣な眼差しで舞桜を凝視する。


「ガク様がジン様の後を継ぐことを嫌がっているのは知っていると思う。だが、会社を継ぐ選択をしなければならないことも分かっているんだ」


 実の両親を亡くし、中学生にして次期後継者としての苦悩を抱える日々を舞桜は見てきた。


「3年だ」


 舞桜はピン、と3本の指を立てる。


「入学から卒業までの3年間でガク様が本気で会社を継がせるように働きかける。その為の3人暮らしだと思ってくれ」


「大きく出たな」


「タケシ様と約束しちまったんだ。必ずガク様を立派な社長にするってな」


「……そうか。…………いいだろう」


 刃は資料から手を離し、ようやく舞桜に視線を向けた。


「その代わり、舞桜と珠李の2人が面倒をみることを約束できるか? オマエはともかく、珠李の人生をも棒に振る可能性すらある」


「珠李だって、犬星家に生まれた身だ。何をするべきか何が正しいのか理解しているさ」


「……よし。明日、その旨を学に伝えよう」


「悪いんだが、3人暮らしの件はアタシから出たことを伏せてくれないか?」


「構わないが何故だ?」


「別にどうだっていいだろそんなこと。そんじゃ、よろしく頼んだぜ!」


 舞桜はスキップをしながらご機嫌に部屋を出て行った。


「――ったく、シャルロットにそっくりだな」


 刃のボヤキに、梅子はノスタルジックに浸るようにして口角を上げた。


「私の母が生き返ったようで嬉しいのではないですか?」


「それは心臓に悪い。早死にしそうだよ」


 刃は心底嫌そうに頬杖を突いた。


「何はともあれ、学には会社を引き継いでもらわなければ困る。……プロジェクトアダムの行末を見届けて貰わねばならないからな」



CoD:MW

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